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Science/Research 詳細

高感度テラヘルツ波パワーセンサを開発

January, 20, 2016, つくば--産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門高周波標準研究グループ 飯田仁志研究グループ長、木下基主任研究員、レーザ放射標準研究グループ 雨宮邦招 主任研究員は、常温で微弱なテラヘルツ波パワーを高感度で測定できるセンサを開発した。
 テラヘルツ波は、100GHz~10THzの周波数の電磁波。次世代の超高速無線通信や材料分析、空港でのセキュリティ検査など、生活の利便性向上や安心・安全確保のために、テラヘルツ波を用いた新たな産業応用が期待されている。テラヘルツ波を無線通信等に利用するには、送受信するテラヘルツ波パワーを正確に測定する必要があるが、これまで微弱なテラヘルツ波パワーを精度良く定量的に測定する技術は無かった。
 開発したセンサは、テラヘルツ波の吸収によって発生する熱を熱電変換素子により電気信号に変え、その信号をもとに発生した熱と同等の直流電力とし、それを精密に測定して、テラヘルツ波パワーを定量的に求めることができる。検出部には、熱伝導性が高く、テラヘルツ波を効率よく吸収できる吸収体を用い、検出部の周囲には十分な断熱遮蔽を施して、常温で数十nWレベルの高感度測定を実現した。今回のテラヘルツ波パワーの定量的測定法により、今後、様々なテラヘルツ波応用技術の信頼性向上や高度化が期待される。
開発したテラヘルツ波パワーセンサの基本構造。検出部は、熱伝導に優れ、テラヘルツ波を効率よく吸収できる円盤状の吸収体と、クーラー、熱電変換素子、基準温度ブロックで構成される。検出部にテラヘルツ波が照射されると吸収体がテラヘルツ波を吸収して温度が上昇する。この温度上昇を熱電変換素子によって電気信号(電圧)に変換し、それをもとに上昇した温度分の電力をクーラーに与えて吸収体の温度を下げ、常に基準温度(基準温度ブロックの温度)に保つように制御する。クーラーに与えた直流電力を計測し、テラヘルツ波の吸収による温度上昇と、クーラーによる冷却が釣り合っていることを利用して、テラヘルツ波パワーを求める。この温度制御技術と直流電力への変換技術は、国家標準として確立した技術を活用した。今回、この直流電力測定を高精度化して、数10 nWレベルの微弱なテラヘルツ波パワーを正確に定量的に求めることができた。また検出部の周囲には、真空断熱材を利用した多層の断熱遮蔽を施して外部からの熱擾乱の影響を極限まで抑え、液体ヘリウムによる極低温状態を必要としない、常温での測定を実現した。
開発したテラヘルツ波パワーセンサを用いて、室温23 ℃の環境で微弱な1 THzのテラヘルツ波の照射を、300秒間隔でオン、オフして測定した結果、約30 nWの微弱なテラヘルツ波パワーを測定できることが分かった。従来の測定法では、1µWまでしか測定できなかったが、今回開発したセンサはその30倍以上の感度を実現しており、これは常温での測定としては現在世界最高レベル。
 今後、研究グループは、測定時間の短縮や測定できる周波数領域を1 THzから拡張するよう改良するとともに、測定精度の向上などさらなる高度化を進める。さらに、テラヘルツ波による材料分析などへの応用技術や、テラヘルツ分光装置の精度評価技術などを研究する予定。
(詳細は、www.aist.go.jp)