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ワシントン大学、レーザで半導体材料の固体冷却

July, 2, 2020, Washington--ワシントン大学(UW)の研究者によると、レーザは物質の冷却にも使える。物質を冷却できるレーザは、バイオイメージングから量子通信までの範囲に革命を起こすことになる。

2015年に同大学研究チームが、レーザを使って水や他の液体を室温以下に冷却できることを発表した。同じチームが、同様のアプローチを使って全く異なるもの、固体半導体を冷却した。Nature Communicationsに発表された論文によると、チームは赤外レーザを使って固体半導体を少なくとも20℃、室温以下に冷却した。

デバイスはカンチレバーである。そのカンチレバーは、特定周波数で振動、室温の熱エネルギーに反応して振動できる。このようなデバイスは、理想的なオプトメカニカルセンサになる。つまり、その振動はレーザによって検出できる。しかし、そのレーザはカンチレバーも過熱するので、カンチレバーの動作を抑圧する。

「歴史的に、ナノスケールデバイスのレーザ過熱は、隠れた大きな問題だった」とUW材料科学・工学教授、Pacific Northwest National Laboratory.シニアサイエンティスト、Peter Pauzauskieは言う。「われわれは、共振器の冷却に赤外レーザを使っている。これによりそのシステムの干渉、つまりノイズが減る。固体冷却の方法は、オプトメカニカル共振器の感度を大幅に高め、そのアプリケーションをコンシューマエレクトロニス、レーザや化学装置に広げ、さらにフォトニック回路など、新たなアプリケーションに道を開く」。

その成果の可能なアプリケーション範囲は広い。共振器の性能向上とその冷却に使用する方法の両方のためである。半導体共振器の振動は、機械的センサとして役立っている。加速、質量、温度、様々なエレクトロニクスにおける他の特性を検出できる。加速度計は、スマートフォンが向いている方向を検出する。干渉を減らすと、これらのセンサの性能が向上する。加えて、センサの冷却にレーザを使うことは、センサ全体を冷却しようとするよりもセンサ性能改善に的を絞ったアプローチとなる。

実験セットアップでは、微小なリボン、シリコンブロックから突き出した硫化カドミウムのナノリボンが、室温で自然に熱振動する。

ナノリボンの先端に、特殊タイプの不純物、イッテルビウムイオンを含む微小なセラミック結晶を取り付けた。その結晶に赤外レーザビームの焦点を合わせると、その不純物が結晶からの微量エネルギーを吸収して、励起したレーザ波長よりも短い光で輝く。この「ブルーシフト光」効果がセラミック結晶と、それが付着している半導体ナノリボンを冷却した。

「これらの結晶は、冷却効率を最大化するように、イッテルビウムの特殊濃度で注意深く合成されている」とUW分子工学博士課程学生、Xiaojing Xiaは説明している。

研究チームは、レーザが半導体をどの程度冷却しているかを2つの方法で計測した。まず、ナノリボンの振動周波数の変化を観察した。

「ナノリボンは、冷却後、堅く、もろくなる、曲げや圧縮に対する耐性が強くなる。その結果、ナノリボンの振動周波数が高くなり、レーザがその共振器を冷却したことを検証した」(Pauzauskie)。

チームは、結晶から放出される光が平均して長波長側にシフトしたことを観察した。レーザパワーが強くなり、これは冷却を示していた。

これら2つの方法を用いて、研究者は、共振器の温度が室温よりも20℃低下したと計算した。冷却効果は1ms以下で起こり、励起レーザがオンになっている限り続いた。

研究チームによると、その方法には他の潜在的アプリケーションがある。単一ウイルス粒子など、物体の質量を正確に計測するために共振器の振動変化を使い高精度科学計測の中核を形成できる。固体コンポーネントを冷却するレーザは、電子システムの重要コンポーネントが過熱しないようにする冷却システムの開発にも使える。

(詳細は、https://www.washington.edu/)