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光量子センシング研究の最前線
可視光検出器で赤外分光が可能に

January, 9, 2024, 東京-- 

Q-LEAP
 経済的・社会的な重要課題に対し、量子科学技術(光・量子技術)を駆使して非連続的な解決(Quantum leap)を目指そうというのが、文部科学省の研究開発プログラム「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」だ。推進機関は科学技術振興機構(JST)が担当する。
 プログラムでは、プログラムディレクター(PD)の研究開発マネジメントのもと、(1)量子情報処理(主に量子シミュレータ・量子コンピュータ)、(2)量子計測・センシング、(3)次世代レーザーの3つの技術領域において、それぞれでネットワーク型の研究拠点を形成するとともに、技術領域ごとに「Flagshipプロジェクト」と「基礎基盤研究」を行う。量子技術の次世代を担う人材育成を強化するため(4)人材育成プログラムも設けられ、共通的な教育プログラムも開発する。
 実施期間は平成30年度から令和11年度までで、運営体制としてはプログラムを着実に推進するため外部の有識者で構成されるガバニングボードが設置され、文科省が任命するPDが担当技術領域全体の運営総括責任者として研究開発の全般的なマネジメント業務を行う。さらに、PDのマネジメント活動に対して助言や補佐をするため、外部有識者等で構成するアドバイザリーボードも技術領域ごとに設置されている。
 採択されたプロジェクトは、(1)量子情報処理でFlagshipプロジェクト2件、基礎基盤研究6件、(2)量子計測・センシングでFlagshipプロジェクト2件、基礎基盤研究7件、(3)次世代レーザーでFlagshipプロジェクト1件、基礎基盤研究4件で構成される。さらに(4)人材育成プログラムでは共通的コアプログラム1件、独創的サブプログラム3件、量子技術リテラシー普及プログラム開発1件、人材エコシステム形成プログラム開発1件が組まれている。

量子計測・センシングプロジェクト
 このうち(2)の量子計測・センシングのFlagshipプロジェクトは「固体量子センサの高度制御による革新的センサシステムの創出(研究代表者:東工大・波多野睦子氏)」と「量子生命技術の創製と医学・生命科学の革新(研究代表者:量子科学研・馬場嘉信氏)」の2件で、基礎基盤研究の7件のテーマと研究代表者名は以下の通りだ。

高感度重力勾配センサによる地震早期アラート手法の確立:安東正樹氏(東大)
光子数識別量子ナノフォトニクスの創成:枝松圭一氏(東北大)
2重に量子雑音を圧搾した量子原子磁力計の開発:柴田康介氏(学習院大)
複雑分子系としての光合成機能の解明に向けた多次元量子もつれ分光技術の開発:清水亮介氏(電通大)
量子もつれ光子対を利用した量子計測デバイスの研究:竹内繁樹氏(京大)
量子センシング高感度化への複合欠陥材料科学:寺地徳之氏(物質・材料研)
次世代高性能量子慣性センサーの開発:中川賢一氏(電通大)

量子もつれ光子対を利用した量子計測デバイスの研究
 電子や光子などの量子は、通常の物体とは異なった振るまいをする。その量子個々の振るまいや相関(量子もつれ)を制御することで、飛躍的な計算能力を持つ量子コンピューターや、盗聴不可能な暗号を生成する量子暗号、さらには従来の計測技術の限界を超える量子センシングなどを実現する「量子技術」研究が、いま世界中で精力的に進められている。本稿では、基礎基盤研究の中の「量子もつれ光子対を利用した量子計測デバイスの研究」にスポットライトをあて、その概要を紹介する。
 プログラムの研究代表者を務める京大教授の竹内繁樹氏の目標は、周波数相関を持つ量子もつれ光子対を利用した量子計測デバイスの開発。特に、量子もつれ光を用いた赤外量子吸収分光装置を開発して、可視光検出器による高感度赤外吸収分光測定の実現を目指す。竹内氏は、量子もつれ光を用いた新しいセンサ技術の開発によって量子計測・センシングのプラットフォームに貢献したいと抱負を述べている。
 研究グループでは、量子もつれ光の干渉を用いて可視光のみの検出で赤外分光を実現する「フーリエ変換型赤外量子分光法」を提案・実証した。黒体輻射の影響を受けない(装置内部やサンプルそのものから発せられる赤外光の影響を受けない)のが最大の特長で、この方法を適用すればスマートフォンなどで用いられているシリコン光検出器で赤外吸収スペクトルや屈折率スペクトルを取得できるようになる。
 具体的には、電池でも動かせるコンパクトな赤外分光装置や、超高速時間分解測定のできる赤外分光、さらには(1μm)3以下の超高分解能を持つ光断層撮像など、分析装置の飛躍的な小型化や高感度化が実現でき、量子センシングの社会実装のさきがけになると各方面より期待を集めている。
 昨年の9月には「光量子センシング社会実装コンソーシアム(KU-PhotoniQS)」も発足した。竹内研究室の光量子技術を核に、基礎基盤研究および医療、製造管理、セキュリティ分野などへの社会実装を目指した共同研究を推進するとともに、産業界が相互に連携し社会実装を加速するエコシステムの構築を目指す。
 世界における最新動向や最先端の非公開開発状況などを会員間で共有するとともに、会員企業や大学の研究者・担当者の間のネットワークづくりと社会実装に向けた知見を共有し、KU-PhotoniQS代表者等との相談会も行う。

ワークショップとシンポジウム
 産業界や大学等の若手研究者・技術者をはじめ、光量子センシングに対する理解を幅広い人々に持ってもらうためのワークショップも毎年開かれている。昨年11月には第4回ワークショップが京大で開催された。
 2月8日(木)には、Q-LEAP全体の研究開発成果を紹介する文科省主催の「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)第6回シンポジウム」も開催される予定だ。詳しい情報は下記URLを参照していただきたい。
https://www.jst.go.jp/stpp/sympo/2024/q-leap.html
(川尻 多加志)