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シリカファイバ製、初の自己冷却レーザを開発

March, 29, 2021, Stanford--スタンフォードの研究者と協力チームは、レーザアプリケーション向けに初めて自己冷却シリカ光ファイバを開発し、直ぐにそれをレーザ増幅器にした。実世界での利用に向けた重要な一歩である。

研究チームは、赤外レーザ光で励起すると自己冷却するシリカ光ファイバを求めて数年に及ぶ苦闘を続けたが、成功に至らなかった。そのようなファイバは、外的に冷却する必要がなく、最も広く利用されるファイバとなる。理論的には、非常にピュアで安定した周波数のレーザベースデバイスになるはずである。

「非常に難しいことだが、レーザから熱を除去するのではなく、熱を発生させないことだ」とスタンフォード大学、応用物理学教授、Michel Digonnetは言う。

適切なシリカ素性を見つけるには、ポイントが非常に捉えにくいことが分かっていた。専門家の中には、仮に不可能とは言えなくても、この目標の達成は、非常に可能性が低いと考える者もいた。スタンフォードの院生、Jennifer Knallは、このファイバを見つけることは、一般に非常に可能性が低いと言う点に疑問を持っていた。ついに同氏は、シリカファイバ実験で自己冷却の初の兆候をつかみ、実験を重ねた。
「理論はしっかりしていた。だから、試験を続けた」(Knall)。

同氏は、もっと低いエネルギーの光を使って実験を繰り返すことを決めていた。エネルギーの差は非常にわずかだが、それが全てを変えた。スクリーン上の温度計測グラフに、落ち込みが見られた。
 同氏は、さらに6回、計測をやり直した。落ち込みは変わらない。Knallは、シリカ光ファイバが、光で励起されるときに冷却され、熱くならないことを目の当たりにした初の研究者となった。

「自己冷却シリカファイバレーザの温度は、変動しないので、放出する光の周波数とパワーも外部冷却のレーザと比べると、時間経過とともに安定している。これは、より安定した波長の光を放出する」(Digonnet)。

「突然、この素晴らしいアイデアが、ファイバ形態の最も一般的なレーザ材料に適用できるようになる、これは半年前なら思いつかなかったことだ」とDigonnetは話している。

Michel Digonnet教授と院生Jennifer Knallは、それぞれ2020年2月にOptics Lettersにブレイクスルーを発表。6月には、別の論文を発表した。これは、研究の改善法を探求したもので、新しい冷却記録を報告している。研究チームは、そのシリカファイバをレーザ増幅器に組みこんだ。最終的に、KigonnetとKnallは、大規模ハイパワーレーザアプリケーションで使えるように、そのファイバ増幅器がどの程度効率的に動作するかを明らかにする必要がある。

近い将来、このファイバは、低出力科学アプリケーションで非常に価値が高いことが証明される。加速、音響波、歪など物理的パラメタの高精度計測の収集である。

冷却を維持
このブレイクスルーの重要性を評価するために、レーザについて簡単な事実を理解しなければならない。レーザは、それが生み出す光の強度と単色性の点で特別である。ファイバベースのレーザは、混沌とした、スペクトル的にブロードな“励起”光を高純度単色光に変換する。しかし、レーザ光を生み出すプロセスで、ファイバベースのレーザは、全てのレーザと同様に、望ましくない仕方で熱くなる。この問題は今では、大きな水冷システムを加えることで解決されている。しかし、これは別の有害効果を産む。自己冷却シリカファイバは、よりクリーンなレーザ光になり得る。

この冷却形式は、ファイバに添加された希土類イオン(イットリウムなど)が低エネルギー光を吸収し、次にわずかに高いエネルギーレベルで光を放出する際に起こる。このプロセスは、アンチストーク蛍光として知られており、ファイバ温度の低下となる。しかし、これは、シリカでは難しい。励起されたイットリウムイオンからのエネルギーがファイバ内の不純物に飛びつき、「濃度消光」として知られるプロセスで熱としてエネルギーを放出するからである。:研究チームは、少なくとも理論的にはそれを知っているが、シリカのレーザ冷却に適切なファイバ素性がなければならない。

「課題は、急冷効果なしに可能な限り多くのイットリウムをホストする材料を見つけることだった。イットリウム濃度が低すぎると、冷却は小さすぎる。高すぎるとイオンはその冷却効率を失う。その二つの拮抗効果のバランスをより高い濃度に押しやるガラス素性を見つける必要があった」とDigonnetは話している。

紛れもなく有用
最初のブレイクスルー以来、研究チームは、さらに2つの自己冷却シリカファイバ素性を見つけた。また、Knallは冷却ファイバ増幅器を作る最高性能の候補を使った。同氏は、ファイバ長に沿って負の平均温度変化を維持しながら40倍以上にレーザ光を増幅することができた。冷却テストは、シリカでレーザ冷却が可能であることを証明しているが、このファイバ増幅器は、紛れもなく実用的に有用であることを示している。

現在、チームは、ファイバに注入したエネルギーの4%程度を抽出する。このため、最初にこの低い効率を高めることなしに、そのファイバをハイパワーアプリケーションに適用することはありそうもない。しかし、チームはより低いパワーのアプリケーション、高精度計測、あるいは計測科学などで極めて安定なレーザに多くのチャンスがあると見ている。

「この技術をどこまで持って行けるかは、研究者がその材料科学をどの程度押し進められるかにかかっている。これは、氷山の一角に過ぎない」とDigonnetは話している。