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THz磁気測定、磁性状態の超高速変化を追跡

December, 22, 2020, Berlin/Zurich--国際物理学チームが、物質の磁束の超高速変化を計測する精密な方法が開発された。研究チームは、そのような磁化変化に必然的にともなうテラヘルツ放射を観察することでこれを計測できる。研究成果は、Nature Communicationsに発表された。

磁気メモリは磁気ビットのサイズをどんどん縮めることによってますます容量が向上するだけでなく、高速にもなって行く。原理的に、磁気ビットは「反転」可能である、それは状態を‘1’ から ‘0’へ、その逆に変えることができる。1psよりも短い、極めて高速のタイムスケールである。これによりテラヘルツスイッチング周波数で磁気メモリの動作が可能になる。

 この研究のリーダー、Bielefeld大学物理学教授、Dr Dmitry Turchinovichは、「実際の課題は、磁化変化を素早く、感度良く検出できることである。高速時期測定の既存方法は、ある重要な欠点に悩まされている。例えば、超高真空条件下でのみの動作、カプセル化した材料で計測できないこと、などである。われわれのアイデアは、電気力学の基本原理を利用することだった。それによると、材料の磁気変化は、電磁放射とならなければならない。この磁気変化の完全な情報が、それに含まれている。材料の磁化がタイムスケールピコ秒で変化するなら、放射線はテラヘルツ周波数範囲にあるはずである。問題は、この放射、“磁気双極子放射”が非常に弱く、他の源泉からの光放射によって簡単に埋もれてしまうことである」と論文の筆頭著者、Ph.D学生、Wentao Zhang説明している。「時間はかかったが、最終的にわれわれは、この磁気双極子テラヘルツ放射を正確に分離することに成功した。これによりわれわれは、われわれのサンプルで超高速磁化ダイナミクスを高信頼に再建できた。カプセル化した鉄ナノフィルムである」。

実験では、研究チームは、レーザ光の極短パルスを鉄ナノフィルムに送り、迅速に消磁させた。同時に、そのような消磁プロセス中に放出されたTHz光を収集した。このTHz放出の分析から、鉄フィルム内の磁性状態の正確な時間的発展が得られる。

「われわれの分析が終わると、実際、期待以上のものを見たことが分かった。レーザ光を照射すると鉄は素早く消磁できることはすでにわかっていた。しかし、われわれが見たものはかなり小さいが、磁化ダイナミクスにおける極めて明確な付加的信号であった。この信号は、鉄の消磁から来たものである。実際、サンプルを透過する高速の音の脈動の伝搬によって起きたものである。この音はどこから来たか。簡単に言うと、鉄フィルムがレーザ光を吸収したとき、それは消磁しただけでなく、熱くもなった。分かってることだが、ほとんどの材料は、熱くなると膨張する。鉄ナノフィルムのこの膨張が、われわれのサンプル構造内にTHz超音波パルスを出したのである。この音波パルスはサンプル界面間、内部と外部で前後に跳びはねた、大きなホールの壁の間のエコーのようである。このエコーが鉄ナノフィルムを透過するたびに、その音圧が鉄原子をわずかに動かした。これが、さらに材料内の磁気を弱めた」とDmitry Turchinovichは説明している。この効果は、これまで、そのような超高速時間尺度て観察されたことはなかった。

「この音響駆動超高速磁化信号を、非常に明確に見ることができ、それは非常に強かった。鉄フィルムの膨張がわずか数10フェムト秒だったので、THz放射でそれの検出が極めて有効であったことは驚きである」とUppsala大学物理学教授、Dr Peter M. Oppeneerはコメントしている。また、Dr. Pablo Maldonadoは、この研究の観察の説明に重要な数値計算をし、次のように話している。「実験データとわれわれの最初の原理的理論計算とがほぼ完全に一致していた。このことは、われわれの超高速THz磁気測定の実験法が非常に正確であり、十分に感度がよいことを示している。われわれは、異なる源泉、電子と音響からの超高速磁気信号を明確に区別できたからである」と話している。
(詳細は、https://ekvv.uni-bielefeld.de)