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MIT、ハイパワー、ポータブルTHzレーザ開発

November, 30, 2020, Cambridge--MITとウォータールー大学(University of Waterloo)の研究チームは、量子カスケードレーザ(QCL)のハイパワー、可搬バージョンQCLを開発した。これは、実験室の外でテラヘルツ放射を生成できる。そのレーザは、皮膚ガンを正確に示す、隠された爆発物を検出するなどのアプリケーションで利用される可能性がある。

これまで、リアルタイムイメージング、迅速なスペクトル計測を実行できる強力なTHz放射の生成は、200K以下を遥かに下回る温度が必要だった。このような温度は、大きな装置をでのみ達成可能であり、その技術の利用を実験室設定に制限していた。Nature Photonicsに発表された論文で、MITの電気工学、コンピュータサイエンス著名教授Qing Huのチームは、開発されたテラヘルツQCLは、250 K (-10 F)までの温度で機能する、つまりコンパクトなポータブル冷却器が必要なだけである、と説明している。

テラヘルツQCLsは、微小なチップ組み込み半導体レーザデバイスであり、2002年に初めて開発されたが、200K以上での動作は非常に難しいことが証明されていた。Huによると、その分野の多くの人々が、それができない基礎物理学的理由があると考えていた。

レーザは、長さがわずか数ミリメートル、人の髪の毛よりも薄い、井戸とバリアを慎重にカスタム設計した量子井戸構造。構造内では、電子が一種の階段を「滝」のように落ち、各段で光粒子、つまりフォトンを放出する。

Nature Photonicsの論文の説明の1つ、重要なイノベーションは、レーザ内のバリアの高さを2倍にして、高温で増加する傾向がある現象、電子の漏れを防ぐこと。

「われわれの理解では、バリアを超える電子の漏れはキラーであった」。低温槽で冷却しないと、システムを崩壊させる。「したがって、われわれは漏れを防ぐためにバリアを高くした、これがブレイクスルーの決め手になった」とHuは説明している。

以前、高いバリアは時々検討されたが、Huによると、結果はよくなかった。有力な意見は、高くしたバリアに関連する電子散乱の増加が有害であるというもので、したがって、高いバリアは回避すべきものだった。

研究チームは、高いバリアのバンド構造の正しいパラメタと、その設計の概念的に新しい最適化を開発した。

このイノベーションは、ある構成によりレーザ動作を維持する「直接的フォノンスキーム」と組み合わせていた。そこでは、各モジュール、つまりその構造の階段のステップのより低いレーザ発振レベルでは、フォノン(振動するエネルギー単位)が基底状態に散乱することにより、電子の数が迅速に減少する。これが、今度は、次のステップの上位への電子注入として働き、そのプロセスが反復する。そのシステムにおける電子のそのような配置は、レーザ発振が起こるための基本であり、1916年にアルバート・アインシュタインが初めて考え付いた。

「これらは非常に複雑な構造で、量子井戸とバリアとの間に15000程度の界面がある、その半分は、7原子厚層でさえない」とウォータールー大学ナノテクノロジーEndowed Chair、電気コンピュータ工学教授、論文の共著者、Zbig Wasilewskiは説明している。「これらの界面の品質と再現性は、テラヘルツレーザの性能にとっては極めて重要である。最高のMBE成長機能と、量子デバイスモデリングおよび製造におけるMITの専門知識を統合することで、THzフォトニクスのこの困難な領域で、そのように重要な進歩を達成した」。

医療設定では、新しい可搬システムは、コンパクトなカメラとディテクタを含み、電源があるところならどこでも動作可能なシステムである。、通常の皮膚がんスクリーニング、あるいは皮膚ガン組織を切除する外科手術中でもリアルタイムイイメージングが可能である。ガン細胞は「テラヘルツでは極めて劇的に顕れる。これは正常な細胞よりも水と血液の濃度が高いからである、とHuは話している。

その技術は、多くの産業分野にも適用可能である。製品内の異質な物体の検出で、その安全性と品質を確認する必要がある場合である。

ガス、薬剤、爆発物の検出は、テラヘルツ放射の利用で特に精緻になる。例えば、水酸化物、オゾン破壊物質などの化合物は、THz周波数域に特別な「フィンガープリント」を持つ、メタンフェタミンやヘロインを含む薬剤、またTNTを含む爆発物などと同様である。

「光学的に不透明な物質を通して物体を見ることができるだけでなく、われわれは物質の特定もできる」(Hu)。

UCLA電気コンピュータ工学教授、Benjamin Williamsによると、その新しい研究は、将来の前進への道を開く。「MIT/ウオータール―の成果は、重要である、250Kでの動作を実証したからである、それは室温ではないが、この成果は、さらなる改善に実際的なチャンスがあることを示している。言葉を変えると、この分野で活動しているすべてのグループにとっと、すでにゲームは始まった」。

Huは、クーラーなしで強力なTHzを生成できる目標への「明確な道」が見通せる、と考えている。

「ダイレクトフォノンスキームと、より高いバリアを使うことは、前進するための方法である」と同氏はコメントしている。
(詳細は、https://news.mit.edu)