コヒレント特設ページはこちら

Science/Research 詳細

将来の光トランジスタに向けたプラットフォームを実証

May, 21, 2020, Saint Petersburg--ナノフォトニクス領域の主要研究グループが、将来の光コンピュータのキーコンポーネント、光トランジスタ開発を目指して活動している。
 これらのデバイスは、電子の代わりにフォトンで情報処理するので、熱を減らし、動作速度を高める。しかし、フォトンはうまく相互作用しない。これはマイクロエレクトロニクスエンジニアにとって大きな問題となる。ITMO Universityの研究グループは、フォトンが他の粒子と結合し、相互作用を可能にするプレーナシステムを作製し、この問題に新たなソリューションを発表している。実験で実証された原理は、将来の光トランジスタ開発のプラットフォームとなるものである。研究成果は、Light: Science & Applicationsに発表された。

現代のデジタル世界の主要素子、トランジスタは、制御された電子の動きによって機能する。電流を使って、PCs、スマートフォン、TVs、その他多くのデバイスで情報を処理、コード、伝送する。この方法は何十年も利用されているが、いくつか欠点がある。まず、電子デバイスは仕事をすると加熱する傾向がある。これは、エネルギーの一部が浪費され、実際の仕事に利用されないという意味である。この加熱に対処するために、デバイスに冷却器を装備する必要があり、したがってさらなるエネルギー浪費になる。2番目に、電子デバイスは処理速度に限界がある。

これらの問題の一部は、電子の代わりにフォトン、光粒子を使うことで解決可能である。情報エンコードにフォトンを使うデバイスは、熱の発生が少なく、省エネで高速動作である。これは、まさしく世界中の研究者が光コンピュータ分野で研究活動をしている理由である。とは言え、光トランジスタの作製は容易ではない。トランジスタの電子を簡単にフォトンに置き換えられないからである。

ITMO大学首席研究フェロー、Vasily Kravtsovは、「問題は、フォトンが電子と違って、相互作用しないところにある。だから、1つのフォトンが他をコントロールすることがない。フォトンのみに基づいたトランジスタの設計が非常に難しい理由は、それである」と説明している。

世界中の研究者が、フォトンが相互作用するように「訓練」する様々な方法を提案している。これらの方法の1つのアイデアは、フォトンと他の粒子を結合することである。ITMO物理学・工学部の研究グループは、新しい効率的実行を実証した。ここでは、フォトンが、単層半導体のエキシトンと結合する。その研究は、シェフィールド大学(University of Sheffield)と協力したメガグラントフレームワーク内で行われた。

「エキシトンは、物質における素励起である」と論文の共著者、Vasily Kravtsovは言う。「電子が励起されると、エキシトンが形成され、後に空虚な原子価結合、つまり電子ホールが残る。これは、原子核のように、プラスに帯電している。電子とホールは相互作用して一種の原子、つまりエキシトンを生成する。エキシトンは双極子モーメントを持つ。簡単に言うと、それらは負極と陽極をもち、他のエキシトンとの相互作用を可能にする。それらをフォトンと強く結びつけると、ポラリトンが得られる。ポラリトンは、一部は光である。つまり、それらを使って高速に情報を転送できる。しかし同時に、それらは非常によく相互作用する」。

ポラリトンは正攻法に見える、またわれわれが必要な全てはポラリトンベースのトランジスタを作ることである。

とは言え、簡単ではない。これらの粒子が、その相互作用力を維持しながら、十分に長く存在するシステムを設計する必要がある。

光トラップ、
ITMO物理学・工学部研究室では、ポラリトンは、レーザ、導波路、それに極薄ジセレニドモリブデン半導体層を利用して作られている。

3原子厚半導体層は、ナノフォトニック導波路上に配置されている。その表面に極細グルーヴ(溝)の精密ネットが刻まれている。これらエキシトンは、光粒子と結合してポラリトンを形成する。ポラリトンは、こうして導波路のグルーヴネットに一時的に固定される。

「導波路は、光トラップを形成するために、特別な方法で構造化されている」と論文の共著者、Fedor Benimetskiyは説明している。「対向する2つのミラーセットを考える。一定条件で、特定波長の光が、それらの間にトラップされる。われわれの場合、導波路がこれら2つのミラーの役割を果たす。光が半導体を透過する時、ポラリトンが形成され、それは同時に光粒子でありエキシトンでもある。導波路の形状により、これらハイブリッド粒子は比較的長く“生き”ている」。

この方法で造られたポラリトンは、相対的に長い時間存在するだけでなく、特別に高い非線形性を持つ、つまり積極的に相互作用する。

Vasily Kravtsovは、「われわれは、これら粒子の高非線形挙動を実証できた。言い換えると、ポラリトンとポラリトンの相互作用であり、それらは相互に散乱して離れる。われわれはそのようなシステムの最高非線形性を計測した。それによってわれわれは光トランジスタ実現に近づいた。われわれ今では、100 nm厚以下のプレーナプラットフォームを持つ。これはチップに統合できる。非線形性はかなり高いので、強力なレーザは必要でない。小さな赤色光源で十分である。それもチップに組み込める」。

しかし、当面、チップ設計について話すことは時期尚早である。新しい研究が進行中である。研究チームは今度は、室温動作が可能なことを実証しなければならない。これまでのところ、実験は120℃で行われた。さらに、システムでポラリトンの寿命をさらに延ばすことも重要である。
(詳細は、https://news.itmo.ru)