August, 24, 2016, 和光--理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの武田健太特別研究員、樽茶清悟グループディレクターらの共同研究チームは、産業的に広く用いられている通常のシリコンを用いた半導体ナノデバイスにおいて、量子計算に必要な高い精度を持つ「量子ビット」を実現した。
次世代のコンピュータとして期待されている量子コンピュータは、さまざまな計算を従来のコンピュータに比べて超高速に行うことができる。その基礎となるのが情報の最小単位であり、従来のコンピュータで用いられているビットのように0と1だけでなく、その中間の“重ね合わせ状態”をとることのできる量子ビット。しかし、量子ビットの重ね合わせ状態は、母材中の核スピンといった外部からの“雑音”に非常に弱いという問題がある。これまで、量子コンピュータを構成するのに十分な性能を持った量子ビットは、超電導回路や同位体制御[3]されたシリコンなど限られた“雑音の少ない材料”でしか実現できなかった。
共同研究グループは、通常(天然)のシリコン上に作製した半導体量子ドット中に閉じ込めた電子スピンを用いて、十分に高性能な量子ビットを実現した。高速な量子ビット操作のために最適化された試料を用いることで、単一の量子ビット操作を従来の約100倍に高速化し、雑音の影響を受ける前に量子ビットの操作を終えることが可能になった。また、量子ビット操作の「忠実度」は99.6%に達した。この値は、通常のシリコン中の電子を用いた量子ビット素子の中では最高値。
今後、量子コンピュータを実現するには、量子ビットの数を大幅に増やす必要がある。今回実現した技術は、既存の半導体集積化技術を用いた量子ビット素子実装を可能とするため、大規模量子計算機の実現に向けた重要なステップと言える。
(詳細は、www.riken.jp)