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インクジェット3Dプリンターで多種細胞を多色造形

December, 19, 2017, 大阪--大阪大学大学院基礎工学研究科の境慎司教授、田谷正仁教授、富山大学理工学研究部の中村真人教授らの研究グループは、世界で初めて、インクジェット式のバイオ3Dプリンターで、さまざまな細胞を含む、厚みのある3次元構造物を造形可能な技術を開発した。

研究成果のポイント
・インクジェットバイオ3Dプリンターで、各細胞に適したインクを用いて、複雑な構造体を造形可能に。
・細胞に悪影響を与えることなく極めて早く固まるインクは極めて限られていたが、細胞に対してマイルドな酵素反応を用いてさまざまな材料を迅速に固める方法を見出したことで、さまざまなインクを使用可能に。
・iPS細胞やES細胞から分化誘導させた細胞などを使った再生医療分野への貢献に期待。

 インクジェットプリンター方式のバイオ3Dプリンターは細胞よりわずかに大きな直径0.05 mm程の液滴を1滴ずつ積み重ねながら造形していく。したがって、他の方式のプリンターと比較して、精巧な造形が可能。このため、さまざまな細胞が複雑に配置されることで、機能を発現している生体の組織や臓器を生体外で再現するための、重要な技術として注目されてきた。一方で、立体的な構造物をプリントする場合、インクジェットプリンター方式のインクには、細胞に対して穏和に、かつ他の方式のプリンターのインクと比較して、極めて早く固まることが求められる。しかし、この特性を満たすインク材料は、極めて限られており、ヒアルロン酸やゼラチン、キトサンなど再生医療分野にて、その有用性が広く認められている材料を使うことはできなかった。
 今回、境教授らの研究グループは、再生医療分野にて、その有用性が広く認められているさまざまな材料に、西洋わさびに含まれる酵素を作用させ、瞬時に固まり、ゼリーのようなゲルを形成する性質を付与した複数のインクを開発した。細胞を分散させたこれらのインクを、この酵素反応で瞬時に固めながら、細胞を含んだゲルを1滴ずつ積み重ねることで、細胞の生存をほとんど損なうことなく、細胞を含んだ立体構造物を造形することに成功した。また、細胞の増殖に適したインクを使用することで、実際に細胞が伸びて増殖することを明らかにしました。
 これにより、広く普及している複数の色のインクカートリッジを備えたインクジェットプリンターと同じように、複数のインクカートリッジに、それぞれ別の細胞とインクを充填して使用することで、組織や臓器のように、血管の周辺に別の細胞がいるような複雑な構造物の造形も可能となることが期待される。
 研究成果は、科学誌「Macromolecular Rapid Communications」に掲載された。
(詳細は、www.osaka-u.ac.jp)