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理研と産総研、神経突起を光で誘導

May, 10, 2016, 和光--理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター神経成長機構研究チームの上口裕之チームリーダー、産業技術総合研究所 健康工学研究部門の達吉郎研究部門長らの共同研究チームは、神経突起を光で誘導するための光活性型ペプチドを開発した。
 神経回路を作るために伸長している神経突起は、正しい方向へ旋回を繰り返して最終標的へ到達する。神経突起は細胞外から流入したCa2+からははねのけられる、また小胞体から放出されたCa2+には引き寄せられるといったように、Ca2+供給源の違いを識別して応答している。しかし、その適切な応答を誘起する仕組みについては明らかにされていなかった。
 共同研究チームは、Ca2+供給源の1つである小胞体からのCa2+を特異的に検出するタンパク質分子「ミオシンVa」を同定した。Ca2+により活性化されたミオシンVaが、神経細胞で膜小胞[5]を動かし、神経突起の誘導をつかさどることを発見した。このメカニズムに基づき、ミオシンVa活性化を模倣する光活性型ペプチドを開発し、このペプチドを導入した神経細胞の一部に光を照射することで、神経細胞内の特定部位で膜小胞を動かし、神経突起を任意の方向へ誘導することに成功した。
 この技術は、Ca2+依存性膜輸送という細胞内の普遍的な仕組みの人為的なコントロールを可能にする。今後、光による各種細胞機能の制御技術への応用が考えられる。例えば、神経突起の伸長を人為的にコントロールすることは、脳脊髄の損傷により断裂した神経回路を修復するために必須の医療技術。この技術は神経回路修復をはじめとした、幅広い医学分野への貢献が期待できる。
 共同研究チームは、小胞体から細胞質へのCa2+の通り道(Ca2+チャンネル)に結合するタンパク質を網羅的に解析し、ミオシンVaが小胞体由来のCa2+を特異的に検出する分子であることを発見した。神経突起の内部でミオシンVaは膜小胞を小胞体表面につなぎ止めているが、Ca2+が放出されるとミオシンVa はCa2+チャンネルから解離し、膜小胞は神経突起の先端部へ運ばれる。先端部へ運ばれた膜小胞は神経突起を旋回させる。
 共同研究チームは、小胞体のCa2+チャンネルのアミノ酸配列情報に基づき、Ca2+チャンネルとミオシンVaの解離を促すペプチドを設計・作製した。さらに、光照射で構造が変化するアミノ酸をペプチド内に挿入することで、光照射前は非活性型だが、光照射後にのみミオシンVaの解離を促すペプチドを開発した。
 この光活性型ペプチドを注入した神経突起の片側に光を照射すると、光照射部位でのみ神経突起先端部への膜小胞輸送が増加し、光照射側へ神経突起が旋回した。
 以上の研究により、共同研究グループは神経細胞がCa2+供給源を識別する分子メカニズムを明らかにし、このメカニズムに基づいて、細胞膜輸送および神経突起の誘導を人為的にコントロールするための新たなツールを開発した。
 神経突起の伸長を人為的にコントロールすることは、脳脊髄の損傷により断裂した神経回路を修復するために必須の医療技術。細胞は、膜小胞輸送という普遍的な仕組みを利用して、生理活性分子を特定部位へ供給する。このため膜小胞輸送は、神経突起の伸長・誘導だけでなくシナプスでの情報伝達、さらには、がん細胞の転移などの各種生理的病的な細胞機能にも重要な役割を担う。
 このような細胞機能の根幹を担う膜輸送を光で操作するためのツールを開発したことは、神経回路修復だけでなく幅広い医学分野への貢献が期待できる。
(詳細は、www.riken.jp)