Science/Research 詳細

体外からがん組織深部まで観察できる近赤外蛍光・有機シリカナノ粒子作製

August, 28, 2020, 山口--山口大学大学院医学系研究科の中村教泰教授のグループは、徳島大学大学院医歯薬学研究部の安倍正博教授、九州大学歯学研究院の林幸壱朗准教授のグループと共同で、蛍光生体イメージングで体外からがん組織を深部まで観察できる近赤外蛍光・有機シリカナノ粒子の開発に成功した。
 蛍光生体イメージング診断法は、がんの早期発見や術中観察など医療や医学研究への活用に期待されている。研究チームはがん組織を体外から観察できるだけでなく、励起光の波長を調整することにより表面から深部まで深さを調整しながらがん組織を観察することに成功した。また作製したナノ粒子は安全性も高く、生体内で長期間の観察が可能であることも実証された。さらに免疫反応の生体外からの観察も行うことができた。重要な免疫細胞の一つであるマクロファージを生体内で標識して、異種細胞を移植すると、移植部位にマクロファージが移動し、拒絶反応に寄与する様子が観察できた。これらの成果は、画像診断を含むがん研究や免疫学研究、再生医療への応用が期待できる。さらにこれらナノ粒子の光学特性を検討し、近赤外蛍光に加えて可視蛍光、さらには近年注目されているアップコンバージョンと呼ばれる励起光より高エネルギーの光が発生する特性も発見された。

 米国では本研究成果と同様の近赤外蛍光シリカナノ粒子が、がん造影剤として既にヒト臨床治験が進められ、診断薬や治療薬としての開発が進んでいる。治療効果を持った近赤外蛍光・有機シリカナノ粒子の開発も進行しており、この研究成果はがん医療における“診断と治療の一体化(セラノスティクス)”の実現に繋がるものである。
 
 研究成果は、アメリカ化学会専門誌Chemistry of Materials (IF; 9.567, DOI: 10.1021/acs.chemmater.0c01414)に公開された。
(詳細は、https://www.kyushu-u.ac.jp/)