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光ファイバでインフラを見守る
光ファイバセンシング振興協会が第13回シンポジウムを開催

December, 8, 2025, 東京-- 

 近年、分布型音響センサ(DAS)による既設光ファイバ通信網を活用する取組みを中心に光ファイバセンサの社会実装が進展、これまでのトライアルや研究開発レベルからその潮目は確実に変わりつつある。さらに、高経年化が懸念される我が国のインフラを見守る手段としての期待も高まっている。
 このような状況の中、11月27日(木)には光ファイバセンシング振興協会(理事長:東京科学大学教授・中村健太郎氏)による第13回シンポジウムが東京大学(東京都文京区本郷)の山上会館において、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催された。
 同協会の活動のスタートは2008年の5月、今年で17年目を迎える。コロナ禍を経て昨年度は5年ぶりにシンポジウムを開催した。今回のテーマでは「光ファイバでインフラを見守る」が取り上げられ、関連の講演やパネルディスカッションが行われた。この他、10社によるデモ機やポスター展示も披露されるなど、現地で約120名、オンラインで約50名が参加するなど、多くの人の関心を集めたイベントとなった。シンポジウムでの講演タイトルと演者を以下に記すとともに、次章においては講演概要を紹介する。

◆主催者挨拶:中村健太郎氏
◆基調講演①光ファイバセンシングを使ったスマートインフラ:曽我健一氏(カリフォルニア大学バークレー校)
◆基調講演②既存通信用光ファイバを活用したインフラ老朽化対策:佐々木理氏(NTT-ME)
◆デモ機/ポスター並びに実用センサ見学・体感
◆パネルディスカッション「ダークファイバでインフラを見守る」
パネリスト:佐々木理氏(NTT-ME)、永谷英基氏(鹿島建設)、大森由明氏(日本下水道光ファイバー技術協会)、長谷川明紀氏(JR東海)、山崎充氏(中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋)、櫻井健氏(応用地質)、森啓年氏(山口大学)
モデレータ:今井道男氏(鹿島建設)

インフラを支える光ファイバセンシング
 カリフォルニア大学バークレー校の曽我健一氏は「光ファイバセンシングを使ったスマートインフラ」と題し、光ファイバセンシングとデータ解析技術がどのように工学的知見を提供し、変化を続ける社会的・技術的要求への適応を可能にするかについて、事例を交えながら紹介した。
 近年、センサシステムやデータ解析技術の進歩によって、インフラの状態評価やモニタリング手法は大きな革新の時代を迎えようとしている。スマートインフラは、構造物に埋め込まれたセンサから得られる詳細な情報を通してインフラの実際の挙動を把握でき、それに基づき新たな設計・建設・運用・維持管理プロセスを推進することができる。その中でも光ファイバセンシングは、短期・長期の双方において非常に有効なモニタリングができ、スマートインフラの実現に大きく貢献する可能性を秘めている。
 曽我氏は講演のまとめとして、最近のセンサ技術およびデータ分析におけるイノベーションは、施工中および維持管理段階におけるインフラの実際の性能を理解する上で極めて有望な機会を提供しているとして、例えば分布型光ファイバは、他のセンサでは得られない分布歪みデータを提供できると指摘した。
 また、モニタリングシステムは施工パッケージの一部として組み込まれるべきで、それによって長期的かつ積極的な維持管理モニタリングができるようになり、品質管理、保守、災害への強靭性向上や再利用にも貢献できるとした。さらに、次世代の観測工法とは設計計算とモニタリングの積極的な統合(デジタルツイン)を意味しており、モニタリングデータから学ぶことによって工学的パラメータのみならず、インフラシステムとしての不確実性をも理解できると述べた。

 NTT-MEの佐々木理氏は「既存通信用光ファイバを活用したインフラ老朽化対策」と題し、インフラの老朽化で起こる事故やトラブルの解決手段として、既存の通信用光ファイバを用いたDASの実証事例や今後の展望を交えながら、社会実装に向けた課題と可能性を提示した。
 八潮市の道路陥没事故をはじめ、近年では全国各地でインフラの老朽化に起因する事故やトラブルが多発しているが、こうした突発的事象は市民生活や経済活動に大きな影響を及ぼす。対策については従来の点検・補修だけでは限界がある。そこで、既設の通信用光ファイバを活用したDASに期待が集まっている。通信網という社会に張り巡らされた既存の資産を活かすことで、道路・橋梁・地盤の異常をリアルタイムかつ広域に把握し、防災・減災や維持管理の効率化に直結させようというものだ。
 講演では、通信用光ファイバを活用した社会インフラメンテナンスとして、豪雪エリアにおける除雪判断に加え、トンネル掘削工事時や道路掘削工事時の地盤振動検知の取り組みを紹介。この他、NTTと産業技術総合研究所の光ファイバセンシング地中空洞検知共同研究プロジェクトを解説するとともに、道路舗装の健全性モニタリングを目指す光ファイバセンシングによる道路管理の可能性についても述べた。
 佐々木氏は最後に、建設業における担い手不足に対応するため、若者や外国人から選ばれる産業となるよう「給与が良い」、「休暇がとれる」、「希望が持てる」、「かっこいい」の「新4K」実現が望まれると述べ講演を締め括った。

パネルディスカッション:ダークファイバの活用
 社会インフラの老朽化や事故の増加、さらには光ファイバセンシング技術の進展によってダークファイバ(敷設されているが未使用で光信号の通っていない通信用光ファイバ芯線)の利用によるインフラ監視が注目を集めている。
 パネルディスカッションでは、メーカやユーザが現場における具体的な活用や成果、課題を紹介するとともに、今後の展望について議論を行い、ダークファイバを用いた新しいインフラモニタリング技術の将来を探った。
 基調講演においてアクセス網について紹介した佐々木理氏(NTT-ME)の他、モデレータの今井道男氏(鹿島建設)の進行のもと、永谷英基氏(鹿島建設)が埼玉県八潮市の道路陥没事故の詳細やインフラに対する国の対策等を紹介、大森由明氏(日本下水道光ファイバー技術協会)は下水道、長谷川明紀氏(JR東海)は鉄道、山崎充氏(中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋)は高速道路、櫻井健氏(応用地質)は国道、森啓年氏(山口大学)は河川堤防など、各々がダークファイバ活用の現状と今後の動向、課題について解説した。
(川尻 多加志)