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光ファイバの完全波動マルチ フィジックスシミュレーション

January, 18, 2023--水山 洋右

光ファイバの完全波動マルチフィジックスシミュレーションには、高度なモデリングとシミュレーションの技術が必要である。

 光ファイバは、インターネットをはじめとするデジタルネットワークのバックボーンを形成する技術であり、現代の通信インフラストラクチャにおいて主要な役割を果たす。部品・製品のレーザ切断やレーザマーキング、レーザによる腫瘍切除などの産業用途や医療用途にも不可欠である。
 光ファイバはコアとクラッドから構成されている。構造は単純であるが、見た目ほど単純ではない。光ファイバの光源には、ほぼ必ずレーザが使われており、通常は特定の方向に直線偏光される。波長板、ポッケルスセル、ファラデーアイソレータ、ブリュースターウィンドウなどの偏光光学系を使用して、さまざまな方法でレーザビームを操作する。
 光ファイバによくある欠陥で意図せぬ望ましくない偏光回転が予測できない方法で生じる。これによって偏光光学系でレーザビームを配信中に電力が損失される。例えば、光学材料にはわずかな複屈折があり、方向によって屈折率が異なる。また、製造上の制約により、ファイバコアがわずかに楕円形やテーパー状になることや、使用時に曲がることがある。このような複雑さを持つ光ファイバの開発には、完全波動マルチフィジックスシミュレーションが必要となる。

ファイバシミュレーション
 光ファイバのシミュレーションを行う場合、一般的にはまずファイバ断面の2D 固有モード解析を行う。この種の解析では、所定の条件下でファイバに存在しうる固有モードを予測することができる。偏光現象によって出口モードは入力モードと同じになることはほとんどない。モードがファイバの長さにわたってどのように伝搬するかを理解するには、3D シミュレーションが必要である。
 3D シミュレーションでこのような伝搬を予測する方法には、ビーム伝搬法(BPM)など、いくつか存在する。BPM は数値計算の負荷が比較的軽いため有用であるが、マクスウェル方程式の近似式を用いており、光はベクトル場であるにもかかわらず、通常はスカラー場について解く。ベクトル場の記述を必要とする現象は、この方法ではシミュレーションができない。ベクトルBPM もあるが、やはり近似式を用いるため、数値計算コストがかかり使いにくい。
 あるいは、COMSOL Multiphysicsソフトウエアのアドオンである波動光学モジュールでは、マクスウェル方程式をビームエンベロープ法で解くことができる(1)。これは有限要素法に基づく手法である。波動ベクトルで表される伝搬方向があらかじめある精度で事前に分かっている、という特定の条件を満たせば、極端に微細な有限要素メッシュや理論的な近似を使用せずに、大きな領域に渡る光学部品の厳密な3D計算が可能な手法である。光ファイバではファイバ内の屈折率差によってモードフィールドが導かれ、ファイバの延長方向に伝搬方向があらかじめ幾何学的に分かっているため、この条件を満たす。完全な3Dシミュレーションを行う前に、励起境界と出射境界における断面方向のビーム形状を決定する必要がある。このため、励起境界と出射境界のそれぞれに対し、数値計算手法として境界モード解析を実行する。
 横モード解析とも呼ばれる境界モード解析は、境界上のベクトル値のモード形状を計算でき、電界と磁界のすべての成分が含まれる。これを行った後に横波数を計算すると、伝搬定数が解析的に算出され、3D シミュレーションの入力パラメータとして使用される。ビームエンベロープ法の効率が良く、光ファイバとの相性がよいことで、長いファイバでも計算量が比較的少なく済む場合が多い。
 図1 は、光ファイバのコアがテーパー形状であり、モードフィールドがファイバに沿って伝搬する際に初期の直線偏光が回転するという技術的問題を強調して示している。このシミュレーションは、波動光学モジュールの専用ビームエンベロープ法のインターフェースを使って行われた。偏光回転現象は、スカラー近似では説明できず、レーザ電界と光学部品の材料との相互作用により、純粋にベクトル値で表される現象である。そのため、光ファイバの解析には、完全波動シミュレーションが必要である。


図1 光ファイバの端では、出力電磁界は入力電磁界と同じではない。出射波を吸収するために、一般的な吸収性の人工材料が用いられる(別名:完全整合層)。

偏光保持ファイバ
 等方性光ファイバでは、最低次数モードは二重縮退する。すなわち、断面が円対称であるため、2 つの直交する直線偏光モードが存在しうる。等方性光ファイバには、縮退した2 つのモードのうち一方の偏光モードが他方の偏光モードに結合するのを防ぐメカニズムは存在しない。材料の等方性や円対称性が少しでもずれると、偏光モードに結合(カップリング)が生じる可能性がある。実際の光ファイバでは、製造上の欠陥や材料固有の複屈折のために、伝搬中の偏光結合は避けられない。通常の光ファイバでは、ビームが長距離を伝搬するにつれて、微小な結合が相当量にまで蓄積することで、偏光面に回転が生じる。
 この偏光回転を緩和するために開発されたのが、偏光保持( PM:Polarization Maintaining)ファイバである。偏光保持ファイバには、意図的に高い複屈折性を持たせている。このため、円対称性が失われることから、結合の影響を受けずに、優先的に選択された軸に沿った偏光を実現できる。一般的な偏光保持ファイバには、ボウタイ型、フォトニック結晶型、PANDA 型がある(図2)。PANDA ファイバとフォトニック結晶ファイバは通信用として、ボウタイファイバはねじれセンサーやジャイロセンサーなどのセンサー用として広く使われている。
 意図的に高い複屈折性を持たせるにはどのようにすればよいだろうか。まず、偏光保持ファイバの作成にあたって、コアロッドをクラッドロッドのストレスロッド(応力付与ロッド)2 本で挟んで形成する。次に、高温下でファイバを指定の長さまで引き伸ばす。温度が下がると、熱膨張係数の差でストレスロッドに機械的応力が残留する。このため、ストレスロッドには通常、三酸化ホウ素(B2O3 )がドープ(添加)されている。機械的応力は、対称性がないため、ファイバ材の屈折率に異方的な変化を引き起こす。ストレスロッドの方向に沿った軸を遅軸、もう一方を速軸と呼ぶ。機械的応力が残留することで、結合の影響を受けずに遅軸に沿った偏光が形成される。


図2 一般的な偏光保持ファイバには、ボウタイ型(左)、フォトニック結晶型(中央)、PANDA 型(右)がある。

偏光保持ファイバのマルチフィジックスシミュレーション
 偏光保持ファイバの設計、特性評価、性能予測には、マルチフィジックスシミュレーションを使用する必要がある。マルチフィジックスシミュレーションでは、固有モード解析とベクトル電磁界シミュレーションを組み合わせることで、熱的・機械的試験の解析を実施できる。このようなモデリングと分析は難しい場合があるが、COMSOLの有限要素ベースのマルチフィジックスソフトウエアのようなシステムを使用すると、あらゆる物理現象を組み合わせて解析でき、他の物理現象で解析できる変数に応じて異方性材料特性を簡単にモデル化できる。さらに、強力なビームエンベロープ法を利用して、非常に効率的に光ファイバシミュレーションを実施できる。
 図3は、機械的応力がある場合とない場合を比較した2.5D 境界モード解析の結果である。
 偏光保持ファイバのキャラクタライゼーションでは、2 つの偏光軸の間の平面内で偏光した電界を印加することで、ビート長を測定する。一般的な偏光保持ファイバのビート長はミリ単位であり、通常のファイバよりもはるかに短い。図4は、直線偏光が45 °のPANDA ファイバの3D 完全波動シミュレーションで円偏光が得られることを示している。
 光ファイバシミュレーションのための効率的なビームエンベロープ法で、長いファイバセクションの3D シミュレーションが可能になる。この手法に加え、熱膨張や機械的応力などといった、材料特性の異方性を考慮したマルチフィジックスシミュレーションを併用することで、複屈折効果を解析できるようになる。


図3 応力テンソルのx成分とy成分の差分(上段)、最低次数の境界モードと電界ベクトル(下段)。応力テンソルの成分差がある場合(右)とない場合(左)の2D 等高線図。


図4 PANDA ファイバの3D 完全波動シミュレーション。基本的な境界モードは、入力境界上の虹色のコンタープロットで示される。遅軸 (水平軸)から45°の直線偏光は、黒い矢印で描かれている。マゼンタの波形は電界ベクトルの変化を表している。可視性を考慮し、ファイバ軸の長さ方向のスケーリングを小さくしている点に留意されたい。

参考文献
(1) B. Sjodin, Laser Focus World, 5 3 , 1 1 , 4 2 -4 5 ( Nov. 2 0 1 7 ); www.laserfocusworld.com/16548112.
著者紹介
水山 洋右は、米コムソル社( COMSOL )の前主席エンジニアで、現在は、COMSOL 合同会社のマネージングディレクター。e-mail:yosuke.mizuyama@comsol.com URL:www.comsol.com