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NIST、光を「圧縮」して微小ドラムを量子限界以下に冷却

January, 24, 2017, Gaithersburg--NISTの物理学者は、これまで可能だと考えられていた、いわゆる「量子限界」以下に機械的物体を冷却した。 
 新しいNISTの理論と実験は、微小な機械的ドラム(振動するアルミ膜)が単一量子、つまりエネルギーの塊の1/5以下に、通常量子物理学で予測されているよりも低温に冷却できることを示した。その新技術は理論的に、物体を絶対零度に冷却するために使用可能である、とNISTの研究者は説明している。絶対零度では、物質はほぼ全てのエネルギーと運動を失っている。
「ドラムが低温になればなるほど、それはどんなアプリケーションにでも使えるようになる。センサは、より高感度になる。情報を一層長く保持できる。それを量子コンピュータに使用すると、歪のない計算ができ、実際に所望の答が得られる」とNISTの物理学者、John Teufelはコメントしている。
 そのドラムは、直径20µm、厚さ100nmで、電磁キャビティとして知られる空洞エンクロージャ内部で跳ね回るマイクロ波にドラムの動きが影響を与えるように設計された超伝導回路に埋め込まれている。
 キャビティ内のマイクロ波光はその周波数を変える、それはキャビティが自然に共振する、つまり振動する周波数に一致するために必要だからである。これはキャビティの自然な「トーン」である。
 NISTの研究者は以前に、量子ドラムを最も低いエネルギー「基底状態」、つまり1量子の1/3まで冷却した。研究チームは、サイドバンド冷却という技術を用いた。これはマイクロ波トーンをキャビティの共振以下の周波数で回路に適用する。このトーンが回路内の電荷を駆動してドラムのビートが生まれる。ドラムビートは光粒子、つまりフォトンを生成し、それは自然にキャビティのより高い共振周波数と一致する。このフォトンは、いっぱいになるとキャビティから漏れ出る。出てくる個々のフォトンは、ドラムの動きから1単位のエネルギー、1フォトンを取り出す。これは個々の原子のレーザ冷却と同じ考えで、1978年に初めてNISTで実証され、原子時計などのアプリケーションで現在、広く利用されている。
 最新のNISTの実験は、新たな工夫を加えた、「スクイーズド光」を使ってドラムサーキットを駆動する。スクイージング(絞ること)は量子力学的概念で、その場合ノイズ、つまり不要な振動を光の有用な特性から取り出して、実験に影響のない他の面に移すことである。これら量子的ゆらぎは、従来の冷却技術で達成可能な最低温度を制約する。NISTのチームは、特殊サーキットを使って、純化された、つまり強度変動を除去したマイクロ波フォトンを生成した、これがドラムの不用意な加熱を減らしたのである。
 Teufelの説明によると、NISTの理論と実験は、スクイーズド光が、一般に受け入れられている冷却限界を除去することを示している。これには、冷却が最も難しい大きな物体、低周波で動作する物体も含まれる。
 そのドラムは、量子的および機械的要素を組み合わせたハイブリッド量子コンピュータなどのアプリケーションにも使用できる可能性がある。