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XY ステージから画像認識位置決めシステムへ

加工用レーザは、マーキング、溶接、切断など、様々な材料加工に用いられている。高精度加工にはXY 可動ステージが不可欠だが、シンガポールのハイパートロニクス社は、新しいタイプのスキャンレンズをレーザ加工装置に加えることで独自の位置決めシステムを開発した。

 ハイパートロニクス社の開発した画像認識システムを使用するとレーザ加工の大幅な時間短縮が可能となる。従来システムではどのように行なわれたかを、フラットパネルディスプレイ(FPD)のテスト回路切断加工の例で見ておこう。
 製造工程要求や品質テストの必要からFPDにはテスト回路接続部が作り込まれている。製造ラインの最後で、このテスト回路は切断される必要がある。FPDの小型化、軽量化が進むにつれ、回路パタンが縮小しており切断精度の要求が厳しくなる。さらに、FPDエッジはアラインメント作業に使えるほどの正確さはない。切断ラインの縦方向の位置精度要求は±10μmだが、レーザのスポットサイズは50±5μm。以前は、この加工は固定光学系のレーザによって行われていた。1枚毎に2点の基準点上をXYステージ搭載のカメラを移動させて位置確認を行い、切断軌道を修正し、計算し、ようやくレーザ切断が始まる。最後に、加工対象物は加工後検査ステーションに運ばれ、そこでまたXYステージ搭載のカメラで複数点の画像を取得し、切断が正しく行なわれたかどうかを確認する。
 この煩雑な工程は、レーザスキャンビジョンシステムを使用すると、1システムで短時間に行なうことができる(図1)。高速加工を実現する「レーザスキャンビジョンシステム」とは何か。

新方式の画像認識位置決め機構

 ハイパートロニクス社によると、「スキャンビジョンレーザは、加工対象物に向かっているレーザビーム光路、つまりスキャンヘッドを通して加工対象を見たいという非常に単純な考えから生まれた」ものだと言う。
 一般的なレーザ加工では、ガルバノメータに載った2枚のミラーを回転させ、XY方向にレーザビームを動かすことで高速加工を実現している。ハイパートロニクス社は、スキャンレンズと呼ばれる特殊なフォーカスレンズをミラーの後に追加し、スキャンヘッドレーザビーム位置決めシステムをレーザ加工アプリケーションに幅広く適用できるようにした。
 ガルバノメータもスキャンヘッド技術もそれぞれ高度に発展して、一般的には有名メーカーのものを利用することができる。「ただし、スキャンヘッド技術には問題点がある」というのがハイパートロニクス社の主張。その問題点を同社セールス&アプリケーション部長、チョイウーン・チャオ(Choy WoonChao)氏は次のように話している。
 「絶対位置決め精度が難しいこと、部品の組立てトレランス(公差)、fθレンズトレランス、加工対象のホルダー治具トレランスなどが問題点としてあげられる。さらに、加工対象物が小さくなるにつれ、それらの位置決めと取り扱いが非常に難しくなる。高精度治具、固定器具、アラインメント用外部カメラ、XY可動ステージ付きシステムが用いられているが、このような方法はスペース占有率が高く、複雑で、工程のサイクルタイムやコスト増をもたらし、システムに余分な振動を持ち込むことになる。」
 ハイパートロニクス社の示した解は、マルチカラー補正ができる新しいスキャンレンズを加工システムに追加することだ。光路の設計は図のようになっている(図2)。
 カメラはレーザビーム光路上に配置されている。このセットアップで、上りの可視光は下りの加工レーザビームと同一光路を通る。この可視光を利用してソフトウエアアルゴリズムにより従来よりも高い精度でガルバノメータの絶対位置決めが行なわれる。ハイパートロニクス社の主張によると、「ガルバノミラーによるレーザ位置補正はミクロン(μm)レベルの精度で実現した」と言う。さらに、両方のビーム光路が同じであることから、ガルバノメータの変位や長期ドリフトがシステムの精度に影響を与えることがなくなった。そのビジョンパスのドリフトも同じであるため、ビジョン補正後、ドリフトが相殺されることになるからだ。
 この画像認識システムを採用することで「既存の画像認識付きレーザシステム、XYテーブル、fθレンズ、ガルバノメータ位置誤差、加工対象物、治具のトレランスなどのすべてがなくなる。」
 また、画像認識による位置決めとレーザ加工は、エラーの根源となるセットアップ時の機械的動作なしに行なわれる。他のアドバンテージとしては、装置の小型化、簡素化、加工時間全体の短縮などが挙げられる。

実用までの手順

 このスキャンビジョンレーザシステムを加工対象物のアラインメントに使用するには、加工に先立ってセットアップの手続が必要になる。
 加工基準となる基準対象物をスキャンフィールドに置き、その物体上の2点を基準点として設定。この各基準点がカメラに映るまでガルバノメータを動かす。画像を取得し、その都度装置に教えてやる。次いで、加工対象の正しい位置に所望の結果が得られるようにレーザ加工パタンをアラインメントする。XYおよびθドリフトに対応する2 点が必要になるからだ。続いて、加工対象物を同じ場所にラフに置く。再び2点の画像を取得し、画像処理ソフトウエアを使用してX、Yの差を計算。得られた値から、最初の基準対象物と比較してこの加工対象物の実際の直線的、角度的ズレを算出。次に、レーザ加工パタンは、そのドリフト量を補正するように移動または回転される。続いて、ガルバノミラーの位置を動かして、加工後の画像取得を行なう。画像の分析を行い、加工作業の正確性や加工品質を確定する。
 この一連の操作は、スキャンヘッド、カメラ、加工対象物を動かすことなしに行われる。

TFT LCD パネル高精度マーキング

 実際にこのシステムがどのように使用されているかをハイパートロニクス社の挙げている例で見ておこう。
 FPDは、生産効率化のため大きなガラスパネルの状態で生産される。ガラスパネルは後に、LCD TV、携帯電話用ディスプレイ、PDA等用にレーザで小さく切断される。材料トレーサビリティの目的で金属コートが施されたFPDの特定の場所にマーキングが必要となる。これは主に、生産工程の最初に切断前の大きなパネルの状態で行われ、小さく切り分けられる全てのサブパネルに対してマーキングされる。ほとんどの場合、マーキングの仕様は最大15μmの位置公差。スキャンビジョンはこのような用途では、非常に有益なソリューションになる。デュアルスキャンビジョンレーザがXYガントリーによってセクションごとに移動し、サブパネルにマーキングする。システム内蔵の高精度画像認識補正機構により、サブパネル上のマーキングは許容された公差内で行なわれる。他の高精度位置決め機構は不要だ。
 図3にあるシステムが対応する最大のパネルサイズは第6世代(G6)1500×1850mm。パネルは高速コンベヤシステムで搬送され、停止位置精度は数mmの誤差。しかし、基準マークがカメラの視界内にありさえすれば、スキャンビジョンシステムにとってこのような誤差は問題にはならない。また、基準マークが視界外にあったとしても、ガルバノミラーが高速に動き、基準点を見つけ出す。基準点の登録は各マーキング直前に実施され、二つの動作のインターバルは100ms以下であり、この間に生じる対象物のずれはほとんど無視できる。

HDD の精密部品高精度レーザ溶接

 ハードディスクドライブ業界はフラッシュRAMなどの新しい代替技術との激しい競争に直面しながら小型化、記録容量増、堅牢性向上、生産コスト削減に向かっている。言い換えれば、生産のスループットと精度に対する要求が極めて強い。
 ヘッドジンバルアセンブリ(HGA)の支持ユニットは高精度、高速のスポット溶接を必要とする。スキャンビジョンレーザはこのようなアプリケーションに最適のシステムだ。ハイパートロニクス社は、この技術を用いて従来モデルの2倍の高速化が可能な溶接機を造ろうとしている。

パッケージにアドオンマーキング

 IC製造プロセスの後工程には、ICはJEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)トレイに置かれる。人的ミスにより、誤った向きで置かれてしまうことが多々ある。ICユーザは、向きのチェックをせずに、自動的にPCBに実装された、向きの違うICは受け入れない。この間違いから生まれる損失やダメージは膨大なものだ。特に、自動車のSRSエアバッグセンサなどにはこのことが当てはまる。スキャンビジョンレーザはこのような問題を解決してきた。スキャンビジョンレーザを、最終パッケージング工程のテープ、レールマシンに配備し、この視認機能を用いて正しい位置と、正しい向きをマーキング前に確認することができる(図4 左)。
 また、既にマーキングされたICチップ上に追加のマーキングを施す要求がある。既存のマーキングは外部で施されることがあり、また使用する装置独自のドリフトもあるため、たとえ同一ラインで追加マーキングが行なわれたとしてもマーキング位置を固定することはできず、マーキングが不自然に見えることになる。スキャンビジョンレーザシステムは、最初のマーキングの登録を行い、元のマーキングに新しいマーキングラインが揃うように位置を調整することができる(図4右)。
 国内でハイパートロニクス社の装置を販売しているサンインスツルメントの竹林正直氏によると、現在スキャンビジョンを搭載している加工装置は1000、4000、5000シリーズ。加工用レーザは、IPGフォトニクス社、コヒレント社、スペクトラ・フィジックス社など、用途に応じて搭載。ハイパートロニクス社は、顧客の要望に応じて加工装置を開発し、出荷している。

図2 スキャンビジョンの光学系。カメラが加工レーザビームの光路上に配置されている点が特徴。このデザインにより、加工レーザビームと可視光とが同一光路を共用し、従来よりも高い精度でガルバノメータの絶対位置決めが可能となる。

図3 カットされていないガラスパネルとマーキング装置。15μm の公差内で次々にマーキングしていくのが図の右の装置。

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