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超低消費電力のポラリトンレーザ

June, 9, 2014, Ann Arbor--ミシガン大学(University of Michigan)の研究チームは、光と物質の世界をまたがるポラリトンのような不安定な粒子で、コヒレントレーザ的なビームを作る新しい、実用的で、潜在的に高効率の方法を実証した。
 これは初めてのポラリトンレーザと見られており、光ではなく電流を供給することで動作する。また、0℃以下ではなく、室温で動作する。
 このような特徴により、このデバイスはこれまでに開発された数少ないポラリトンレーザの中で最も実用に近い。研究チームによると、1960年代早期にほとんどのタイプのレーザが発明されてから、今回の成果は、この分野では前例のない画期的なできごとと言える。初めてのレーザは1950年代に作製されたが、その技術が立ち上がったのは、半導体バージョンが出て、光ではなく電気で駆動するようになってからである。
 今回の成果により、レーザをコンピュータ回路に使用して配線を置き換える研究が前進し、より小型で強力なエレクトロニクスが実現できるようになる。また、医療機器や治療などでも用途が考えられる。
 研究チームは特定の用途を念頭にそれを開発したのではなかった。従来のレーザが発表されたときに、レーザがどのように広く普及するかは誰も想像がつかなかった。今日、レーザは、インターネットやCATVを可能にする光通信に使われている。DVDプレイやにも、眼科手術ツール、ロボットセンサ、防衛技術などにも用いられている。
 ポラリトンは、一部光であり、一部物質。ポラリトンレーザは、これらの粒子を利用して光を放出する。従来のレーザよりもエネルギー効率がよいと予想されている。この新しいプロトタイプは、同じ材料でできた従来のレーザと比べると消費エネルギーが250倍少ない。
 同大学工学部教授James R. Mellor氏は「過去50年、コヒレント光を作るのにレーザに依存してきたかが、今は全く新しい原理をベースにした別のものを手に入れた」とコメントしている。
 電気工学・コンピュータサイエンス、Pallab Bhattacharya氏の研究チームのシステムは、技術的にはレーザではない。LASERとは、Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光増幅)の頭文字。ポラリトンレーザは放射を誘導放出しない。ポラリトンの散乱を誘導する。
 一般的なレーザでは、信号を増幅するように設計されている利得媒体に光か電流を注入する。励起が始まる前に利得媒体の中のほとんどの電子のエネルギー状態は最も低い、つまり基底状態にある。光か電流が電子を叩くと、電子はそのエネルギーを吸収して、より高いエネルギー状態に上がる。あるポイントで、低いエネルギーレベルの電子よりも高いエネルギーレベルの電子の方が多くなる。これを「反転分布」になったと言う。
 ポラリトンレーザは、このような反転分布に依存しないので、電子を励起するために必要な初期エネルギーはあまり多くない。「しきい値電流は非常に小さく、これが極めて魅力的な特徴になる」とBhattacharya氏は言う。
 研究チームは、適切な材料、固く透明な半導体GaNと独自の設計とを組み合わせ、ポラリトンが形成されて発光を促す制御された環境を維持した。
 ポラリトンは、フォトンとエキシトン(電子-ホールのペア)の組み合わせ。電子は負に帯電しており、ホールは技術的には電子の欠如であるが、正に帯電しているかに振る舞う。エキシトンは、適切な条件下でのみ光子と融合する。光や電流が多すぎると、エキシトンの速すぎる崩壊となる。しかし過不足無しであれば、ポラリトンが形成され系のまわりを飛びはね、最終的にはBhattacharyaがコヒレントプールと言う、最も低いエネルギーレベルで静止する。ポラリトンは、減衰し、その過程で単色光ビームを放出する。
 研究チームが実証したビームはUVで、非常にローパワー、1Wの100万分の1以下だった。因みに、CDプレイヤーのレーザは1Wの約1000分の1。
 研究チームが採用したデザインによって、光ではなく電気駆動のビーム放出が可能になった。電流を系に注入するには、電極でGaNといくつかのミラー層をサンドイッチにして電気信号を使えるようにしなければならない。このアプローチでは、電極をミラーの外側に置いた。Bhattacharya氏によると、そのような状況で、信号を使えるレベルの強さにすることは難しい。そこでサンドイッチを分解し、ミラーをGaN側において電極をトップとボトムに残した。
 論文”Room Temperature Electrically Injected Polariton Laser,”(室温電気駆動ポラリトンレーザ)は、online in Physical Review Letters on June 10に掲載される。