December, 9, 2019, 和光--理化学研究所(理研)開拓研究本部加藤ナノ量子フォトニクス研究室の石井晃博特別研究員(理研光量子工学研究センター量子オプトエレクトロニクス研究チーム特別研究員)、加藤雄一郎主任研究員らの研究チームは、カーボンナノチューブの発光における「暗い励起子」から「明るい励起子」への変換メカニズムを明らかにした。
研究成果は、カーボンナノチューブの発光効率向上やカーボンナノチューブ単一光子源の性能向上につながると期待できる。特に、カーボンナノチューブ単一光子源は、室温で動作する通信波長帯の光子源であるため、小型化や長距離伝送に向いており、量子通信への応用が注目されている。
カーボンナノチューブにレーザパルスを当ててエネルギーを与えると発光するが、そのとき明るい励起子と暗い励起子が生成される。明るい励起子は明るく発光してすぐに消滅するが、暗い励起子はその後もしばらく残り、その一部が明るい励起子に変換されることがある。暗い励起子は発光にほとんど寄与しないことから、数パーセント程度というカーボンナノチューブの低い発光効率の一因だと考えられてきた。しかし、暗い励起子は光を出さないために直接観測することができず、詳しい性質は分かっていなかった。
今回、研究チームは、原子の並び方(幾何構造)を決定したカーボンナノチューブを用いて、時間分解測定により暗い励起子の挙動を系統的に調べた。その結果、暗い励起子から明るい励起子への変換効率を定量的に求めることに成功し、変換効率は長いナノチューブほど高くなることが分かった。さらに、明るい励起子へ変換される速度は幾何構造に依存すること、暗い励起子の50%以上を明るい励起子に変換できることを実験的に示した。
研究成果は、『Physical Review X』のオンライン版に掲載された。
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