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運動ニューロンの「歩行」をリアルタイムで見る

September, 10, 2015, La Jolla--ソーク研究所の研究チームは、運動ニューロンの活動をリアルタイムで観察する方法を開発した。Neuron誌に発表されたこの新技術は、脊髄細胞が運動ニューロンとどのように関係をつけるかを研究者が理解するのに役立つ。また、脊髄損傷の患者、筋萎縮性側索症(ALS)のような神経変性疾患の患者を臨床医が治療する方法の理解にも役立つ。
 「ニューロンの活動を観察できる光学的方法を利用することは、過去10年の夢だった」とソーク研究所教授、Samuel Pfaff氏は語っている。
 過去においては、脳内か身体の至る所かのいずれかで、ニューロン活動を計測するには、研究者は活性化されたときに細胞内の電圧の変化を検出する電極に依存していた。しかし、ニューロンの活動の同期方法を調べるために多くの異なるニューロンタイプの活動を同時に記録するように電極を使うのは、扱いにくい。
 電極読み取りのこのような欠点を回避するために、Pfaffの研究チームは、GCaMP6fという蛍光センサタンパク質を使った。このタンパク質は、ニューロンが活性化するときはいつでも発光する。電極とは違い、このタンパク質は多くの異なる細胞への挿入は容易だ。研究チームがGCaMP6fを運動ニューロンに加えたとき、歩行回路をONにする化学薬品が加えられたときにマウスの脊髄でどの細胞が活性化するかを顕微鏡で観察することができた。
 Pfaffによると、これを解釈するために後で画像処理する必要はない。「顕微鏡の接眼レンズを通してい見ているのはまさに生の信号である」。
 研究チームは、その新しい方法を用いて、脊髄の細胞群、つまり運動中枢パタン発生器(CPG)が、歩行といった運動をさせるために、適切な運動ニューロンにどのように関係づけられているかという、長年の疑問に答えることができた。Pfaffによると、CPGは脳からの比較的単純な信号、前に進め、熱いストーブから手を離せ、などがより複雑な指示に翻訳されて運動ニューロンが筋肉をコントロールする箇所である。
 「われわれの神経系は決定をし計算をして、多様な筋肉に収縮、あるいは収縮すべきでない時を指示しなければならない。あるいは、収縮するときの力の加減とスピードを指示しなければならない」。このような計算の多くを行うのに役立っているのがCPGである、と研究者は考えている。したがって、正常な運動では、脊髄の中のCPGニューロンが接続し、いつ運動ニューロンが発火するかをコントロールすることが必要になる。しかし、今までは、研究者はCPG細胞がこのような接続をどのように作るかを正確に知らなかった。
 研究室のChris Hinchleyは、運動ニューロンの場所や識別を微調整することで、また、さらに新しい蛍光技術を使って結果として生ずる活性化パタンを観察することで、CPGが接続するために細胞の位置だけに依存しているのでないことを発見した。そうではなく、細胞の各サブタイプの遺伝的同一性も重要であることが分かった。
 「脊髄損傷やALSの治療法の研究には、これは重要な発見である」とPfaffは言う。現在、多くの研究者が幹細胞を運動ニューロンに変えようとしている。これは、次に脊髄にインプラントして、損傷した接続を再生するためである。しかしPfaffの新しい成果は、一般的な運動ニューロンではうまくいかないことを示唆している。最良の処置には、運動ニューロンの適切なサブタイプが必要となるかも知れない。しかし、この意味を理解するにはもっと研究が必要になる。