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神経変性疾患の原因となる異常タンパク質を生体脳で画像化

September, 1, 2022, 東京--量子科学技術研究開発機構(量研)量子生命・医学部門 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究部 樋口真人部長、松岡究研究員は、エーザイ株式会社、小野薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社との共同研究において、運動機能や自律神経機能に障害を引き起こす難病である多系統萎縮症の生体脳で、病気の原因と考えられる異常タンパク質「αシヌクレイン」病変を明瞭に画像化することに成功し、世界に先駆けて学術誌に報告した。

 アルツハイマー病などに代表される難治性の脳の病気は神経変性疾患とも呼ばれ、様々な異常タンパク質が脳内に蓄積して症状を引き起こすと考えられている。αシヌクレイン病変は多系統萎縮症のみならず、神経変性疾患のなかでアルツハイマー病に次いで多いパーキンソン病やレビー小体型認知症においても、中心となる病変を形成することが知られている。しかしながら、αシヌクレイン病変を生体脳で可視化する技術はこれまで未確立で、患者が亡くなった後で病理検査により病変を調べない限り、確定診断は行えなかった。

 量研では、これまで異常タンパク質の蓄積を生体脳で可視化する技術の開発に取り組んできた。代表的な成果として、アルツハイマー病の原因となりうるタウタンパク質の病変を世界に先駆けて画像化することに成功した。こうした異常タンパク質病変の画像化に関するノウハウを活用し、量研が主宰する産学共同の研究開発体制「量子イメージング創薬アライアンス・脳とこころ」の部会において量研とエーザイ株式会社、小野薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社が連携し、タウ病変よりもさらに量が少なく画像化が難しいとされてきたαシヌクレイン病変の生体脳での検出に挑み、αシヌクレイン病変をPETで検出するための放射性薬剤として、18F-SPAL-T-068)を開発した。この薬剤の臨床評価を行い、多系統萎縮症の病型に応じたαシヌクレイン病変の分布を、高いコントラストで画像化することに成功した。さらに、多系統萎縮症患者由来の脳標本でも、18F-SPAL-T-06がαシヌクレイン病変に強く結合することを実証した。

 この技術は多系統萎縮症の診断技術の確立、ひいてはαシヌクレイン病変を標的とした根本的治療薬の開発に大きく貢献すると期待される。さらにαシヌクレインの脳内蓄積を特徴とするパーキンソン病やレビー小体型認知症でも同様の有用性が見込めることから、これらの疾患の患者を対象とした臨床研究が進行中である。
(詳細は、https://www.qst.go.jp)