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自動運転実用化のカギを握るセンシング技術
自動車・モビリティフォトニクス研究会、2019年度の第2回討論会を開催

July, 29, 2019, 東京--7月17日(水)、東京都港区のフクラシア浜松町において、光産業技術振興協会の自動車・モビリティフォトニクス研究会(代表幹事:西山伸彦氏(東工大・工学院准教授)〈写真〉)が、2019年度の第2回討論会を開催した。
 同研究会は平成29年、自動車・モビリティフォトニクスに関わる光センシングおよびその処理技術、HMI(Human Machine Interface)技術、通信技術、ヘッドライト・ブレーキライト等に関連する技術動向や産業動向に関する情報収集・意見交換を行うとともに、それらの将来展望について産業界の関係者を中心に学官を交えて討論することで、今後の研究開発の方向付けや産業・社会への具体的な貢献への端緒を創出して行くために設立され、これまで斯界の第一人者を招いて討論会を開催してきた。
 今回のテーマは「センサとディスプレイ」で、自動運転における道路側(路側)のセンシング技術や深層学習による画像認識技術、面発光レーザを用いたLiDARなど、自動運転におけるキーテクノロジーであるセンシング技術3本と、センサで取得した情報を表示するレーザ走査式ヘッドアップディスプレイ1本の合計4本の講演が行われた。

深層学習を初めとする注目のセンシング技術
 開会の挨拶に立った代表幹事の西山氏は、「この分野は、国際的にも盛り上がっている」と述べるとともに、「研究会の会員数も49名となって、増えている状況だ」と紹介、新たな人が参画してくる状況の中で「しっかりとコミュニケーションを取って、ビジネスに繋げていただきたい」と述べた。引き続き行われた講演の題目、演者、概要を以下に紹介する。

「自動運転のための路車協調センシングの考え方・課題」:尾﨑信之氏(電子情報技術産業協会(JEITA)・自動走行システム研究会WG5路側センシングリーダー、東芝インフラシステムズ・シニアテクノロジーアドバイザー)
 JEITAでは、2015年8月に自動走行システム研究会を立ち上げ、ビジネスモデル、通信/セキュリティ、AI、センシングシステムなど、八つのワーキンググループ(WG)において議論を進めている。その中で、尾﨑氏の所属するセンシングシステムWGは、車両から見て死角となる情報を路側センシングで取得、これを車載側のセンシングと連携させて検出の信頼性を上げることを目標に掲げている。具体的には、路側で検出した対象物の情報(人と車の種別、位置、速度など)を車載側で構成している障害物マップに載せることで、より確かな走行の経路生成を車両側で行う。
 尾﨑氏は、「路側センシングデータを車載側に渡すための共通座標系の考え方と関連する座標変換」、「初期および運転中での路側機器のキャリブレーション」、「検出した障害物の具体的な属性(人/車両、位置、速度と方向、奥行き情報など)とその信頼性の定義、全体の系としての遅れ時間の許容範囲」、「路側センシング機器の一定の品質を保つための型式認定の必要性」などが課題だとして、関連組織とともに解決を図っていきたいと述べた。

「自動運転に向けた深層学習による画像認識技術」:藤吉弘亘氏(中部大・工学部ロボット理工学科教授)
 深層学習の中でも畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)は、その出力構造を変更することで自動運転を実現するために必要となる分類や物体検出、セマンティックセグメンテーションといった各タスクに適用することが可能だ。さらに、画像から直接ステアリングの制御値を出力する深層学習ネットワークをEnd-to-end学習することで、センターラインがなかったり整地されていない道路でも自動運転が可能なことが確認されている。一方、深層学習は画像認識の様々なタスクに適用できるものの、何を根拠に決定されたのかが分からないという問題を抱えている。
 藤吉氏は、推論結果を求める際に、深層学習が注目した領域であるアテンションを可視化する(注目領域がハイライトになる)画期的なネットワーク「Attention Branch Network(ABN)」を開発、ABNはアテンションを獲得しつつ、認識性能の向上(約7%向上)にも寄与できる深層学習ネットワークだと述べ、応用事例として自動運転の他にも医療診断(眼底画像からの疾患判別)について紹介した。藤吉氏は、AIの視点が確認できた今回の研究成果を用いて、判断した理由を対話形式で分かりやすく説明するAIを使ったロボットエージェントを実現したいと述べた。

「レーザー走査方式ヘッドアップディスプレイ」:中川淳氏(リコーインダストリアルソリューションズ・ 事業管理センター経営戦略室戦略企画グループシニアスペシャリスト)
 中川氏は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)で実現したいことは車載センサと連携したAR(拡張現実感)の実現だと指摘した上で、レーザ走査HUDは広い色域と輝度コントラストの高さという特長を生かすことで、ドライバーに確実な注意喚起ができ、かつポストカード(低照度環境時に見える画面形状を反映したバックライトの漏れ光)がなく、違和感のない3D表現ができると述べた。
 中川氏は、同社のレーザ走査HUDは、キーデバイスであるスクリーンと2軸MEMSミラーを独自開発して高画質と高信頼性を実現したとして、2012年以降の量産に取り組むと述べた。

「面発光レーザフォトニクスによる自動運転用光センシング技術」:小山二三夫氏(東工大・科学技術創成研究院長、教授)
 3Dセンシングで重要な役割を果たすビーム掃引技術は、これまでは機械式のものが主流であったが、LiDARシステムの小型化を実現するため、近年では非機械式のものが注目を集めている。
 面発光レーザ(VCSEL)を基盤としたToF(Time-of-Flight)方式の高出力パルス動作とビーム掃引機能を同時に提供する集積光源を提案・実証してきた小山氏は、VCSELフォトニクスを基盤とした3Dセンシングの研究の最近の進展を紹介するとともに、狭出射ビーム・高出力動作のビーム掃引機能を持つワット級VCSEL増幅器と、最近の3D LiDAR測距や近接3Dセンサなどの応用事例について解説した。

次回の討論会
 講演終了後、飛び入りという形で台湾のARTILUX社が、TSMCと共同開発した自動運転用Ge‐Si 3D ToFセンサについてプレゼンテーションを行い、その後に開かれた交流会においては、講師を交えたディスカッションや会員相互の情報交換と交流が賑やかに行われた。なお、次回の第3回討論会は10月頃に開催される予定で、内容は見学会を含め企画中とのことだ。詳細については、下記URLのホームページで発表されるので、参照していただきたい。
http://www.oitda.or.jp/main/study/am/amstudy.html

(川尻 多加志)