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進化する自動運転技術
自動車・モビリティフォトニクス研究会が2024年度第4回討論会を開催

January, 30, 2025, 東京-- 

 完全自動運転「レベル5」の実現を目指して、その研究・開発が世界中で活発に進められている。そんな中、光産業技術振興協会の自動車・モビリティフォトニクス研究会(代表幹事:奥寛雅氏 群馬大情報学部教授)が1月17日(金)、2024年度の第4回討論会を東京科学大(東京都目黒区大岡山)とオンラインのハイブリッド形式で開催した。今回のテーマは「センシング・自動走行」だ。プログラムの各題目と講演者を以下に記すとともに、次章では下記②から⑤までの講演概要を紹介する。

①開会挨拶:代表幹事 奥寛雅氏(群馬大情報学部教授)
②LiDARを用いたモビリティのための3次元デジタルツイン:新熊亮一氏 (芝浦工大工学部情報工学科教授)
③モビリティを支える車載向けイメージセンサーのセーフティ&セキュリティ技術:小股健太郎氏 (ソニーセミコンダクタソリューションズ車載事業部車載商品技術部統括課長)
④レーザー測域センサを搭載したAMRの開発と利活用:柿木泰成氏 (REACT取締役)
⑤自律分散協調技術促進のためのロボット競技会の設立と期待される光技術:竹本裕太氏 (三菱電機情報技術総合研究所主席研究員)

センシングと自動走行のトピックス
②芝浦工大の新熊氏は、LiDARで得た3次元点群データを基にして、実空間をデジタル空間にリアルタイム形成するデジタルツイン技術を開発、車載センサを使わなくてもマイクロモビリティ(人が乗る一般の乗用車ではなく、物品などを運ぶための小型のモビリティ)の高度な自動走行を可能にする仕組みを提案している。
 具体的には、死角を解消するため複数のLiDARを統合してリアルタイム空間認識を実現、さらにAIによって車両や歩行者を個別認識して、交通事故のリスクを予測しながら侵入禁止エリアの設定や衝突を回避する仕組みを作った。開発したトラッキングシステムは、実データを用いた評価により複数台のマイクロモビリティを同時に管理して安全性確保が可能なことが確認されており、通信レートが低下した場合にはデータ送信を重要度に応じて最適化することで安全性を高めている。
 すでに多くの実証実験を通して有用性が確認されている他、全国20か所以上でLiDAR常設システムを設置するなど、実用化に向けた取り組みも進んでいるという。実用化を目指して、芝浦工大ベンチャー認定第1号「ハイパーデジタルツイン」も設立された。

③自動車のAD(自動運転)/ADAS(先進運転支援システム)では、これまでドライバー自身が行っていた周辺状況の確認や障害物有無の把握、さらには車内状況の確認を車載システムが行う。そのためセンサは自動車にとって、もはや欠かすことのできない存在となっている。
 イメージセンサには高解像度・高感度・ハイダイナミックレンジ・LEDフリッカー抑制といった本来の性能に加え、近年では車載向けとしての安全性確保につながる品質対応も重要な要求事項となっている。自動車業界では、製品開発プロセスに関する国際規格も数多く存在するが、メーカーとしては製品そのものの性能のみならず、開発プロセスも業界標準に沿って作り込む必要があり、さらに開発時の各種エビデンスを用いて製品開発フローの正当性を証明するとともに、顧客からのアセスメントや監査を通して、信頼されるサプライヤーとしてのポジションを築いていくことが求められている。
 ソニーセミコンダクタソリューションズの小股氏は、自社の車載イメージセンサの機能安全・サイバーセキュリティに対する取り組みを紹介。具体的には、QM・車載固有のプロセスを核に全ビジネス活動をスコープに入れての機能安全・セキュリティ活動の推進やイメージセンサで対応すべき故障・脅威を特定して実際の製品や製造の中で実施している対策、さらにはセキュリティ脅威情報の収集・分析および研究開発事例を紹介した。
 小股氏は、これまでセキュリティは単なるコスト要因だと思われがちだったので、これからは安心を価値として「見える化」することが必要だと提案するとともに、認知していない脅威は対応できないと指摘、産業界とアカデミアのタッグが必要だとも述べていた。

④自律移動ロボット(Autonomous Mobile Robot:AMR)登場以前のAGV(Automatic Guided Vehicle)で採用されていた磁気テープによる誘導方式は、複雑なルートを構築するのが大変で、導入コストも高めだった。当時はレーザセンサやビーコンもまだ高価であったし、屋内ではGPSが使えないこともあって、屋内におけるガイドレス自律移動は難しかった。
 近年ではLiDARを始めとしたコア要素部品が廉価になり、搭載されるCPUの性能・価格もリーズナブルになった。さらに自律移動の理論も進展したことで、AMRは急速に普及している。導入コスト低減によって配膳ロボットなど、比較的精度の粗い走行が許される業界で活用が進み(ただし、その多くは海外製)、今後様々な業界での活用が期待されている。
 REACTが開発したAMRは、ハードウェア設計やソフトウェア構築まで内製したAMR受託開発で培った技術を整理して作られた。大径タイヤと高パワーモータによって多少の段差(6cmまで保証)がある環境でも導入が可能だ。各部のモジュール化によりバリエーション展開やカスタマイズの開発負荷の低減にも成功、荷台・LiDARの配置を搬送に特化して設計(カメラ類は標準装備にしていない)、移動部はコンパクトで盛り付けを変更しやすいという特長を持つ。講演では、構内搬送や農業分野での活用事例が紹介された。
 柿木氏は、国内企業が成長するにはハード・ソフトや作業の改善など、なるべく幅広く現場ごとに少しずつ対応することが求められると指摘。「作れば売れる」段階になったら既存大手企業や海外製と勝負できないとして、現場での細やかな対応をなるべく低コストで行っていく必要があると述べた。そのためには社内対応、自前調達、ワンストップ提供が重要であるとして、大量生産に適合した分業文化からの脱却を訴えた。センサについては、FA(Factory Automation)用に比べ多少雑でも調達しやすいものがあると助かると希望を述べた。

⑤現状のロボットは、限定・制限された環境下を想定したものが多く、人間が生活する多様な環境において周囲の環境変化に柔軟に対応しながらタスクを実現することは難しい。多様な用途や環境に対応できるロボットを開発するには、ロボット自身に自律・分散・協調の機能を持たせる必要がある。そして、これらの機能を持つシステムを実用レベルに引き上げるには、その開発を促進するための仕組みが必要だ。
 三菱電機は、人とロボットが共存する社会に向け、その技術開発を促進するためのロボット競技会を提案した。ニューテクノロジー振興財団との議論を重ねながら、自律・分散・協調の技術のオープンイノベーションを目指すという。2月22、23日(土、日)に開催される「第45回全日本マイクロマウス大会」で競技のデモンストレーションが行われる。
 競技は2チームの対戦で行われ、自律・分散・協調技術を持つ各3台の小型ロボットが迷路のようになっている自陣地にあるボールを拾って相手陣地に投げ込み、その数を減らしていくというもの。5分経過後に得点の多いチームが勝利する。ロボットの大きさは手のひらサイズで、赤外LED/PDやToFセンサなど、各種センサの他、MPUやCPU、Wi-fi、ボールを拾って投げ込むための機構などが搭載されており、移動速度は2.5m/sとのことだ。
 竹本氏は、競技に取り組むことでシステムの検討や制御技術、通信・センシング技術など、技術力の向上を図るとともに、新たな技術課題の発見や共有ができるとしており、研究モチベーションの維持も期待していると述べた。

次回討論会
 次回の討論会は3月14日(金)、東京都千代田区・お茶の水の連合会館にて開催される予定だ。テーマは現在検討中とのことだが、詳細については下記URLにて確認していただきたい。
https://www.oitda.or.jp/study/am/

(川尻 多加志)