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Science/Research 詳細

プリンストン大学、ペロブスカイトの不安定性の原因を解明

August, 14, 2020, Newcastle--プリンストン大学化学学部、Gava Groupの研究者は、無機ペロブスカイトにおける不安定性の理由を解明した。ペロブスカイトは、高効率太陽電池実現の可能性があるため幅広い注目を集めている。

プリンストン大学で単結晶X線回折、ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory)でX線対分布関数測定を利用してプリンストン化学学部の研究チームは、ハロゲンペロブスカイトヨウ化セシウム鉛(CsPbI3)の熱力学的不安定性源は、無機セシウム原子と結晶構造内のその「ラトリング」(rattling:ガタガタ鳴る)挙動であることを見出した。

X線回折により、この動きの明確な実験的特徴が現れた。
研究成果は、Advanced Materialsに発表された。

ポスドク研究者、Gava Groupの研究助手、論文の筆頭著者、Daniel Strausの説明によると、セシウムは、150K以下の温度で、その構造内の単一サイトを占める。175Kを超えると、それが2サイトに「分かれる」。他の構造パラメタとともに、これは、そのヨウ素配位多面体内のセシウムのラトリング挙動の証拠を示している。

加えて、少ない数のヨウ化セシウムは構造内で接触し、高度の局所八面体歪も不安定性に寄与する。

研究では、単結晶計測が、その材料の平均構造を特徴づけた。ブルックリンでは、X線対分布関数により研究者は単位格子の長さスケールでその構造の挙動を計測した(単位格子とは、結晶内の最小反復ユニット)。高度な八面体歪が明らかになったのはこの局所レベルにおいてである、とStrausは説明している。

CsPbI3の室温準安定は、かなり前から知られていた要素であるが、これまでは説明がつけられていなかった。

「学会の非常に多くの人々が関心を持っている問題の説明を見出したことは素晴らしいことである」とRussell Wellman Moore Professor of Chemistry、化学教授、Robert Cavaはコメントしている。

「飛躍的な」効率
現在、太陽エネルギー変換アプリケーションにおける優勢なハロゲンペロブスカイトは、メチルアンモニウムヨウ化鉛ベースである。これは有機/無機ハイブリッド材料で、太陽電池に組み込まれており、25.2%の効率が認められている。つまり、商用シリコン太陽電池に匹敵する効率である。この「素晴らしい」効率が関心を駆り立てるが、メチルアンモニウムヨウ化鉛は、有機陽イオンの気まぐれな性質が原因とされる不安定性に悩まされている。この問題を補正するために、研究者は有機陽イオンを不安定性が非常に少ない無機セシウムで置き換えようとしてきた。

しかし、メチルアンモニウムヨウ化鉛とは違い、セシウムヨウ化鉛のペロブスカイト相は室温で準安定である。

「変更を加えていないセシウムヨウ化鉛で太陽電池を作りたいなら、これへの対処、この材料の安定化は非常に難しい。このセシウム原子がいささか小さすぎるという事実に対処し、それを安定化させる方法を見出さなければならない。CsPbI3を化学的に改良しようとした方法がいくつかあり、またそれらは有効である。しかし、このバルク材料に手の込んだことをしないでそれから太陽電池を作ろうとすることは無駄である」。

論文における詳細な構造情報は、CsPbI3のペロブスカイト相を安定化させ、したがってハロゲンペロブスカイト太陽電池の安定性を改善する方法を示唆している。論文は、ハロゲンペロブスカイトの安定性予測で許容因子モデルの限界も明らかにしている。

ブルックヘブンLab
対分布関数計測として知られる技術は、原子間の距離分布を記述する。これは、プリンストン大学研究チームにとって、不安定性のさらなる理解に役立った。National Synchrotron Light Source IIで、ブルックヘブンの Pair Distribution Function (PDF)ビームラインを利用し、第一線のビーム科学者、Milinda Abeykoonは、熱力学的に不安定なCsPbI3サンプルに取り組んだ。これは、ドライアイスで満たされたコンテナ内部で複数の封止ガラスキャピラリで、Cava Labから同氏が受けとったものである。

Abeykoonは、「PDFビームラインで利用できる高輝度X線ビームと大型ディテクタにより、サンプルが劣化する前に300K以下の複数温度でサンプルを計測することができた。X線ビームがサンプルから跳ね返る時、それは材料の原子配列のパタン特性を示す。これによりわれわれは、原子スケールで起こっていることだけだけでなく、一回の計測で一般に、その材料がどのように振る舞うかも見ることができる」と説明している。

(詳細は、https://chemistry.princeton.edu)