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AIとNMR分光学、記録的短時間で原子構成を決定

November, 1, 2018, Lausanne--スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)研究チームは、実験と組み合わせて、粉末固体における原子の配置を記録的短時間で決定するマシンラーニング(ML)アプローチを開発した。その方法は、数千の原子を含む複雑な分子に適用でき、製薬業界には特別な関心事となる。
 今日、多くの薬剤は、粉末固体として製造される。しかし一度体内に入った活性成分の振る舞い方を十分に理解するには、研究者は正確な原子レベルの構造を知る必要がある。例えば、分子が結晶内に配列される仕方が複合物の特性、溶解性などに影響を与える。したがって研究チームは、マイクロ結晶粉末の正確な結晶構造を簡単に特定できる技術の開発に精力的に取り組んでいる。
 EPFLチームは、原子が印可磁場にどのように反応するかを記録的短時間に予測できるマシンラーニングプログラムを作成した。これは、核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定法と組み合わせて、複雑な有機化合物の原子配置を正確に判断できる。これは、製薬会社にとって非常に大きな利益になる。製薬会社は、患者の安全要件を満たす分子の構造を慎重にモニタしなければならないからである。研究成果は、Nature Communicationsに発表された。

AIで驚速化
 NMR分光法は、原子間の磁気プロービング、隣接原子の相互作用の仕方を判断するための高効率の方法。しかし、NMR分光法による結晶構造の完全判定は、量子化学にかかわる、非常に複雑な,時間のかかる計算を必要とする。非常に複雑な構造の分子には、ほぼ不可能である。
 しかしEPFLが開発したプログラムは、こうした障害を克服できる。研究チームは、構造データベースから取った分子構造に基づいてAIモデルのトレーニングを行った。「比較的簡素な分子でも、このモデルは既存方法と比べてほぼ10000倍高速である。より複雑な化合物を考えると、この利点は途方もなく大きくなる」EPFL工学部、コンピュータサイエンスとモデリング研究所長、研究の共著者、Michele Ceriottiは話している。さらに同氏は、「約1600原子の結晶のNMRシグネチャを予測するには、われわれの技術-ShiftML -は、6分程度かかるが、同じ作業は、従来技術では16年かかる」と説明している。
 
 新しいプログラムにより、完全に異なるアプローチを使うことができ、より高速に、より大きな分子にアクセスできる。「これは実に素晴らしいことだ。計算時間の途方もない加速によりわれわれは、著しく大きな配座空間をカバーでき、以前にはできなかった構造を正確に判定できる。これにより、ほとんどの複雑な現在の薬物分子に手が届く」とEPFL基礎科学部、磁気共鳴研究所長、Lyndon Emsleyはコメントしている。
 このプログラムは,現在、無料でオンライン利用可能。「誰でも分子をアップロードし、わずか数分でNMRシグネチャが得られる」とCeriottiは話している。