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光のON-OFFで摩擦の増減を制御

December, 9, 2016, つくば--NIMSの研究グループは、真空中において有機分子とサファイア基板間に生ずる摩擦力の大きさをレーザ光の照射の有無で繰り返し変化させられることを見出した。
 物質・材料研究機構(NIMS) エネルギー・環境材料研究拠点の後藤真宏主席研究員、情報統合型物質・材料研究拠点の佐々木道子NIMSポスドク研究員 (現在、東京大学特任研究員) らは、真空中において有機分子とサファイア基板間に生ずる摩擦力の大きさをレーザ光の照射の有無で繰り返し変化させられることを見出した。これは光の照射により、マイクロマシンなどの微小な駆動部の運動を制御できる可能性を秘めている。
 加速度センサやジャイロスコープなど微小な装置の駆動部として使用されるマイクロマシンは、凝着力の影響が非常に大きく、その部分に生じる摩擦力が増大すると駆動部の運動が大きく阻害されるため、摩擦を低減させる必要がある。また、摩擦力の増減を制御することができれば、マイクロマシンの運動自体の制御につながり、用途の拡大や機能性の向上が期待できる。これまで、摩擦力の低減により運動性能を向上させる目的で、マイクロマシンの主な材料であるシリコン基材にダイヤモンドライクカーボン、自己組織化単分子膜、フッ素系有機膜などをコーティングする技術が注目されてきた。しかし、これらのコーティングは、一旦材料が決まると、その材料の組み合わせに起因して摩擦係数が決定されるために、コーティング後に摩擦力を制御することは困難だった。
 研究グループは、光の照射によって、物質間の摩擦力を制御する全く新しい手法を創出した。有機分子をコーティングしたカンチレバー (片持ち梁) 探針とサファイア基板との間で生じる摩擦力の大きさを、走査型プローブ顕微鏡技術の一つである摩擦力モードを用いて測定し、レーザ光を測定場所に照射することで、摩擦力が約15%増大することを明らかにした。さらに、レーザ光のON-OFFにより繰り返し摩擦力を増減することができた。
 今回見出された光による摩擦力制御は、マイクロマシンの運動制御を可能としたり、摩擦の基礎メカニズムの解明に寄与する結果と考えられる。また、今回は光によるナノレベルの摩擦力の制御ですが、今後はマクロレベルの摩擦現象の制御へも展開されることが期待される。
研究成果は、Applied Physics Express (APEX) 誌に掲載された。