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[LEDs Magazine Japan掲載] 市場投入間近なミニLEDディスプレイ その背後に控えるマイクロLED

June, 19, 2020--[著者]モーリー・ライト

2020年は、ミニLED /マイクロLED技術が商用市場への進出を果たす年になるだろうか。本稿では、その答えを探るためにCES に赴き、魅力的なデモを目にするも、真相を見出せないまま帰路についた経験を報告する。

 地平線上にそびえるミニLED /マイクロLED 技術はとても魅力的で、まるでネバダ州南西部の砂漠の中のオアシスのように、はっとするほど現実に見える。しかし、果たして本当にそこにあるのだろうか。この技術が最初に適用されるのはテレビやディスプレイなので、状況を探るべく、年明け早々CES(旧Consumer Electronics Show)を訪れた。展示されていたデモは素晴らしく、少なくとも数種類のミニLED製品が2020 年の市場投入に向けて準備できているようだ。マイクロLED の市場投入時期は、それよりも透明な状態にある。
 ミニLED /マイクロLED は、膨大な量のLED エピタキシャル面積を消費する応用分野になると見込まれる。これらの技術によって、製造工場は忙しくなるにちがいない。固体照明(Solid-State Lighting:SSL)全般でこれまで目にしてきたのと同じように、テレビやディスプレイへの初期応用で学んだ教訓が、まだ想像されていない新しい照明用途を生み出すことになるだろうと、本誌は確信している。そこで2019 年終盤には、大規模な直視型ディスプレイ/直接発光ディスプレイに関する記事を掲載した(http://bit.ly/2u04r6w )。それらのディスプレイは、最小サイズのパッケージLED を使用すると同時に、モジュール式テレビ設計の技術基盤を確立するもので、小型LED の民生製品における使用につながる。また今年度は、製造手法にまで踏み込んで、ミニLED /マイクロLED 分野をさらに掘り下げて紹介していきたいと考えている。
ミニLED /マイクロLEDの定義は、確定しているとはまったく言えない状態にある。本稿では、一辺が100μm以下のLEDをマイクロ、一辺が100 ~300μm のLED をミニと呼ぶことにする。当然ながらマイクロLED には、LED アレイを基板に転写するための新しい製造プロセスが必要になる。一部のミニLED 製品は、少なくとも初期段階ではまだ、従来型のピックアンドプレース技術を用いて組み立てが行われる見込みである。

家庭用壁掛けテレビ
 ここ数年間と同様に、家庭の壁いっぱいに広がるマイクロLEDテレビは、CESの目玉製品だった。韓国サムスン社(Samsung)やソニーといった熱心な推進企業が、毎年恒例の派手さを競う戦いを繰り広げる一方で、TCL社やコンカ社(Konka)などの中国の新興企業までもが類似のデモを展示していた。
例えば、サムスン社のモジュール式テレビ「The Wall」は、最も大きなモデルで幅150 インチになる予定だという。ビデオパネルをビルディングブロックとするモジュール式であるため、それよりも小さなサイズを多数提供することができる。マイクロLED によって5000nitの画面輝度が得られるため、図1に示すように、周辺光がかなり明るい空間でも使用することができる。
 しかし、100 万ドル近くする構成の特殊用途向け以外で、これらのテレビを販売した実績がいずれかの企業にあるかどうかは不明だ。CES では、ミニLEDの商用化開始と、マイクロLED技術の実現に向けた橋掛け工事が確認できることを本誌は期待していた。ただしディスプレイにおいて、これらのLED は同じように使用されるわけではないことを理解しておいてほしい。マイクロLED テレビは、有機EL のように直接発光型となる。ミニLED は、液晶画面のバックライトとして使われる。しかし、より粒度の細かいアレイによって、有機EL と同等またはそれ以上のきめ細かい調光制御とコントラスト比が実現される。また、民生エレクトロニクス業界がミニLED 製品の製造を極めることができれば、ミニLED テレビは、画面の焼き付きの問題を排除しつつ、有機EL よりも低いコストと消費エネルギーを達成することになる。

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図1 サムスン社のマイクロLED テレビ「The Wall 」は今年も称賛を浴びたが、この高額製品の販売実績はほとんどない。(写真提供:サムスン社)

TCL社の「Vidrian」技術
 中国メーカーであるTCL社は、どこよりも積極的にミニLED テレビ技術への移行を進めているように思われる。TCL 社が、画質の面でテレビ市場の上位近くに位置する企業だというのは意外である。同社は、創業は約40年前だが、テレビ市場に本格的に参入したのはわずか5 年ほど前である。テレビにストリーミングプレーヤー「Roku」を組み込み、手頃な価格で販売したことで、瞬く間に市場シェアを獲得した。市場シェアでは第3 位にまで躍進している。その垂直統合戦略によって、製造コストの面で競合他社を大きく上回る優位性を得たと同社は一貫して主張している。
 同社は数年前に、量子ドット(Quantum Dot:QD )技術を提供し、画質において重大な動きを見せた。同技術は現在、「6 Series TV」に搭載されている(このテレビポートフォリオには5/6/8 Series があり、数字が高いほど豊富な機能を搭載する)。同社はさらに、サムスン社と同じ「QLED 」というブランド名を採用し、サムスン社にほぼ匹敵する品質を達成してみせた。TCL社は2020年のCESで、最低価格の5 Series に至るまでの全ての製品でQLED技術に移行すると述べた。また、「Vidrian」というミニLED 技術を2020 年内に市場に投入することも明かした。
 公正を期して記すと、2019年のCESでは、ミニLEDバックライトが8 Seriesの一環として展示されていた。しかしその技術が2019 年に広く商用化されることはなかった。2020 年は、Vidrian 技術を8 Series で商用化する予定だと同社は述べ、ミッドレンジの6 Series TV にもミニLEDを採用すると述べた。

ミニLEDのメリット
市場の動きに注目して、ミニLEDが広く普及するようになれば最新情報をお届けするつもりだ。しかしまずは、現行技術に目を向けよう。LEDバックライト搭載のテレビとディスプレイが約10年前に登場して以来、主要なメリットは、画面の一部の領域を局所的に暗くしたり明るくしたりできることだった。制御回路によって、画面上の大きな動きのある領域を明るくするだけでなく、暗い領域のバックライトを消灯して画面を黒くすることさえ可能だった。この手法はコントラスト比を大幅に向上させ、蛍光灯バックライトではその能力を達成することはできなかった。
 最初のLED バックライトテレビには、パッケージLEDのアレイが画面のすぐ後ろに配置されたダイレクトバックライトと呼ばれる構造が採用されており、そのようなテレビは、バックライト用のスペースを設けるために比較的厚みがあった。各LEDからのビームが広がって割り当てられた画面領域を照らすために、いくらかの深さが必要だったためである。まもなくエッジ発光設計とはるかに薄いテレビが登場したが、それらの製品は、局所調光用のバックライト制御ゾーンが少なかった。
ミニLEDは、高度な局所調光を可能にする。TCL 社のVidrian 製品を見ると、75 インチモデルで2 万5000 個のミニLED がバックライトユニットに搭載されている。これらのLED は、1000 個の調光制御ゾーンにグループ化されており、同社はこれを「QuantumContrast」または「Contrast Control Zone」と呼んでいる。これらのミニLED にQLED 技術を組み合わせることによって、明るい飽和色を生成したり、完全に真っ黒にしたりすることが行われる。見本市のデモがどれだけ信用できるかはわからないが、CES においてTCL 社は、Vidrian TV を有機EL モデルに並べて展示し、赤いリンゴやイチゴがミニLED テレビ上で、より鮮やかに表示される様子を披露していた。

コストと障害
ミニLEDの課題は明白である。製造プロセスにおいて2 万5000 個のLED を何らかのバックライト基板に配置し、それらのLED を制御する多数のドライバ回路を追加する必要がある。マイクロLED への次なる進化を果たす際には、その課題はさらにエスカレートする。TCL 社は同社の実装について多くを語ろうとしなかったが、図2 に示すバックライト層の写真を提供してくれた。
 LED は、LED をマトリックス状に接続する配線とともに、ガラス基板上に配置される。このガラスバックライトユニットが、ディスプレイパネルとなる積層構造の一部となる。TCL社によると、そのようなミニLED バックライト内のLED は、液晶ディスプレイに非常に近いため、より優れた精度と均一性が得られるという。また、この技術によって、エッジ照明は薄くなり、画質は格段に高くなるという。
 TCL 社はVidrian TV の設計に、1年前の最初のミニLED テレビからさらに1 つの変更を加えている。最初のテレビのバックライトシステムには、LED の片側だけがオン/オフするパッシブマトリックス設計が採用されていた。Vidrian には、LED の陽極と陰極の接続部がオン/オフする、アクティブマトリックスバックライトが採用されている。アクティブマトリックス設計は、応答を素早く、クロストークを低く、ドライバICを少なくすることができるが、トランジスタとコンデンサをバックライト基板に実装しなければならない。これについては、将来の記事でさらに深く掘り下げるつもりである。

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図2 TCL 社は、2 万5000 個のミニLED をガラスバックプレーン上に配置する「Vidrian」技術によって、ミニLEDテレビを市場に投入する最初の企業になる見込みである。(写真提供:TCL 社)

CESに出展されたその他のミニLED応用事例
 ミニLED 技術は、他の種類のディスプレイにも採用される予定である。CESでは、台湾のエイスース社(ASUS)とエイサー社(Acer)がともに、ミニLED バックライトを搭載する30 インチ以上のPC モニターを展示していた。これらの製品は主に、熱心なPCゲーマーによって使用されているが、現時点では実質的にプロレベルのユーザーに対象が限定される価格となっている。エイサー社の32インチの「Predator X32」は、3840×2160の解像度を持つ。ミニLED バックライトの調光ゾーンは1152 個と、TCL 社の75 インチのテレビよりもさらに多く、販売価格は約3600 ドルとなる予定だ。
 一方、エイスース社は、類似のモニター数種に加えて、ミニLEDと同社が呼ぶものを独自の方法で使用する「ROG Zephyrus G14」というノートPC を提供している。ノートPC の外蓋に1000 個のLED のアレイがあり、GIF やスクロールテキストによってユーザーがカスタマイズできるようになっている。