October, 1, 2024, 東京--
光産業技術振興協会・多元技術融合光プロセス研究会(代表幹事:理研・杉岡幸次氏)が2024年度の第2回研究交流会を9月4日(水)、東海大学・品川キャンパスとオンラインのハイブリッド形式で開催した。
同研究会は、光源、光学系、材料や構造、形態、物理化学反応、前後工程、制御技術や計測・分析技術など、これまで出会うことのなかった多元的な技術を効果的に融合して有効な光プロセス技術を開発するための議論の場を提供することを目的に設立された。年度ごとに5回、斯界のエキスパートによる講演を中心とした研究交流会を開催している。
今回選ばれたテーマは「スマートレーザー加工技術の最新動向」。5件の講演と会員による話題提供1件が行われた。
スマートレーザ加工の注目の研究開発事例
レーザは材料加工において、もはや必要不可欠なツール。幅広い分野において利用されている。近年では環境負荷が少なく、高品質・高効率・高解像度の材料加工を実現する先端的なレーザ加工技術の研究・開発動向に注目が集まっている。スマートレーザの最新の研究開発事例が紹介された今回の研究交流会、以下にその題目と講演者、講演概要を記す。
◆データ駆動型レーザー加工システムと半導体後工程用超微細レーザー加工:乙津聡夫氏(東大)
レーザ加工の需要が増えるにつれ、加工パラメータの探索を迅速に行うことが求められているが、その探索にAIを用いるという動きが活発化している。
AIの作成に重要とされているのが、高品位で大量のデータ。講演では、研究室内で試みたレーザ加工データの収集方法やAI作成の解説が行われ、さらに実際のレーザ加工機に導入したプロトタイプ機と半導体材料への超微細穴あけの成果が報告された。
乙津氏はこの1年の具体的な成果として、波長266nmのレーザを開発するとともに、データが蓄積された研究室のサーバを改造した加工機と接続、サーバ内の知識を加工機に教えられるようにして、半導体後工程用のABF(味の素ビルドアップフィルム:パソコンの心臓部である高性能半導体に使用されている10~100μmの非常に薄い絶縁フィルム。層間絶縁材のほぼ100%シェアを有している)に微細な穴あけを実施、その結果これまでよりも小さい3µmという穴を開けることに成功した。基礎研究と社会実装は意外と近いと指摘した。
◆レーザー加工分野における少ない実験データ数を用いた機械学習結果を活用する手法の開発:楠本利行氏(光産業創成大)
AIや機械学習(ML)技術をレーザ加工に応用する際、産業として利用できるMLの結果を得るには数千から数万を超える膨大な実験データが必要だ。講演では、少ない実験データ数で作成したMLの結果に対して、MLと一般的なレーザ加工の両方の解析手法を融合させ、MLの結果を有効的に利用する手法の開発が紹介された。
具体的には、学習済みモデルを用いてレーザ加工分野の知見から解析できるグラフなどを作成するとともに、そのグラフをAI分野とレーザ加工分野の両知見から解析。CWレーザ照射時のスパッタの発生状況やフェムト秒超短パルスレーザ加工の除去量を予測して、少ないデータ数で構築した学習済みモデルを有効活用できる可能性を示した。
◆パルス紫外レーザーによる材料表面ナノ微細加工の進展とその応用:草場光博氏(大阪産業大)
ナノ微細構造を材料表面に形成させると、撥水性や抗菌性、無反射性といった新しい機能の付与が可能となる。草場氏は、レーザ波長248 nmのKrFエキシマレーザを融解閾値フルエンス以下のレーザフルエンスで照射、シリコン太陽電池表面に回折限界以下の先端約20 nm、大きさ60nm~120nmのナノドット構造を高密度形成したナノドット構造(微小突起構造)をレーザの波長間隔で形成させることに成功した。
草場氏は、融解閾値フルエンス以下の領域に新しいナノ微細構造形成メカニズムが存在すると指摘、実際の実験では波長500nmでの反射率を約5%に低減することに成功し、将来は無反射化も可能だとした。また、結晶性をほぼ保持した状態で圧縮応力が付与できるので、バンドギャップを高エネルギー化でき、分光感度ピークの短波長化によって高効率なシリコン太陽電池が実現できると述べた。
◆レーザーアブレーションによる衛星の姿勢・軌道制御:小川貴代氏(理研)
宇宙空間の利用が進む中で、軌道制御ができなくなった衛星や故障した衛星、一部の権威主義国家によるキラー衛星の実験などで生じた宇宙デブリが深刻な社会問題となっている。それらを除去するため現在様々な方法が提案されているが、磁石やロボットアームなどを使用する物理的接触が必要な方法は、デブリ除去衛星側の安定した姿勢維持が難しいという問題を抱えている。
小川氏の研究チームは、レーザアブレーションによって発生するプラズマジェットを力の発生源として、物理的接触なしでデブリを除去する方法を提案。研究では、アブレーションによる推⼒発⽣の最適条件検討や定式化のためのアブレーション実験と理論検討を実施、衛星搭載に向けたレーザ開発を行っている。目標は波長1064nm、出力1GW以上、パルス幅は第1段階の計画で1nsから20ps、第2段階では1ps以下を掲げる。小川氏は、宇宙空間での利用を想定した評価試験なども今後の課題だと指摘した。
◆鋼板切断用レーザーを利用した金属材料の発光スペクトル測定とAIによる材料判定:河野陽平氏(HSG)
炭素鋼板への加工不良などを防ぐには、加工前に炭素鋼の種類の判別や元素比率の測定が有効だ。同社は、炭素鋼切断可能な1kW以上の高出力(マイクロ秒可変)レーザを用いて、炭素鋼の発光スペクトルを測定。その結果、既存のナノ秒レーザでの測定に比べて、強度は小さいがアルゴンガスおよび窒素ガスを利用せずに炭素鋼中の鉄、クロム、マンガンの元素ピークを示すスペクトルを得ることに成功した。
開発したNN(ニューラルネットワーク)-AIは、ハードウェア環境が変わると精度も下がる傾向を示したが、AIプログラムとデータ取得を改善すれば、判定正解率を80%以上にできるという。講演では最近の研究として、菱マンガン鉱や黄鉄鉱Fe系といった他の金属材料などの判定についての報告も行われた。
◆話題提供「レーザー溶接の溶け込み深さモニタリング技術」:川上佳剛氏(NISHIHARA)
同社はこれまでレーザ溶接モニタリング装置や保護ガラス汚れ検知装置など、レーザ加工時のインラインモニタ装置の開発・製品化を行ってきた。講演では近日発売される予定の新製品、溶接深さ検知装置「NWA-1」が紹介された。
この製品は、レーザ溶接時に発生する溶接音を、周波数20Hz~100kHzに感度を持つマイクフォンで検出することで深さを推定し、リアルタイムで全点検査を行う装置だ。その仕組みは、周波数フィルタや移動平均など、得られた波形に対し適切な成形処理を行うことで、レーザ溶接時の溶け込み深さの推移に近い波形形状を得るというもの。これらの波形と実際の溶け込みの深さから、1次近似式などで近似値を導出することで溶け込み深さを推測する。
第4回研究交流会
2024年度・第4回研究交流会は12月9日(月)、御茶ノ水トライエッジカンファレンスとオンラインで「レーザーマクロ加工技術の最新動向」をテーマに開催される予定だ。詳細は、研究会ホープページ(下記URL)に掲載される予定なので参照願いたい。
https://oitda.or.jp/study/mt/
(川尻 多加志)