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フォトニックチップスケール狭線幅レーザ

June, 14, 2019, Santa Barbara--UCSB研究チームは、要求の厳しい科学的アプリケーションをチップスケールにする発光能力を持つレーザを開発した。
 ほぼ完全なシングルカラーの光を生成する能力のお陰で、精密なハイエンド科学および商用アプリケーションの核心にはスペクトル的にピュアなレーザが存在する。レーザの能力は、その線幅、つまりコヒレンスで計測される、これは周波数が変わるまでの一定の時間幅で、一貫した周波数を放出する能力である。

 実際、原子時計など、ハイエンドシステム向けに、極めて干渉性の高い、単一周波数に近いレーザを造るためには、研究者は、どんな労苦も惜しまない。今日、しかし、これらのレーザは大きくて、装置のラック全体を占めるので、研究室のベンチトップをベースにしたアプリケーションに追いやられている。

 ハイエンドレーザの性能をフォトニックマイクロチップに移行させる動きがある。その技術を幅広いアプリケーション、分光学、ナビゲーション、量子コンピュテーションや光通信などに利用できると、コストとサイズは飛躍的に縮小される。インターネットの爆発的なデータ容量要求、その結果、データセンタやその光インタコネクトの世界的なエネルギー消費の増加によってもたらされた課題に対処するために、チップスケールでそのような性能を達成するには、長い時間がかかる。

Nature PHotonicsの記事で、UCSB、Honeywell, Yale および Northern Arizona Universityの研究者は、この追求で大きな成果を報告した。1Hz以下の基本線幅で発光するチップスケールレーザについて説明している。これは要求が厳しい科学的アプリケーションをチップスケールにできるレベルである。同プロジェクトはDARPAのOwIG戦略の助成を受けている。

 大きな影響を与えるには、この狭線幅レーザは、光のコンピュータマイクロチップに相当する、フォトニック集積回路(PICs)に組み込まれなければならない。PICsは、商用マイクロチップファウンドリーで、ウエファスケール製造可能である。「今日まで、フォトニックチップスケールでこのレベルのコヒレンスと狭線幅のクワイエットレーザを作製する方法がなかった」とUCSBの電気・コンピュータ工学部教授、チームリーダー、Dan Blumenthalは言う。現行世代チップスケールレーザは本質的に雑音が多く、相対的に線幅が大きい。これら高品質レーザの微小化に関連する基礎物理学内で、新たなイノベーションがその機能を必要としていた。 

特に、DARPAは、チップスケールレーザ光ジャイロ実現に関心を持っていた。GPSなしで位置認識を維持する能力にとって重要であるので、光ジャイロは、ほとんどの商用航空機を含め、精密位置決めとナビゲーションに利用される。

レーザ光ジャイロスコープは、重力波ディテクタ相当の長さスケール感度を持つ。重力波ディテクタは、これまでで最も精密計測できる測定器である。しかし、この感度を達成する現在のシステムは、大きな光ファイバコイルを含んでいる。OwIGプロジェクトの目標は、回転センシング素子としてのレーザを置き換え、光ジャイロスコープの他のコンポーネントともさらに集積できる、ウルトラクワイエット(狭線幅)チップスケールレーザの実現であった。

Bluenthalによると、そのようなレーザを構築するには、可能な方法は2つだ。1つは、レーザを光レファランスにつなぎとめることである。光レファランスは、環境的にアイソレートされ、真空に収容されなければならない。これは、現在の原子時計と同様である。レファランスキャビティと電子フィードバックループは、レーザをクワイエットにするための拠り所として機能している。しかし、そのようなシステムは大きく,高価で、消費電力が大きく、環境外乱の影響を受けやすい。

 もう1つのアプローチは、外部キャビティレーザの作製である。そのキャビティが狭線幅レーザの基礎物理学要件を満たす。これには長時間数十億のフォトンを保持し、非常に高い内部光パワーレベルのサポートも含まれる。伝統的に、そのようなキャビティは大きく、高性能を維持するために利用されてきたが、レファランスキャビティで安定化されたレーザの線幅に近づく線幅でキャビティをチップに集積することが容易でないことは明らかである。

 この制約を克服するために、研究チームは、レーザ構築に誘導ブリルアン散乱(SBS)として知られる物理現象を利用した。

「われわれのアプローチは、光と物質の相互作用のこのプロセスを利用する。ここでは、光が物質内部に、健全な、つまり音響的な波を実際に作る。ブリルアンレーザは、極めてクワイエットな光の生成ではよく知られている。それは、ノイズの多い励起レーザからのフォトンを利用することで実現する。つまり音響波を生み出すためである。音響波は、新しいクワイエット、狭線幅出力光を生成するためのクッションとして働く。ブリルアン過程は、極めて効果的であり、入力励起レーザの線幅を100万倍縮小する」とBumenthalは説明している。

 難点は、大きな光ファイバセットアップ、つまりブリルアンレーザ実現に従来利用された微小な光共振器が環境条件の影響を受けやすく、チップファウンドリー法を利用しての製造が難しいことである。

「われわれのサブHzブリルアンレーザをフォトニック集積チップで造るための決め手は、UCSBで開発された技術を利用することであった。極めて低損失で、光ファイバに匹敵する導波路で作製された光集積回路である。これらの低損失導波路は、チップ上にブリルアンレーザリングキャビティとなり、成功のための要素である。導波路は、チップ上に極めて多数のフォトンを蓄積でき、光キャビティ内で非常に高い光パワーレベルを取扱い、モノレールのレールのように導波路に沿ってフォトンをガイドできる」。

 低損失導波路と急速に減衰する音響波の組合せにより、音響波をガイドする必要がなくなる。このイノベーションは、このアプローチ成功のカギである。
(詳細は、https://www.news.ucsb.edu)