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AI/MLに展開するデータセンタ関連光技術
光ネットワーク産業・技術研究会が2025年度の第2回公開討論会を開催

September, 4, 2025, 東京-- 

 生成AIの登場と急速な普及を受け、いまAIデータセンタの構築に莫大な投資が行われている。そんな中、「AI/MLに展開するデータセンタ関連技術の最新動向」をテーマとした、光産業技術振興協会/光ネットワーク産業・技術研究会(代表幹事:慶應義塾大学・津田裕之氏)の2025年度第2回公開討論会が、7月31日(木)、東京科学大学・蔵前会館(東京都目黒区)とオンラインのハイブリッド形式で開催された。以下に当日の講演タイトルと演者を記すとともに、次章においては各講演の発表概要を紹介する。

◆挨拶:津田裕之氏(代表幹事)
◆データセンタ/AIスーパーコンピュータネットワークの研究開発動向とネットワークを革新する光スイッチ:佐藤健一氏(名古屋大・名誉教授)
◆電気領域帯域多重化技術による超高速光通信:中村政則氏(NTT未来ねっと研・トランスポートイノベーション研究部特別研究員)
◆自由空間光(FSO)通信に向けた2次元ビームステアリングシリコンPICの最新動向:吉田知也氏(産総研・光電融合研究センター主任研究員)
◆DC-220GHzフォトディテクター:梅沢俊匡氏(NICT・ネットワーク研究所フォトニックICT研究センター主任研究員)

急速に進展するデータセンタ関連の光技術
◆データセンタ/AIスーパーコンピュータネットワークの究開発動向とネットワークを革新する光スイッチ:佐藤健一氏(名古屋大)
 AI計算能力の需要増は、データセンタを構成するGPU/CPU/TPU等のXPUやスイッチ、リンクなどのデバイスの進展速度を大きく上回っており、そのギャップを埋めるために並列数を拡大することが求められている。
 数十万~数百万のXPUを相互接続するための遅延、帯域、規模、消費電力、拡張性、コスト等の要求条件を満たす大規模なAIファクトリ/クラウド・ネットワークの効率的な構築は喫緊の課題。大規模並列化に伴う消費電力の急増も深刻で、デバイスの液冷や小型原子炉開発を含む原子力発電への依存も加速している。
 AIサービスの将来の発展を考える上では、AIコンピュータネットワークのさらなる革新に向けた技術開発が重要だ。そこでは、速度/帯域への依存性が小さいトランスペアレントな光リンク/光スイッチ技術がキーテクノロジーとなる。
 Googleは、ほぼ全てのデータセンタネットワークに光スイッチを導入、TPUをベースとするAIファクトリへも光スイッチを適用している。両者のネットワークでは導入目的と効果がそれぞれ異なり、将来的な発展を加速する光スイッチへの要求条件も異なる。
 講演では、AIコンピュータネットワークの最新動向を概観した後、各種の並列実装と物理構成(パッケージ/トレイ、スケールアップドメイン、スケールアウトドメイン)の実現方法を、GoogleとNVIDIAを対比させながら解説した。
 Googleは、2D/3Dトーラスを用いてICI(Inter-Chip Interconnect)ドメインを構成する。これに対し、NVIDIAはNVリンク/NVスイッチによってHBD(High Bandwidth Domain)を構築する。双方いずれにおいてもドメインサイズの拡大は、処理性能の向上に欠かせないものとなっている。
 将来の光スイッチの広範な適用の可能性を議論する上で、これらメモリセントリックな領域とスケールアウトを実現するネットワークセントリックな領域の各々において、光スイッチの果たすべき役割と必要性能は異なる。佐藤氏は、光スイッチとその実現技術を夫々の領域について紹介、講演の最後には光スイッチの広範な導入に向けて、コントロール系を含む今後補強すべき技術について解説するとともに、日本については、デバイス分野において将来幅広く利用が想定されるシリコンフォトニクスなどで力を発揮していけば勝機はあると述べていた。

◆電気領域帯域多重化技術による超高速光通信:中村政則氏(NTT未来ねっと研)
 AIサービスにおける学習データ量の増加や、高機能・高性能なAIサービス実現のために複数のデータセンタが連携した分散学習が進展する中、データセンタ間における通信速度の高速化が喫緊の課題となっている。その要求に応えるため、短距離通信で主に用いられているイーサネットの大容量化が進められており、800GbEや1.6TbEの標準化と検討も急速に進展している。
 通信方式としては、データセンタ内ではシンプルな構成で実現できる強度変調・直接検波(IMDD)が採用されている一方、データセンタ間では光ファイバ伝送中の波形歪みを補償できるデジタルコヒーレント方式が採用されている。800GbE/1.6TbEの検討では、IMDD方式およびデジタルコヒーレント方式の双方において波長あたりの伝送容量を増加させるために変調信号(シンボルレート)の高速化が進められている。
 講演では、シンボルレート高速化に必須なデジタルアナログコンバータ(DAC)の高速化に向け、広帯域なアナログ回路と複数のDACを用いる電気領域帯域多重化技術について、時間領域多重方式と周波数多重方式の双方の特徴と利害得失が紹介された。
 同社の研究所では、アナログ帯域150GHz超のInP-DHBT電気ミキサおよびアクティブコンバイナを用いた周波数多重方式による200Gbaud超級信号生成に成功するとともに、IMDD光伝送において波長あたり伝送容量500Gb/s超のOバンド伝送および600Gb/s超のCバンド伝送にも成功した。

◆自由空間光(FSO)通信に向けた2次元ビームステアリングシリコンPICの最新動向:吉田知也氏(産総研)
 AIやビッグデータ処理が急速に進展する中、電気ケーブルや光ファイバを用いた従来の有線型インターコネクトにおいては、レイアウトの柔軟性や敷設の煩雑さなどで課題が顕在化しつつあるという。そのため、物理配線を介さずに柔軟なリンク構成が可能な自由空間光(FSO)通信が次世代インターコネクト技術として注目されている。
 このような状況の中、小型化・高集積性・CMOS互換性という優位性を持つシリコンフォトニクス集積回路(Si-PIC)を用いたビームステアリングデバイスが、データセンタ内のFSO通信を実現すると期待を集めている。このデバイスでは、グレーティングカプラを用いたフェーズドアレイ方式や光路切替方式など、様々な方式のデバイスが提案されてきたが、これらは制御回路の複雑化や波長依存性などに課題があった。
 吉田氏の研究チームは、表面結合型で低波長依存・低偏波依存性を備えた「エレファントカプラ」をビームエミッタに応用した光路切替方式の2次元ビームステアリングデバイスを提案。これは広帯域動作と2次元ビームステアリングが両立でき、かつ小型・量産可能なFSO向けビームステアリングデバイスとして有望だという。
 研究チームは、マッハツェンダ・スイッチを要素とした1×256スイッチと16×16のビームエミッタ(エレファントカプラ)アレイを組合せたSi-PICによる2次元ビームステアリングデバイスを開発。Cバンド全域にわたる動作を実証するとともに、1.5mおよび10mの自由空間において15.36Tbit/sの波長多重信号伝送に成功した。吉田氏は、次世代データセンタ内の光インターコネクトの構築に向けた有力なアプローチだと述べた。

◆DC-220GHz フォトディタクター:梅沢俊匡氏(NICT)
 データセンタネットワークにおけるデータ速度増加傾向は、800GbE~1.6TbEへと急増している。100Gbaud PAM-4を搭載した4レーン(4-λ)システム(800G-FR4)、または50Gbaud PAM-4を搭載した8レーン(8-λ)システム(800G-PSM8)の採用は、800GbE通信実現のための候補の1つだ。
1.6TbE、3.2TbE、さらにそれ以上のデータ通信を実現する方法としては、1レーンの速度を200Gbaud以上に向上させることが考えられ、今後は電気デバイス・光デバイスでの3dB帯域幅は100GHzが必要になると予想されている。梅沢氏は、3.2TbE以降では「レーンの並列化」と「マルチ変調方式」に加え、データ速度(3dB帯域幅)向上の検討が必要だと述べていた。
 一方、5G無線通信では6GHz以下のマイクロ波帯から28~39GHzに代表されるミリ波帯を利用している。そこでは、異なる周波数バンド帯を束ねて通信を行うキャリアアグリゲーション技術が重要な技術になる。6G無線通信では、さらなる高周波域であるD帯:110~170GHzの利用が検討されているが、これら6GHz帯~170GHz帯の光無線信号を光ファイバ無線で1つの受信機で受信できれば、小型で低コストな受信機を実現できる可能性がある。
 講演では、直流レベルから220GHzまでの動作が可能な広帯域フォトディテクタ(PD)が紹介され、研究チームではPD単体で3dB帯域幅>220GHz(推定260GHz)、感度0.1A/Wを達成、SOA集積モジュールにおいては3dB帯域幅=200GHz、感度16A/Wを達成した。梅沢氏は、SOA利得は市販のTIA(40-50GHz)とほぼ同程度であり、QD-SOAは利得の温度安定性に優れていると述べていた。

次回研究会
 次回の第3回討論会(ワークショップ)は11月25(火)もしくは27日(木)、早稲田大学の西早稲田キャンパス(東京都新宿区)で開催される予定だが、テーマは今のところ未定とのこと。詳しい情報は研究会のホームページに掲載されるので、下記URLで参照されたい。
https://www.oitda.or.jp/study/onit/
(川尻 多加志)