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Science/Research 詳細

TU Wien、ランダム・アンチレーザ

April, 10, 2019, Wien--レーザのコンセプトは時間逆転できる。完全な光源は、今度は完全な光アブソーバになる。TU Wienの研究チームは、ランダム散乱に基づいて、そのようなアンチレーザを構築する方法を見いだした。
レーザは完璧な光源である。エネルギーを供給されると、特定の明確に定義された色の光を生成する。しかし、正反対の生成も可能である。つまり特定の色の光を完全に吸収し、ほぼ完璧にエネルギーを消散する。
TU Wienでは、この効果を活用するために一つの方法が開発された。光波があらゆる方向にランダムに散乱する非常に複雑なシステムでも、これは可能である。その方法は、コンピュータシミュレーションの助けを借りてTU Wienのチームが開発し、ニース大学の協力で実験的に確認された。これは、科学や工学の波動現象が重要な役割を担うあらゆる分野で新たな可能性を開く。その新しい方法は、Natureに発表された。

波を吸収するランダム構造
「複雑な方法で散乱される波は、実際にいたるところにある。モバイルフォーンの信号は、携帯電話に届くまでに何度も反射される。この多重散乱は、いわゆるランダムレーザの実用的利用によるものである。そのような新種のレーザは、ランダムな内部構造をもつ不規則な媒体をベースにしている。これは、エネルギーを供給されると、光を捉えて、非常に複雑で、システム特有のレーザ場を放出する」とTU Wien理論物理学研究所のStefan Rotter教授は説明している。

数学的計算とコンピュータシミュレーションにより、同教授のチームは、このプロセスが時間逆転も可能であることを示すことができた。ランダムな内部構造に基づいて特定の波を放出する光源の代わりに、完全なアブソーバを作ることも可能である。それは、内部構造に応じた色と空間パタンで入力する波を完全に消す。このプロセスを考える最も簡単な方法は、レーザ光を放出する従来のレーザを示す映画の観点から、それをプレイバックすることである。

「レーザに対するこの時間逆転アナロジーのために、そのようなアブソーバはアンチレーザと呼ばれている。これまで,アンチレーザはレーザ光が反対側から来る1D構造でのみ実現された。われわれのアプローチは、遙かに一般的だ。2Dあるいは3Dの任意に複雑化された構造でさえ、適切に調整された波を完全に吸収できることをわれわれは示すことができた。こうして、この新しいコンセプトは、はるかに広いアプリケーションでも利用可能となるのである」とStefan Rotterは説明している。

完全な波アブソーバ
研究プロジェクトの主要な成果は以下の通りである。十分に強く波を吸収する全てのモノにとって、一定の波面が見つかる。それはこの対象物によって完全に吸収される。「しかし、入ってくる全ての波を吸収する力強さがあるからと言って、これがアブソーバについての全てだと考えるのは間違いである。それどころか、この効果は、複雑な散乱プロセスによるものである。そこでは、入力波は多くの部分波に別れる。次に、これらの波のどれも端面から出力できないように、それらが重なり、相互に干渉する」とStefan Rotterは説明する。この意味で、アンチレーザで使われるアブソーバは、むしろ弱い。例えば、電磁波を吸収する単純なアンテナが、すでに効果を挙げているようなものである。

計算をテストするために研究チームは、ニース大学と協力した。マイクロ波実験で理論を実行することが目的である。
研究室で構築した「ランダムアンチレーザ」は、中央に吸収アンテナを持つマイクロ波チャンバでできており、その周りにテフロンシリンダをランダムに配置して囲っている。水の波が逸らされる、水たまりの石と同様、これらのシリンダはマイクロ波を散乱させ、複雑な波動パタンを作ることができる。「われわれは、まず外部から同システムにマイクロ波を送り、どの程度正確にそれらが戻るかを計測する。この知見により、今度はランダム構造の評価ができ、適切な吸収力で中央のアンテナで完全に吸収される波面を計算できる。実際、この手順を実験で実施すると、入力信号のほぼ99.8%の吸収が確認できた」と、論文の筆頭著者、Kevin Pichler氏はコメントしている。

アンチレーザは、まだ初期段階であるが、潜在的なアプリケーションは容易に考えつく。例えば、携帯電話信号を正確に正しい方向に調整すると、これにより携帯電話のアンテナで信号が完璧に吸収される。あるいは医療では、波のエルギーを特定点に供給することがある。例えば、衝撃波で、腎臓結石を打ち砕くような例である、とStefan Rotterは話している。