December, 12, 2024, 東京--
光産業技術振興協会のフォトニックデバイス・応用技術研究会が11月20日(水)、産業技術総合研究所 臨海副都心センター別館(東京都江東区)において、第33回フォトニックデバイス・応用技術研究会ワークショップを開催した。今回のテーマは、今話題の「AIとフォトニクスの未来」。以下に当日の講演題目と発表者を記すとともに、次章において各講演の概要を紹介する。
◆開会の挨拶:フォトニックデバイス・応用技術研究会ワークショップ担当幹事
◆【基調講演】生成AIに係る日本の政策動向について:古賀有紀彦氏(経済産業省)
◆光リザーバーコンピューティングと光意思決定の最新動向:菅野円隆氏(埼玉大)
◆低消費電力AIを目指したシリコンハイブリッド光回路の展望:宇髙勝之氏(早稲田大)
◆AI/ML用サーバーを支える超高速光デバイス技術:山内康寛氏(三菱電機)
◆AIデータセンタ実現のための光ファイバ配線技術の動向:小田拓弥氏(フジクラ)
◆デジタル化 ~データサイエンス~ AI迄 光部品製造の改革:Sanguan Anantathanasarn氏(Furukawa FITEL〈Thailand〉)
◆閉会の挨拶:下村和彦氏(上智大、フォトニックデバイス・応用技術研究会代表幹事)
我が国の経済成長を牽引するAI
インターネットや携帯電話などの情報通信技術が1990年代後半から急速に普及する中、インフラ整備をはじめICTやデータの利活用への支援策が実施され、我が国のデジタル化は急速に進展した。
このような状況の中で、さらなるデジタル社会を実現するカギの一つと言われているのがAIだ。中でも生成 AIは、ChatGPTがサービスを開始して以来、世界中の注目を集めている。
生成AIが従来のAIと違う点は、学習したデータに類似した新たなデータを生み出すという点だ。自動運転やロボット、創薬など、広範な分野において変革をもたらす可能性を有しており、人手不足という課題を抱える我が国の経済成長を牽引すると期待を集めている。
生成AIの技術的進展は日進月歩であり、国際的な開発競争も激化している。スピード感を持って官と民が連携し、国内における生成AIの利活用の推進や開発力強化に向けた取り組みを実施していくことが求められている。
経済産業省では、生成AIの利活用を促進するために人材育成を推進するとともに、今年2月に生成AIの開発力強化プロジェクト「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」を立ち上げた。国内のスタートアップ等に対し、生成AIのコア技術である基盤モデルの開発支援(計算資源の調達や利用料の補助等)を実施するというものだ。
「GENIAC」では国内の生成AI開発力強化に向け、そのコア技術である基盤モデルを促進するために開発に必要な計算資源を一括調達、その利用料を補助するとともにコミュニティ活動にも注力する。プロジェクトは、計算資源の提供支援において1サイクル(開発期間2月~8月)と2サイクル(開発期間10月~来年4月)に分かれており、1サイクル目では10者が選ばれた。採択に関しては開発ノウハウ等の公開が重視され、国内における基盤モデル開発の基礎体力作りを図る。追加公募も行われ、同省では基礎体力作りに一定の成果を上げたと評価している。
2サイクル目では、言語だけでなく画像・動画・音声へのマルチモーダル化や、アニメ・観光・化学などの産業領域における基盤モデル開発を目指す企業・研究機関20者が選ばれた。マルチモーダル化や個別領域に特化したAIも含め、より社会実装を重視した開発を支援する。足元の取り組みとして生成AIの開発から利活用までのバリューチェーン上に存在する課題の解決に資する実証調査を代表的なプロジェクトで実施し、その成果を広く共有する計画だ。
一方、インターネット等のデータのみならず、いまだ利活用が進んでいないデータに基づくAI開発を促進するため、複数のAI開発者とデータ保有者間のデータ連携にあたっての課題等の解決に資する実証事業も実施、その事例・成果を広く共有していく予定だ。公募では3件が選ばれた。
インフラ整備においても、経済安全保障法に基づくクラウドプログラムによるAI開発用計算資源の整備に対する支援や、産総研のAI用スパコンである「ABCI」の拡充を行っている。これらの実施によって2027年度末までに累計60EFLOPS規模の計算資源の国内整備の目標は到達する見込みだという。
生成AIの開発や利活用が進むにつれ、生成AIを用いた偽・誤情報の流布や犯罪の巧妙化など様々なリスクも指摘されている。同省は安全・安心の確保のために、AIに対して「イノベーションの促進」の観点だけでなく、「規律」という観点からも政策を進めるため「AI事業者ガイドライン」の策定・周知を進めるとともに、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)との連携強化にも取り組んでいる。
埼玉大の菅野氏は、光の複雑ダイナミクスを利用したコンピューティング技術として、光リザーバーコンピューティングと光意思決定手法について講演した。
光リザーバーコンピューティングは、リザーバーコンピューティングの物理実装の一方式。時系列情報処理を得意とする機械学習フレームワークだ。学習対象を出力層のみに制限することで、深層学習などと比べ学習コストが低い。光現象・デバイスを利用・実装することで従来のデジタルコンピューティング手法よりエネルギー効率が高く、処理速度を速くできる可能性を持っている。
機械学習の一種である強化学習が対象とする重要課題、「多腕バンディット問題」も取り上げた。複数の選択肢から「良い」選択肢を探索しながら、獲得できる総報酬を最大化することを目的としたもので、光複雑ダイナミクスを用いた意思決定手法の近年の成果が紹介された。
AIの活用によって、データセンタやネットワークにおいていずれ消費電力のボトルネックに到達することが危惧されている。その解決方法として、AIにおける情報処理においても高速で低消費電力に向いた光技術の導入が期待されており、特にAI処理への実用的光技術の導入の上で低コストプラットフォームとしてのシリコンフォトニクスの活用と機能向上のためのⅢ-V族光半導体とのハイブリッド機能融合が有望視されている。
早稲田大の宇髙氏は、AIアクセレレータとしてシリコンを用いた高速な時系列処理が可能なリザバーコンピューティングチップと、光源として耐環境性に優れた量子ドットレーザ、さらにそれらのチップレットハイブリッド集積技術と基礎的検討結果を紹介した。
さらに光ルータやデータセンタ内での低消費電力転送用の光スイッチ、超高速光論理動作が可能な半導体光増幅器を用いたデバイスも紹介、これらの光デバイスをハイブリッド集積に向け現存技術を駆使し親和化や高性能化することで、小型で低消費電力な実用的AI光デバイスの実現が可能となると述べた。
生成AIは、1年で扱うパラメータ数が1桁向上すると言われており、データセンタ内で使用される光トランシーバは、2025年に1レーン当たりの動作速度200Gbpsの送受信デバイス8対を搭載した1.6Tbps光トランシーバの導入がスタート、その先のbeyond200Gbps(すなわち400Gbps)時代に適用される光デバイスと3.2Tbps級の光トランシーバの開発も進められている。
データセンタの消費電力増加は喫緊の課題で、歯止めをかけるべく光トランシーバの低消費電力化のソリューションが検討されている。光トランシーバの消費電力は、光デバイス自体の消費電力よりも周辺電子回路のものが支配的なので、電子回路の機能を間引くための光デバイスの性能向上が必要。GPUの処理速度と帯域密度の向上に合わせて、相互接続のための光インターフェースにも帯域密度向上が求められている。
三菱電機の山内氏は、高速動作に適したⅢ-Ⅴ化合物半導体や集積化に有利なシリコンフォトニクスを用いた高速デバイスの果たす役割と課題について解説した。
AIデータセンタ構築には、CPUやGPUなどの多数のプロセッシングユニットを光トランシーバおよび光ファイバケーブルで相互接続する必要があり、光ファイバ配線技術に対して新たな技術革新が求められている。
光ファイバ配線技術には、大きく分類して「高密度」、「低遅延」、「光デバイスとの高効率接続」の3要素が求められる。フジクラの小田氏は高密度配線ソリューションとして、既存の光ファイバを使った高密度ケーブルや次世代の小型光ファイバコネクタ技術を紹介、光ファイバ自体の高密度化技術として、細径被覆光ファイバや細径クラッド光ファイバ、空間分割多重技術(SDM)を紹介した。
SDM技術は、「弱結合型マルチコアファイバ」、「結合型マルチコアファイバ」、「フューモードファイバ」の3つに分類され、講演では、特に実用化が進んでいる標準クラッド外径の弱結合型マルチコアファイバについて、ファイバ・ケーブルに加えてコネクタや融着接続などの周辺技術も解説された。
低遅延に対する取り組みとして研究が活発化するHollow Core Fiber(HCF)は、従来のガラスコアの光ファイバに比べ 光が1.5倍速く伝搬するため、低遅延で光ファイバ通信を行うことが可能だ。光デバイスとの高効率接続に関しては、シリコンフォトニクスとの高効率接続のための特殊光ファイバや、多数のマイクロLEDと接続するためのイメージファイバなどの技術が紹介された。
光ネットワーク向け光部品や光ファイバ接続融着機に加え、数kW級産業用レーザの製造を行っているFurukawa FITEL(Thailand)では、これまで工場において「手作業が多い」、「データが紙にしかなく、活用に手間がかかる」といった課題を抱えていたという。
そこで、同社では直面する超高齢化社会への対応も鑑みて、持続可能な工場を目指すべくスマートファクトリープロジェクトをスタートさせた。Sanguan氏は、同社における近年のスマートファクトリー活動と成果を報告。プロジェクトに笑顔や喜びに満ちた表情で取り組んでいる従業員の姿も紹介して、活動の価値は事業利益だけでなく、無形価値の創出に一役を買っていると述べた。
第4回研究会の開催
第4回の研究会は来年(2025年)1月14日(火)、住友電工・東京本社(東京都港区)で開催される予定だ。テーマは「光伝送路(パッシブデバイス・光ファイバ全般)」。マルチコア光ファイバや車載光ネットワーク、近赤外光硬化性樹脂などが取り上げられる。詳しくは研究会のURL(下記)をご参照願いたい。
https://www.oitda.or.jp/study/pd/
(川尻 多加志)