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がん細胞を光らせて検出する新たなスプレー蛍光試薬を開発

March, 17, 2015, 東京--東京大学大学院医学系研究科・薬学系研究科の浦野泰照教授の研究グループは、外科手術時や内視鏡・腹腔鏡手術時に、がんが疑われる部分にスプレーするだけで、数分でがん部位のみを光らせて検出することを可能にする新たな蛍光試薬を開発した。
 研究グループは2011年に、特定のたんぱく質分解酵素活性が、がん細胞で高くなっていることを利用した、世界初の迅速がん部位可視化スプレー蛍光試薬の開発に成功し、現在では患者由来の外科手術サンプルを用いてその機能の検証を行っている。しかし、この試薬では見つけることができないがんも多く存在することから、より幅広いがん種を光らせることができる新たなスプレー蛍光試薬の開発が望まれていた。
 研究グループは今回、新たにがん細胞中の糖鎖分解酵素活性が高いことを活用したがん検出スプレー蛍光試薬を開発した。この試薬は無色透明で蛍光を発しないが、がん細胞中に含まれるβ-ガラクトシダーゼという糖鎖分解酵素と反応すると構造が変化して、強い蛍光を発する物質へと変化するように設計されている。この試薬を、さまざまな種類の卵巣がん細胞を腹腔内へと転移させたモデルマウスに投与した結果、たんぱく質分解酵素活性を標的とする試薬では可視化できなかったものを含め、全てのがん細胞の可視化に成功した。
 腹腔に転移したがんは、1㎜以下の微小がんまで取りきることができれば、術後5年生存率が大きく改善することが知られている。今回開発に成功したスプレー蛍光試薬を術中に使用することで、微小がんの発見や取り残しを防ぐことが可能となり、腹腔鏡を活用したがん治療に画期的な役割を果たすことが期待される。
 研究グループは、より広範ながん種の検出ができるように、卵巣がんでその酵素活性が促進されていることが報告されている、糖鎖分解酵素であるβ-ガラクトシダーゼに着目した。この酵素に対する蛍光検出試薬はいくつか開発されているが、既存の活性検出試薬をがんのモデルマウスへ適用し、試薬の感度の低さなどによりがんの検出は困難であることを確認した。研究グループは、試薬分子の特性を見直し、分子構造の最適化を図ることにより新たな試薬の開発に成功した。このスプレー蛍光試薬はそれ自体ではほぼ無蛍光性であるが、β-ガラクトシダーゼと反応することにより1000倍以上明るく光る性質を持ち、がん細胞の持つβ-ガラクトシダーゼ活性を検出することができる。
 開発したスプレー蛍光試薬を卵巣がんモデルマウスに適用し、1㎜以下の微小ながんまでも高精細に検出可能であり、以前開発した蛍光試薬で検出が困難であったがんも検出可能であることを確認した。また、がんにおける蛍光は非常に明るく肉眼での観察が可能。さらに、このスプレー蛍光試薬を用いて、蛍光内視鏡により生きている状態のがんモデルマウス腹腔に存在する微小がんの検出にも成功し、模擬的な手術において試薬の蛍光を目印としたがんの切除も達成した。
 研究グループは、蛍光の検出が安価な装置で行える点で、この技術が一般的ながん検出手法として普及する上で大きな有用性があると考えている。現在、臨床新鮮検体へと適用してがんイメージング機能の実践的な検証を行っており、今後、安全性試験など臨床試験への適用に向けた準備を進めていく。