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Science/Research 詳細

グラフェンデバイス動作中表面電位のピンポイント測定に成功

May, 30, 2014, Tokyo--東北大学電気通信研究所の吹留博一准教授・末光真希教授らのグループは、東京大学他のグループと共同で東京大学放射光アウトステーションBL07LSU(SPring-8)にある三次元ナノESCA装置(空間分解能70nm)を用いて、動作中のグラフェン電界効果トランジスタ(GFET)の狙った場所の電位をピンポイントで測定する技術の開発に初めて成功した。
 ポストシリコン材料の一つであるグラフェンはシリコンと異なる物性を有するため、GFETは実用化が困難だったが、今回の測定技術はGFETの精密なデバイス設計を可能にするものであり、GFETの実用化を大きく前進させた。
 炭素の二次元物質であるグラフェンは、Siの100倍以上のキャリア移動度を有し、かつ、熱的・化学的にも安定な物質。2020 年頃に終焉を迎えるSi集積回路に代替となるポストシリコンデバイス材料の1つとして、全世界で開発競争が行われている。しかし、その基本デバイスであるグラフェンを活性層として用いた電界効果トランジスタ(GFET)の開発はまだ実現していない。グラフェンはシリコンとは大きく異なる物性を有しているため、シリコン集積回路で用いられてきた動作原理や設計技術をそのまま用いることが出来ない場合があり、精密なGFETの開発には、動作中の電位分布を高精度に(ナノスケール)測定する必要がある。
 研究グループは、動作中のGFETの電位を狙った場所でピンポイントで測定する3D nano-ESCA解析技術の開発を行った。3D nano-ESCAは、光電効果を用いて物質中のフェルミ準位(≈電位)の測定を可能にする走査型光電子顕微鏡であり、世界で唯一100nmを切る高い空間分解能と200meV以下の高いエネルギー分解能を併せ持つ装置。
 今回は、3D nano-ESCAの試料ホルダに特殊な加工を施して測定室外部から独立に5端子に電圧印加、電流測定できるようにし、試料をFETデバイスを動作させながら測定出来るように工夫した。この結果、GFETの狙った場所に直径70nmの放射光を照射して電位(フェルミ準位)を測定することに世界で初めて成功した。
今後は、「デバイス作製プロセス・デバイス評価と今回の測定技術を組み合わせることにより、基本に立ち戻った精密なGFET応用研究を展開していく。さらに、企業との共同研究を積極的に行い、世界最初のGFETの実用化をめざしていく」と研究グループはコメントしている。

(詳細は、www.tohoku.ac.jp/またはApplied Physics Express (APEX)オンライン論文)
 (研究グループの構成: 尾嶋正治特任研究員(東京大学放射光連携研究機構・名誉教授)・長汐晃輔准教授(東京大学大学院工学研究科)・堀場弘司(東京大学放射光連携研究機構(現 KEK 物質構造科学研究所))・永村直佳助教(東北大学多元物質科学研究所))