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Science/Research 詳細

ダイヤモンド量子センサ、室温で感度を維持しつつ計測範囲を低温従来値の100倍に

January, 15, 2021, 京都--京都大学化学研究所の水落憲和 教授、E. D. Herbschleb 同特定助教、産業技術総合研究所の加藤宙光 主任研究員らの研究グループは、新たな独自アルゴリズムを用い、リンドープn型ダイヤモンド中のNV窒素―空孔)中心量子センサによる磁場計測において、既存のダイナミックレンジを桁違いに広げることに成功した。このダイナミックレンジは、単一NV中心を用いた量子センサとしては世界最高値。

今回の単一NV中心を用いた結果を踏まえると、NV中心の数を増やした集団の計測では高感度化により更なる広いダイナミックレンジを実現できる。他の超伝導量子干渉計や光ポンピング磁力計などの超高感度センサの中には、ダイナミックレンジが非常に狭いセンサもある。今回考案した手法はパルス手法を用いた他の量子センサにも適用できるので、量子センサの計測範囲を、感度を維持しつつ広げた今回の成果は、量子センサの応用環境を広げる成果として期待される。また、測定対象物との間の相互作用の大きさは距離に大きく依存するため、今回の成果は測定空間の領域を広げることにもつながると期待される。

NV中心は高感度な量子センサとしての応用が期待されているが、従来の量子センサでは、高感度化とダイナミックレンジを広げることを両立することに難点があった。今回、パルス間隔の異なるパルス系列を組み合わせ、それをベイズ推定によるアルゴリズムにより最適化することにより、高い感度を維持しつつ、室温における単一NV中心において7桁程度のダイナミックレンジを実現した。これは単一NV中心の低温(8 K)における最高報告値より、2桁も広い値。また、パルス間隔の異なるパルス系列を組み合わせた研究では、測定時間に対する感度の依存性が古典での限界を超えるようにも見られる結果も報告され、学術的に関心が持たれていたが、今回、研究チームは、この現象についてもシミュレーションにより現象の解明を行った。
 研究成果は2021年1月12日に英国の国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。

(詳細は、https://www.aist.go.jp)