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有機光遺伝学ツールで脳の伝達経路を解明

August, 27, 2021, Vien--ヴァイツマン化学研究所のナノバイオロジー部、Ofer Yizhar教授のチームは、モスキート(蚊)から採った感光性タンパク質を利用して、マウスの脳でニューロンからニューロンへ伝達されるメッセージを研究する改良法を考案した。この方法は、Neuronに発表され、研究者が長年の脳の神秘を解明する際に役立つ可能性がある。また、これは神経疾患、精神状態を処置する新しい改善された治療に道を開く。

Yizharと同氏のラボチームは、いわゆる光遺伝学的方法を開発した。その機能の理解を高めるために特定の脳回路の活動を「リバースエンジニア」できる研究技術である。光遺伝学は、マウスの脳のニューロン活動を制御するためにロドプシンとして知られるタンパク質を利用する。ロドプシンは、光センシングタンパク質であり、身体内部の暗部よりもむしろ網膜のような器官でその役割が最もよく知られている。しかしYizharのマウスの脳におけるロドプシンにより、マウスの脳に微小な光を照射したとき、チームは特定ニューロンの活動を制御することができる。同氏は、特にニューロン間の伝達に関心をもっている。どんな信号がシナプスを透過し、その隙間に脳の信号はどこへ動くか。「われわれは様々な神経伝達物質の存在を検出できるが、異なるニューロンは、それら神経伝達物質の読み方が異なる。光遺伝学によりわれわれは、その“インク”だけでなく、実際に、その“メッセージ”を解読できる」と同氏は説明している。

光遺伝学法は近年、世界中のラボで多くのブレイクスルー成果を生み出しているが、細心の注意が必要である。特に、光遺伝学研究に使用されるロドプシンは、シナプス活動の制御になると、不完全になる傾向がある。

Yizhar、Dr. Mathias Mahn, Dr. Inbar Saraf Sinik and Pritish Patilを含むチームは、現在入手可能のものよりも優れたロドプシンバージョンを作れると考えていた。自然は、ロドプシン分子の多くの変種をもつことが明らかになった、動物の目だけでなく、サカナ、昆虫、哺乳類でさえ、様々な身体の部分に、その変種を持っている。あるものは概日周期を調整する能力があり、別のものは、未知の目的のためである。したがって、チームは、潜在的なロドプシンタンパク質の長いリストから始めた。最初の作業は、どれがチームの実験的要件を最も満たしそうであるかの評価に関わる。それは、まず、シナプス活動を変調できる光ゲートタンパク質を含んでいる。最終的に研究チームは、リストから2つに絞った、1つはフグ、1つはモスキートから採ったものである。

最適であることが判明したのはモスキートロドプシンであった。その新しいモスキート由来のツールの有効性を検証するために研究チームは、薬剤でその方法をテストした。その薬剤は、脳のニューロン間の伝達力を低減することで知られているものである。介入は、非常に効果的であり、モスキートロドプシンにより著しく安定的であることをチームは確認した。

それだけではない。脳の多くの部分に影響を与え、制御が難しい従来の薬剤と違い、研究チームは、モスキートセンサを生成するニューロンだけが光の影響を受けるので、脳のシナプスへの変調効果を時間と空間の両方で精密制御できることを確認した。特定の脳領域で光をON/OFFスイッチングするだけでよい。チームは、それを使って、脳の片側だけで神経伝達物質ドーパミンの放出を阻止することで、その新しいツールの利用性を評価した。グリーンライトでモスキートロドプシンを表す半球を使用すると、これらマウスの挙動では片側バイアスとなった。別の表現では、精密、選択的、制御性があるツールをチームは作製していた。

「モスキートロドプシンの主要な利点の1つは、その双安定である。すなわち、それはリフレッシングを必要としない。また、それは極めて特殊である。したがってわれわれが関心を持っている精密なシナプスだけを制御できる。これは極めて素晴らしい技術である。それによりわれわれは、以前にはできなかった方法で、脳の固有の経路を見つけることができる。われわれの考えでは、このモスキートタンパク質は、神経化学研究で使う新しい光遺伝学ツールの全ファミリの開発に道を開く」とYizharは話している。これらの科学的取り組みは、脳と神経科学の新しい研究所内で強い支持を得ることになる。
(詳細は、https://wis-wander.weizmann.ac.il)