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脳の深部を非侵襲的に観察できる人工生物発光システムAkaBLI

February, 28, 2018, 和光--蛍光タンパク質を含むさまざまな蛍光分子がバイオイメージングで著しく活躍しているが、蛍光には励起光が必要で、これに基づく弱点がいくつかある。深部にある蛍光分子に励起光を送り込むことが難しく、高感度で定量的な観察が期待できない。一方、生物発光は光照射を必要としない。
 理研を中心とした共同研究グループは「人工生物発光システムAkaBLI」を開発した。AkaBLIは、2013年に開発した人工基質AkaLumineと、AkaLumineに合わせて今回開発した人工酵素Akalucから構成される。動物個体のバイオイメージングにおいては、一般的にホタルの生物発光システム(天然基質D-luciferinと天然酵素Fluc)が用いられているが、AkaBLIを用いると深部からの発光シグナルを従来と比べ100~1,000倍の強さで検出できることが分かった。
 研究グループは、マウスの線条体(大脳皮質下の領域)の中の標識神経細胞からの発光を、無麻酔かつ自由行動の状態で非侵襲的に可視化することに成功した。同様に、マーモセット(霊長類動物)の成体でも可視化を実現した。また、マウス海馬のわずか数十個の神経細胞がさまざまな環境の変化に応じて興奮する様子を、同一動物個体を使って追跡することができた。
 脳深部を観察する光学的技術として例えば蛍光内視鏡が注目されているが、強い侵襲性と狭い観察視野が問題となっている。AkaBLIを使えば、注目する神経回路を遺伝的にAkalucで標識し、その活性化を非侵襲的かつ包括的にモニタすることができる。この成果は、高等動物の高次脳機能をより自然な状況で解析するための技術として期待できる。
 また、Akalucで標識した腫瘍細胞がマウスの肺の毛細血管にトラップされる現象を一細胞レベルで可視化することにも成功した。AkaBLIは、少数の腫瘍細胞や幹細胞の新生や移入、さらにその後に起こる生着、増殖、転移などの現象を高感度にかつ定量的に観察することを可能にし、動物個体を扱う生命科学分野で幅広い活躍が期待される。
(詳細は、www.riken.jp)