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東芝ケンブリッジ研究所、都市間安全通信の限界を再定義

May, 25, 2018, Cambridge--東芝リサーチヨーロッパ、ケンブリッジ研究所(Cambridge Research Laboratory of Toshiba Research Europe Ltd)は、標準通信ファイバで伝送距離を500km以上に延ばす、量子鍵配信(QKD)の新しいプロトコルを考案した。この進歩は、Twin-Field QKDと言い、都市間の光ネットワークで伝送される極秘データの保護が可能にする。これにより、ロンドン、パリ、ブリュッセル、アムステルダム、ダブリン間の安全なリンクが実現する。研究成果は、Natureに発表されている。
 QKDは、銀行取引明細、健康記録、デジタルIDなど、個人情報を保護するために重要な秘密のデジタルカギの配信に使用される。その安全性は、カギの各ビットを,例えば通常の光ファイバで伝送されるシングルフォトンにエンコードすることに依拠している。フォトンを読み取ろうとする試みはすべてそのエンコーディングを変更することになるので、これにより個々のカギの秘匿性がテストされ、保証される。他の既存セキュリティソリューションとは異なり、量子暗号は、数学やコンピューティングにおけるすべての今後の進歩から安全である。量子コンピュータの複雑な計算能力からも安全である。したがって、運用が極めて重要な情報を保護することになると、将来のサイバーアタックから通信インフラストラクチャを保護するために不可欠のツールである。
 これまで、QKDの一般的な範囲は、光ファイバ数100kmに制限されていた。これは、情報を運ぶフォトンが散乱し、したがってファイバから失われ、秘密鍵が形成されるレートが低下するからである。
 今回、東芝はQKDのキーレートと伝送距離を強化する方法を発見した。これによってファイバリンクは初めて500kmを超えることが可能になる。最終的な安全カギレートは、既存のプロトコルで得られるよりも数桁大きくできる。実際、新しい方法で達成可能なキーレートと距離は、以前に、量子リピータを使うことなしには克服不可能な限界と考えられていた秘密鍵容量を上回る。
 従来のQKDでは、シングルフォトンがファイバの一端から他端に送られる。それに対して、Twin-Field QKD光パルスは、ファイバの両端から中心点へ送られ、そこでフォトンが検出される。フォトンがファイバのどちらの端から来たかを言うことができないなら、この技術は所定のレートで伝送距離を効果的に2倍にすることになる。従来のシステムをデイジーチェーン連結することで総伝送距離を増やせる可能性はあるが、これは中間局を安全な場所に置く必要がある。それに対して、Twin-Field QKDの安全性では、中心点の物理的な保護は全く必要ない。
「Twin-Field QKDによりLondonの銀行は、顧客データの安全を保証できるリンクを介してLeedsのデータセンタに接続することが可能になる。現在は、LondonとLeedsの間の安全で、保護された中間ノードを設置しなければならない。われわれのブレイクスルーは、国を超えるサイトを接続するQKDネットワークを初めて実現できることを意味する」とケンブリッジリサーチセンタのアシスタントマネージングディレクタ、Dr. Andrew Shieldsはコメントしている。
 研究チームは、新しいプロトコルの実用性を来年の実験で実証する予定である。
(詳細は、http://www.quantum.toshiba.co.uk/)