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JILAの新技術、量子技術を低温から解放

September, 20, 2019, Washington--原子、あるいは他の量子系に取り組むとき、物理学者の中にはそれらを低温に保つものもいる。一般にそれが都合がいいとしても、地球は温かい場所である。
 サイズが小さいにもかかわらず原子は情報を持ち、情報を運ぶ能力があるので、量子センシング、計測、情報処理の有望なプラットフォームになる。しかし、量子ドット形式の人工原子も情報をエンコードでき、その量子ドット内の情報は光でコントロールでき、これらの新しいアプリケーションにとって魅力的になる、と JILA院生、RaschkeグループのMolly Mayは説明している。
 とは言え、それは扱いにくい。量子ドットと原子は、その環境に対して急速に情報を失う傾向があるので、素早く正確に扱う必要がある。つまり、一般的には、極低温で扱う。極低温は原子を隔離し、原子とその環境との相互作用を阻止する。これにより、扱いやすくなり、コントロールが容易になる。
 さらに原子のコントロールと扱いが極低温に限られるなら、原子の潜在的なアプリケーションをラボの外で利用することが難しくなる、とJILAフェロー、Markus Raschkeは言う。現在JILAではRaschkeグループとメリーランド大学の研究者による前進が量子ドットを低温の外に持ち出し、室温で精密制御ができるようにした。
 Raschkeグループは、8ナノメートル(nm)径程度の量子ドットに取り組んでいる。
 量子ドットに情報を書き込むとは、そのエネルギーレベルを基底状態から励起状態に変えることに関わる。光を作る小さなエネルギーパケットであるフォトンは、量子ドットあるいは原子と強く相互作用(結合)する時にエネルギー準位を変える。
 しかし量子ドットや原子と比較すると、光、特に可視光は波長が非常に長く、量子ドットのほぼ100倍である。その結果、量子ドットとの相互作用は非常に弱い。量子ドットのエネルギーレベルを励起するには、つまりそれに情報を書き込むには、光の照射時間を長くする必要がある。
 しかし、時が経つにつれて、原子の運動と結合がその励起を同調からずらし、他の原子や分子に衝突したり、単に内部プロセスにする。その位相デコヒレンスが原因で原子は、その情報を周囲環境に失う。
 これに対処するには2つの方法がある。1つは、高真空、極低温で扱うこと、通常数マイクロケルビンで扱い、その移送デコヒレンス相互作用の可能性を下げる。それには、ラボで複雑な冷却技術が必要であり、それは必ずしも理想的とは言えない。
 もう1つの選択肢は、光をその波長よりも小さな空間に押し込むこと、理想的には量子ドットのサイズに匹敵するサイズである。金属ナノ構造で作られたナノスケールアンテナを使うと、光ナノキャビティを造れ、光をより小さな空間に押し込められる。しかし、そのようなキャビティは静的である。Mayの説明では、ドットをヒットすること、しないことのいずれかになる。つまり、キャビティのチューニング、相互作用の制御はできない。
 室温で取扱い、量子状態を制御するために、Mayは光AFMに注目した。これは、JILAですでに利用されている技術であり、10nmの針のような金の先端をツールとして使い光を微小空間に圧縮する。このような小空間は、量子ドットとの強い相互作用に必要である。
 その金先端を照射すると、光は先端の狭い領域に集中し、光ナノキャビティを作る。量子ドットサンプルはチップ先端の近接場にあり、その微小ドットと相互作用できるほどに小さい。
 「それは、電話のアンテナのように機能する、チップのナノキャビティが、われわれが照射した光を集め、それを微小スポットに集光させる」(May)。
 AFMは、ここでチップが動き回れるという利点をもっている。したがって、Mayはチップを量子ドット近くに原子精度で近づけることができる。強力な結合が、チップと量子ドットの極短距離で始まる。それが起こるとチップとドットは効率よく情報を交換し、ピンポンボールのようにフォトンを前後に動かす。
 「量子ドットに近づけば近づくほど、結合が始まるのが分かる。それは非常にうまく機能しており、実に、これまでになかったことである。われわれは、実際に、相互作用を最適化できるのである」と同氏は説明している。
 AFMを使った強力な結合効果により研究チームは、量子ドットとの相互作用をリアルタイム、リアル空間で調整、制御、イメージングできる。わずか1原子径でもチップを引き戻すと、信号は弱くなる。近づけると、信号は強くなる。

冷却から解放
 光を使って、単一の量子ドット、あるいは原子のエルギーレベルを読み、書きできることは、いくつかの新しい量子技術への有効なステップである。例えば計測やセンシングツール。極低温からの解放は、これらのツールをラボから出して、広範なアプリケーションでの利用に役立つ。
(詳細は、https://jila.colorado.edu)