March, 17, 2026, 東京--
3月6日(金)、第178回微小光学研究会「進化を続ける光変調器」が日本女子大・目白キャンパス(東京都文京区)とオンラインでハイブリッド開催された。主催は応用物理学会・微小光学研究会(代表:東京科学大・伊賀健一氏)。
同研究会は1980年12月、微小光学研究の推進および微小光学技術の普及・発展をはかることを目的に応用物理学会・光学懇話会の中の研究グループとして発足、2015年1月に現在の名称となり、研究会や国際会議の主催・運営、広報活動、その他同研究会の目的達成に必要な事業・活動を展開してきた。
具体的には、研究会を年に4回開催するとともに、国際会議MOC(MICROOPTICS CONFERENCE)や微小光学セミナーなどを開催している(ちなみに3月22日は「面発光レーザーの日」だ)。
今回の研究会、現地約100名、オンライン約100名の合計約200名の方々が参加するという、関心の高さが伺われるものとなった。以下、当日のプログラムを記すとともに、次章以降で各講演の概要を紹介する。なお、講演では学会発表前の研究成果も披露されていたので、本稿は事前配布された予稿集を元に作成した。
◆開会の挨拶:宮本智之氏(東京科学大)
◆光変調器の進展-各種単体変調器からEA変調器集積DFB-LDまで:中島啓幾氏(早稲田大)
◆VCSELの高速化に向けて-直接変調と外部変調:小山二三夫氏(東京科学大)
◆InP広帯域光変調器:小木曽義弘氏(NTTイノベーティブデバイス)
◆薄膜LN光変調器の広帯域化および高集積化:牧野俊太郎氏(古河ファイテルオプティカルコンポーネンツ)
◆Si光変調器の進化と最新技術–産総研ファブサービスの紹介:前神有里子氏(産総研)
◆電気光学型(ポリマー/強誘電体結晶)光変調器:横山士吉氏(九州大)
◆空間光変調器と応用:橋本信幸氏(日本女子大)
◆閉会の挨拶:波多腰玄一氏(微小光学研究会)
光変調器、研究・開発の歴史
変(復)調はアナログの時代から有線・無線を問わず、信号伝達をする際に欠くことのできない操作として通信・放送の発達を支えてきた。 通信媒体が光ファイバにシフトする光通信黎明期には、電気信号を光信号に変換するE/Oと、その逆変換を担うO/E実現が鍵となり、光変(復)調技術の開発がスタートした。
固体・気体レーザが出現した1960年代には、変調器・偏向器を別途用意してレーザビームを電圧印加で制御する技術が盛んに研究され、その開発結果は今でも通信分野以外で活用されている。しかし、1970年に半導体レーザ(LD)の室温連続発振が成功し、注入電流を閾値以上において高速変化させ直接変調が可能なことが明らかになると、光通信分野では外部変調器不要との認識が共有された。
ところが1980年代後半、単一モードファイバ長距離伝送において数Gbps(当時は強度変調-直接検波:IM-DD)を直接変調する際に深刻な課題があることが判明した。時あたかも急浮上したErドープ光増幅器を用いた非再生中継実現にはチャープ(変調時の波長変動)の小さい外部変調技術が切望され、二つの重要な技術が候補に上がることとなる。
その一つが、電気光学(ポッケルス)効果で光路の屈折率を変化させ位相変調を起こしたうえで、マッハ・ツエンダ(MZ)干渉系によって強度変調に変換するニオブ酸リチウム(LN)導波路型変調器。もう一つが電界吸収(EA)型変調器をDFB-LDに集積化しようとするものだった。
それから約40年の月日が経ち、当時では考えられないような膨大なデータが頻繁に行き交う今日、様々な光変復調技術・光変調器群が上記二つの手法に加え提案され、実用に供されている。短距離高速伝送を担う面発光レーザ(VCSEL)やシリコンフォトニクス変調器、さらに中長距離用広帯域InP変調器など、異なる材料や原理に基づく新たな踊り手が次々に登場、技術・市場の踊り場を突破して光通信の発展をけん引してきた。
音声・ファクスの送受信からスタートした光ファイバ通信は、これらの登場によってインターネットを支える超長距離大洋横断光海底ケーブルから、極近距離データセンタ内の光配線に至るまでラインナップは進化を遂げた。その結果として、生成系AIのような高度なサービスを人々が身近で手軽に享受できるインフラが構築された。光変調器の進化は、その点においても大きな貢献をしたと言える。加えて、光変調器関連においてはEOポリマー材料や非通信応用の空間光変調器など、日本発の優れた成果も目立っている。(研究会予稿集「はじめに」より筆者修正)
各種光変調器における研究・開発の最新動向
「光変調器の進展-各種単体変調器からEA変調器集積DFB-LDまで」を講演した中島氏は、歴史的経緯を交えながら各種技術の特徴とその適用例を紹介、さらに近年の超高速デジタルコヒーレント伝送やデータセンタ向けのサーバ間伝送・チップ間伝送で要求される高性能化および集積化の動向を紹介した。
変調能力増大への要求は止まるところを知らない。中島氏は、単体光変調器の代表例として自身が初期の開発に携わったLN導波路型MZ干渉光強度変調器を例にハイエンド光通信における歩みを振り返るとともに、他の材料・構造・原理による各種光変調器が参入して得た適用領域拡大の推移および将来展望を俯瞰した。
「まとめと展望」の中で、中島氏は「今後は異種材料・素子の混成が促進され、それにフィールドで応えることのできる組み合わせが光変調器に限らず生き残り、進化の担い手、すなわち環境の変化に耐えられるポテンシャルを持った技術を選別できる有為な人材の育成がいつの時代でも求められている」と指摘した。
面発光レーザは、レーザ単体としての性能も通常の半導体レーザを大きく凌ぐようになってきた。近赤外波長域での実用化は進み、現在の短距離光ネットワーク光源として中心的な役割を果たしている。一方、サイバー空間とフィジカル空間が一体化するサイバー・フィジカル・システムの発展を支えるには、エッジ・クラウドコンピューティング性能の大幅な高度化が不可欠だ。そこでは超高速・低消費電力光インターコネクト技術が求められている。特に、昨今のAIデータセンタの加速的発展に対しては、100Gbaud 以上の高速変調と低電力化が必要とされている。
「VCSELの高速化に向けて-直接変調と外部変調」を講演した小山氏は、 次世代光インターコネクトに向けて、高速・低消費電力動作を可能にする面発光レーザの高速化技術を紹介した。特に1060nm 帯単―モード結合共振器面発光レーザの直接変調帯域の拡大と、もうーつのアプローチとして面発光レーザに適合した変調器集積光源について述べた。
最後の「むすび」において、小山氏は「今後、帯域拡張と同時にW/bit最小化が強く求められる中で、VCSELの構造・集積・実装を含めた総合的な最適化が、次世代AIインフラを支える鍵になる」と指摘した。
「InP広帯域光変調器」を講演した小木曽氏は、InP-MZ光変調器が広帯域化に成功した過程を紹介。InP-MZ光変調器はLD等と同じp-i-n構造からスタート、半絶縁性基板を用いて寄生容量を低減し、n-i-n構造、さらにはn-i-p-n構造に進化した。加えて、容量装荷型進行電極を新たに装荷することで高性能IQ変調器を実現。ドライバIC一体化小型モジュールでは100GHz超の変調が可能で、次世代Oバンド短距離光トランシーバにも有望と言われている。
講演では実用化に至る経緯を説明するとともに、最近の開発状況も紹介された。小木曽氏は「AIデータセンタ市場からも多くの注目を集めており、ウエハの大口径化とともに今後はさらなる高速・低電力・低コスト化の動きが加速する」と指摘した。
LN光変調器は、小型・集積化という点で半導体には及ばないと言われているが、Siやquartz基板上にSiO2層を介して接合した薄膜LNを用いれば、光閉じ込めが強くなり小型化、Vπ低減、広帯域化が実現できる。低誘電率基板を使うことで高周波の変調信号の損失低減も可能だ。
「薄膜LN光変調器の広帯域化および高集積化」を講演した牧野氏は、薄膜LN変調器の特徴について他の変調器技術と比較するとともに、ドライバと薄膜LN変調器を集積したCoherent Driver Modulator (CDM)の特性を紹介。近年の研究開発としては、低誘電率基板を用いた広帯域化および異種材料集積を適用した高集積化について紹介した。牧野氏は、「異種材料集積PICの評価については今後の研究開発項目」だと指摘している。
CMOSプロセスと高い親和性を持つシリコンフォトニクスは、大規模集積・低コスト・量産性を兼ね備えた次世代光集積技術だ。中でも光信号と電気信号を高速に相互変換する光変調器は、光送信器における中核デバイスとして極めて重要な役割を担っている。
「Si光変調器の進化と最新技術-産総研ファブサービスの紹介」を講演した前神氏は、Si光変調器の基礎原理を解説、高速化・低駆動電圧化・低損失化などの課題克服に向けた技術進化に関する研究事例を紹介した。さらに、こうした先端的なシリコンフォトニクス研究開発を支える基盤として、試作環境を提供する「産総研ファブサービス」についても紹介していた。
前神氏は「今後も異種材料集積による機能拡張はさらに発展すると予想されるが、一方で、Si単体デバイスにおいても、接合構造やデバイス設計の最適化を通じて接合限界を押し広げる取り組みを継続して行くことが重要」だと指摘した。
強誘電体薄膜結晶を用いた電気光学導波路は、飛躍的性能向上によって超高速光変調デバイスへの応用が実現されている。超高速光変調は、短距離および中距離光ファイバネットワークの光伝送量の拡大を担うデバイス技術。400GbEから1.6ThE、さらには3.2ThEを目指すハイパースケールデータセンタ応用などへの貢献度も高い。さらには、200~300GBdを超える光変調速度の到達も視野に入る。
強誘電体光変調器は、これまでにはない強い電気光学効果を持つ結晶性薄膜を用いて作製されており、速度、小型化、周波数応答性の向上など優れた性能を発揮する。「電気光学型(ポリマー/強誘電結晶)光変調器」を講演した横山氏は、薄膜作製に関する材料開発や光デバイス開発に基づくこれらの技術基盤は、次世代の超高速光通信システムに活用され光ファイバネットワークの革新を牽引すると期待を述べた。
横山氏は「まとめ」の中で、「信頼性の高い光変調技術は、多様な科学・産業技術への応用ではLiDAR、サテライト衛星間通信、自動車用センサ、量子コンピュータに関連する光制御など、高性能光変調器への期待は大きい」と指摘した。
電気、光、熱などの信号で空間的な複素振幅分布を書き込み、光波の複素振幅を変調する素子が空間光変調器(SLM)だ。古くはBSOやPLZTなどの電気光学素子、そしてアイドホールや光書き込み型液晶が光情報処処理や画像表示に利用されてきた。近年ではより実用的な光デバイスとして光MEMSや液晶素子も応用されている。
「空間光変調器と応用」を講演した橋本氏は、液晶を用いたSLM、特に液晶光学素子とその応用の歴史、さらに近年研究の盛んな幾何位相素子を含めて紹介した。橋本氏は「2値だが5000fps以上のフレームレートを持つ強誘電性液晶空間光変調器とその応用も興味深い」と指摘した。
今後のイベント予定
179回の微小光学研究会は7月13日(月)、「偏光制御と光デバイス」をテーマに東京科学大・大岡山キャンパス(東京都目黒区)で開催される。また、8月3日(月)と4日(火)の両日には、オンライン形式で「微小光学セミナー2026」も開かれる予定だ。
9月27日(日)から30日(水)の4日間は、ベルギーのHotel Le Plaza Brusselsで「第 31回微小光学国際会議(MOC2026)」が開催される。これらの情報については、下記URLを参照してほしい。
https://comemoc.com/
(川尻 多加志)