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Science/Research 詳細

テラヘルツ光が姿を変えて水中を伝わる様子を観測

November, 2, 2020, 東京--量子科学技術研究開発機構(量研)量子ビーム科学部門関西光科学研究所の坪内雅明上席研究員、理化学研究所(理研)光量子工学研究センターの保科宏道上級研究員、大阪大学大学院基礎工学研究科の永井正也准教授、大阪大学産業科学研究所の磯山悟朗特任教授らの研究チームは、パルス状のテラヘルツ光を水面に照射すると光音響波が発生し、テラヘルツ光の届かない水中にまで、エネルギーが効率良く伝わることを発見した。

 テラヘルツ光は、周波数1テラヘルツ(波長~0.3 mm)領域の電磁波として医薬品や高分子材料の分析、また透過イメージングによる検査等に応用されている。一方で、テラヘルツ光は水に非常に良く吸収されるため、水に照射しても表面で全て吸収され、水中への作用はないとこれまでは考えられていた。今回、研究チームは大阪大学産業科学研究所の自由電子レーザによって発生させたパルス状のテラヘルツ光を水面に照射する実験を行い、水中に起こる変化を可視化することに初めて成功した。その結果、テラヘルツ光は、水の表面のごく薄い領域(10 μm程度)で吸収され、プラズマ生成等の破壊的な現象による周囲への影響を起こすことなく光音響波を発生し、その音響波によってテラヘルツ光自体の届かない6 mm以上の深さにまで指向性良くエネルギーが伝わることを明らかにした。

 今回の発見は、テラヘルツ光を水に照射するだけの極めて簡便な方法で、周辺への影響を最小限に抑えながら水中の物質に非接触でエネルギーを与えることのできる新たな技術となる。既に研究チームは、この技術により生体細胞内に存在するアクチン繊維を、細胞死を招かず切断することに成功している。従来の機械的超音波発生法に加えて、テラヘルツ光を用いた非接触な発生法が新しく生まれることで、医療診断や治療など様々な応用が考えられる。また、水中環境下で細胞やDNA、高分子材料等を非接触で操作するといった、生命科学や材料開発等への応用が期待される。

研究成果は『Scientific Reports』(M.Tsubouchi, H. Hoshina, M. Nagai, and G. Isoyama)に掲載された。
(詳細は、https://www.qst.go.jp)