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アト秒時間で振動する半導体の電子運動観測に初めて成功

April, 19, 2016, 東京--日本電信電話(NTT)と東京理科大学は、窒化ガリウム半導体において、アト秒(as)周期で振動する電子の動きを観測することに初めて成功した。その振動現象は、世界最短級の時間幅(パルス幅)を持つ単一アト秒パルス光源を用いた時間分解計測により捉えることができる。
 アト秒パルスとは、100京分の1秒の極短時間で煌めく閃光を指す。観測された電子振動の周期は860 asに達し、周波数は1.16ペタヘルツ(PHz)に相当する。これは、過去に固体物質中で観測された振動現象としては最高の周波数を有す。半導体電子系が有する超高周波応答は、将来の時間領域における信号処理技術の高速化に応用できる可能性があり、また半導体の新たな光機能性を実現する上で重要な知見になると考えられる。

実験の説明
<1>近赤外領域のフェムト秒パルス(fs)を励起光源として、窒化ガリウム半導体中の電子を価電子帯から伝導帯へと遷移させる。この遷移に伴い生じる「分極」現象は、電子の振動(双極子振動)を引き起こす。単一アト秒パルスを時間掃引することにより、双極子振動をコマ撮りのように観測する。実験では過渡吸収分光法を用いて、双極子振動により変化するアト秒パルスの吸光度(吸収率)を測定。計測された振動周期は860 asに達し、相当する周波数は1.16 PHzに到達する。
<2>単一アト秒パルス発生には、 Double Optical Gate(DOG)法を用いる[H. Mashiko et al., PRL 100, 103906 (2008)]。DOG法は、2波長(近赤外と紫外)の基本波を利用した二色合成ゲート法と、楕円偏光ゲート法を融合した手法。この手法の特徴は、単一アト秒パルスを様々な波長帯域において選択的に発生させることが可能であり、物性調査に適した技術。実験では、アルゴンガスを相互作用媒質として発生した真空紫外領域(中心光子エネルギー:20 eV)単一アト秒パルスを、過渡吸収分光法に用いる。アト秒ストリーク法により計測されたパルス幅は660 as。

技術のポイント
(1)単一アト秒パルスを用いた過渡吸収分光法(NTT物性研・東京理科大学)
 電子の遷移するエネルギーが大きいほど、双極子の振動周期は短くなる。窒化ガリウム半導体が持つバンドギャップ(価電子帯と伝導帯間のエネルギーギャップ)は大きいため、誘起される分極はアト秒時間の振動にまで達する。単一アト秒パルスをプローブ光(検査光)として用いる過渡吸収分光法は、高速な電子運動に起因して生じる吸収の変化を計測する手法。
(2)DOG法による波長可変型単一アト秒パルス発生(NTT物性研)
 光パルスは構成する光の波長が短ければ短いほど、パルスの時間幅を短くできる特性がある。しかし、実験では窒化ガリウム半導体の価電子帯と伝導帯間で生じる双極子振動を最適に捉えるため、アト秒パルスの光子エネルギーを低く(波長を短く)抑える必要がある。ここでは、最適な実験条件を満たすため、DOG法を用いて双極子の振動周期(860 as)よりもパルス幅を短く、また光子エネルギーを低くした真空紫外領域(中心光子エネルギー:20 eV、波長:60 nm)の単一アト秒パルス(660 as)を用いた。

今後の展開
 半導体電子系の超高周波応答の電子振動は、将来のデバイス動作の基礎原理に繋がる可能性があり、さらなる解析を行う予定。また、今回計測した「分極」に伴う電子振動は、反射・吸収・屈折・回折・光電流・光放射といった多種の物理現象を引き起こす。これらは半導体の機能として重要であり、新たな応用に向けた研究開発を続けていく予定。
(詳細は、www.ntt.co.jp)