January, 14, 2025, 東京--
学術変革領域研究(A)の「光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成」(領域代表:早稲田大理工学術院教授・川西哲也氏)の第2回公開シンポジウム(Photonics for Computing & Computing for Photonics)が、昨年の12月17日(火)、情報通信研究機構(NICT)本部(東京都小金井市)とオンラインのハイブリッドで開催された。当日プログラムの各題目と講演者は以下の通りだ。
◆オープニング:川西哲也氏(領域代表:早稲田大)
【フォトニックコンピューティング研究の最前線:招待講演セッション】
◆シリコン光回路を用いたフォトニックコンピューティング:竹中充氏(東京大)
◆シリコン光集積回路を用いた新型光ニューラルネットワーク演算:Guangwei Cong氏(産総研)
【光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成-進展と今後の展開-:領域講演】
◆光の極限性能を引き出す新たなデバイス基盤:砂田哲氏(金沢大)
◆光の極限性能を引き出すシステム構造:鯉渕道紘氏(国立情報学研)
◆光の極限性能に基づくコンピューティングメカニズム:内田淳史氏(埼玉大)
【新時代に向けた光と情報の結節:招待講演セッション】
◆新時代に向けた光と情報の結節-フォトニックコンピューティングの過去・現在・未来-:谷田純氏(大阪大)
◆ポスターセッション
【散乱・揺らぎ場の包括的理解と透視の科学:招待講演セッション】
◆散乱透視学のねらいと生体応用:的場修氏(神戸大)
◆生命科学顕微鏡の計算補償光学:松田厚志氏(NICT)
◆光情報処理を活用した散乱・揺らぎ抑制イメージング:渡邉恵理子氏(電気通信大)
◆ダイアローグ-Photonics for Computing & Computing for Photonics-
谷田純氏、竹中充氏、Guangwei Cong氏、松田厚志氏、渡邉恵理子氏、長谷川幹雄氏 (東京理科大) 、川上哲志氏 (九州大)、笠松章史氏(NICT)、堀﨑遼一氏(東京大)、川西哲也氏 (モデレータ)、的場修氏 (モデレータ)
◆クロージング:鯉渕道紘氏
学術変革領域研究
学術変革領域研究は、新たな研究領域を設定して異分野連携、共同研究、人材育成等を図る大規模なグループ研究をサポートするため令和元年(2019年)度に創設されたものだ。研究には(A)と(B)の2種類がある。
この内(A)は、多様な研究者の共創と融合により提案された研究領域において、これまでの学術体系や方向を大きく変革・転換させることを先導するとともに、我が国の学術水準の向上・強化や若手研究者の育成につながる研究領域の創成を目指し、共同研究や設備の共用化等の取組を通じて提案研究領域を発展させるという目標を掲げている。「光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成」はこの(A)に属している。
一方の(B)は、次代の学術の担い手となる研究者による少数・小規模の研究グループ(3~4グループ程度)が提案する研究領域において、より挑戦的かつ萌芽的な研究に取り組むことで、これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを先導するとともに、我が国の学術水準の向上・強化につながる研究領域の創成を目指し、将来の学術変革領域研究(A)への展開などが期待される研究を対象としている。
光とコンピューティングの融合
フォトニックコンピューティングの研究は急速に進んでいる。AIやBeyond 5Gの応用との強い繋がりを有する光アクセラレータ研究が発展する一方、光が持っている多様な特徴を情報処理と結びつける新しい基礎的研究も次々と登場している。研究プロジェクトでは、先端研究での多様性を高いレベルで実現するとともに、「光とコンピューティング」という研究領域を領域全体が一丸となり、一体性を追求するとしている。研究期間は令和4年度から令和8年度までだ。
研究領域の基軸となるコンセプトは、光の極限性能だ。①光の限界性能のコンピューティングへの活用、②未踏の潜在能力の開拓、③光の利活用を阻む構造的限界の克服という3つのテーマを掲げる。研究プロジェクトでは、その実現のため我が国の光とコンピューティング研究で培われてきたメカニズム・デバイス・アーキテクチャの具体的研究の先導性を活かすとともに、公募研究を含め研究の一層の拡大と充実を目指す。
研究を推進するには、既存の研究に囚われることなく新しい視点や着想・技術を開拓するとともに、異分野との連携を促進することが求められる。フォトニックコンピューティング分野はこれまで、材料・物理・デバイス・メカニズム・アーキテクチャ・アルゴリズム・アプリケーションなど、幅広い階層の視点が融合することで開拓されてきたという歴史を持つ。研究プロジェクトでは、この事実を踏まえつつ特に研究者間の連携に注力して、研究を推進して行く。
研究の柱
目標に掲げられているのは、光の伝搬高速性や低損失性・広帯域性・多重性・実世界接触能等を追求し、光科学技術と情報科学技術が高度に融合したフォトニックコンピューティングの創出だ。具体的にはA、B、Cの3つの研究柱があり、さらにそれぞれの傘下に複数の計画研究が設定されている。各研究ともに応⽤への橋渡しを視野に入れ、かつ関連する研究項⽬と強く連動させる。その内容と代表者を以下に記すとともに、今回のシンポジウムで行われた3本の領域研究の講演概要も紹介する。
◆研究柱A(計画研究A01、A02)『光の極限性能を引き出すシステム構造』
光のコンピューティングへの利活⽤の障壁となっている構造的限界に焦点を当て、光本来の性能を発現させるシステムアーキテクチャの研究を行う。具体的なテーマは、光の⾼速性・多重性を最大限に引き出すフォトニック近似コンピューティングや光と電⼦系の最適結合を実現するタスク分解など。
・A01(近似コンピューティング×光)極限光技術を生かすフォトニック近似コンピューティング:鯉渕道紘氏(国立情報学研教授)
鯉渕氏は講演において光電融合通信や光電融合計算、光演算における実証、シミュレーションなど、「光×コンピューティング」に関しての基礎研究を紹介した。アプリケーションとしてはAI対応やセキュリティ、ソート、バンデッド問題のソルバーの発展を対象に、ピンポイントで戦える部分を見つけたいと述べていた。
・A02(光×電子系の最適結合)光基盤と応用の最適結合を実現するシステム構造研究:川上哲志氏(九州大准教授)
◆研究柱B(計画研究B01、B02、B03)『光の極限性能に基づくコンピューティングメカニズム』
光の限界性能(光の時空間多重性、多値表現能⼒など)を活⽤するコンピューティングメカニズムを開拓する。具体的テーマは、光リザーバコンピューティング、極限的光変調のコンピューティングへの展開、光意思決定などの⾼次光機能の創出など。
・B01(複雑系フォトニクス)複雑系フォトニクスによるフォトニックコンピューティングの変革:内田淳史氏(埼玉大教授)
内田氏は、複雑系フォトニクスによるフォトニックコンピューティングの変革、極限光変調によるフォトニックコンピューティングの変革、光の極限性能による強化学習の変化と応用開拓など、光の極限性能に基づくコンピューティングメカニズムを紹介した。光の極限性能を活用した光コンピューティングへの応用を目指す。
・B02(極限変調×光)極限光変調によるフォトニックコンピューティングの変革:川西哲也氏(早稲田大教授)
・B03(光の極限性能×コンピューティング)光の極限性能による強化学習の変革と応用開拓:長谷川幹雄氏(東京理科大教授)
◆研究柱C(計画研究C01、C02)『光の極限性能を引き出す新たなデバイス基盤』
光の未開の潜在性を引き出すための重要課題に焦点を当て、デバイス基盤の⾰新に取り組む。具体的テーマは、光の多重性をコンピューティングに活⽤する集積光デバイス、光と電⼦系とのボトルネックの解消に向けた超⾼周波エレクトロニクスとフォトニクスの融合など。
・C01(光多重化×コンピューティング)光多重化によるフォトニックコンピューティングデバイスの変革:砂田哲氏(金沢大教授)
砂田氏は「Photonics for Computing」と「Computing for Photonics」の関係は欠点を補い合うものだと述べるとともに、光回路ではイメージのような大規模データを取り扱うのが困難なため、イメージング技術を援用して光回路が演算しやすいようイメージを時間信号に変換する必要性があると指摘。高速現象のイメージングには、光回路の高速演算・圧縮を利用できるのではないかとも述べた。
・C02(光の極限性能×エレクトロニクス)超高速シリコンアナログ回路と超高速光回路の融合:笠松章史氏(NICTセンター長)
◆公募研究
・A03 光エッジコンピューティングのための光電融合システム:塩⾒準氏(⼤阪⼤准教授)
・A03 光複素振幅分布を入出力とする光電子融合型AIハードウェア:⾼林正典氏(九州⼯業⼤准教授)
・B04 Koopman作用素を用いたレーザダイナミクス確率的挙動のモデル化:⼤久保潤氏(埼⽟⼤教授)
・B04 空間光多重化を用いた並列探索型空間フォトニックイジングマシン:下村優氏(⼤阪⼤助教)
・B04 マイクロコムによる周波数分割型集積光リザバーコンピューティング:久世直也氏(徳島⼤准教授)
・C03 光磁気変換を利用した導波路型スパイキング光ニューロン:庄司雄哉氏(東京科学⼤准教授)
・C03 磁気光学効果を利用した光回折型ニューラルネットワーク:⽯橋隆幸氏(⻑岡技科⼤教授)
・C03 環境と一体化した光計算により代謝・行動を最適化する液滴ロボット:斎⽊敏治氏(慶應⼤教授)
・C03 光スラブ導波路型フーリエ変換回路を用いた高機能光情報信号処理回路:瀧⼝浩⼀氏(⽴命館⼤教授)
今後のイベント
2025年度は、6月29日(日)から札幌コンベンションセンター(北海道・札幌市)で同時開催されるOECC(30th OptoElectronics and Communications Conference)2025とPSC(International Conference on Photonics in Switching and Computing)2025の中のPSCにおいて第2回の国際シンポジウムが開催される予定だ。
領域全体の関係者が集う領域会議も年2回行われており、8月には九州大で第6回、12月には国立情報学研で第7回が開催される。一方、領域内では情報分野と光学分野の研究者の相互理解と連携研究促進のために「ARC(Architecture)×光」研究会も定期的に開催されている。
外部の人も参加できる「光×コンピューティング」オープンセミナーは、原則・毎月末の木曜日16時30分から開かれており、1月30日(木)にはNICTの笠松晃史氏が「高速アナログ回路と光コンピューティングの融合を目指して」というタイトルで講義を行う予定だ。
8月上旬には、入門的内容および研究の基盤的内容のレクチャーを行う「講義」と先端研究の概要レビューを行う「集中ゼミ」で構成される「光と情報」サマースクールもオンライン開催される。
これらのイベントの詳細は、下記URLにてご参照いただきたい。
https://www.photoniccomputing.jp/activities/
(川尻 多加志)