January, 18, 2021, 東京--物質や材料の光に対する性質をマイクロメーターオーダーで制御する事で光学特性を強調したり、新たな機能を発現させることを可能にしたマイクロ固体フォトニクス。
マイクロ共振器によって固体レーザの小型化を実現したマイクロチップレーザは、機能集積した極めて小さな体積から高輝度で制御された光波を創り出すだけでなく、従来の高出力レーザの大幅な小型化を実現し、場所が限定されない利用を可能にすると期待を集めている。
一方、これらをビルディングブロックとして組み上げれば、これまでは不可能だった極限的な高出力レーザや波長・位相を自由自在に制御できるレーザの実現も可能になると言われている。
レーザ加工の特長である高輝度性を利用した非熱加工や衝撃波を用いた加工には、尖頭値が非常に高いジャイアントパルスが必要となる。その発生には共振器品質因子Q(quality factor)を短時間に切り替えて、レーザ媒質中に蓄積された反転分布エネルギーを瞬時に取り出すQスイッチ法が用いられる。
Qスイッチ法は、蛍光寿命が長い希土類固体レーザに適しており、端面励起で共振器長を短くすることが容易だ。パルス幅は共振器長に比例するので、出力するパルス幅を短くでき、その結果出力ジャイアントパルスの尖頭値を高くできる。
このQスイッチとセラミックレーザを用いてジャイアントパルスを発生させる小型集積レーザ(Tiny Integrated Laser:TILA)がいま注目を集めている。
DFC構造を用いた小型集積レーザ
固体レーザの高出力化を阻む要因とされるのが熱問題だ。量子欠陥に伴って起こる発熱に起因した熱レンズや熱複屈折などによる光学的な特性変動によって発振が不安定化して、さらには歪みによって機械的な破壊にまで至るという現象が起こってしまう。
固体レーザの媒質形状には、ロッド型、ファイバ型、薄ディスク型などの種類があるが、典型的な固体レーザの形状であるロッド型は、高出力時にこの熱問題が生じてしまうという問題を抱えている。
長さの取れるファイバ型は、高出力動作が望める。表面積が広くなればなるほど排熱が良くなるからだ。ただし、断面積が狭く高出力パルス動作に損傷しやすいという弱点がある。
素子断面積が広い薄ディスク型は、高出力パルス動作に適しているが、面冷却を行うことで熱問題を解決するにはレーザ媒質を極端に薄くしなければならない。これが励起光吸収効率と利得の低下に繋がる。このことが要因となり励起構成が複雑になってしまい、発振方向の利得も低く、直交方向の利得が高いので寄生発振が起きやすい。
これに対し、平等拓範氏(理研・放射光科学研究センター/分子研)が新たな高出力レーザ形状として提案したのが、繰り返し透明高熱伝導率材料でレーザ媒質を挟み込んだ分布面冷却(Distributed Face Cooling:DFC)構造だ。
具体的には、複数枚のサファイア板とNd:YAGを交互に直接接合して作製する。DFC構造は高出力レーザや高輝度レーザの最先端技術である面冷却マルチディスクレーザを小型集積レーザとするもので、ジャイアントパルスマイクロチップレーザの性能を飛躍的に高め、新たな科学技術、産業分野の開拓に貢献すると注目を集めている。
応用が期待される小型集積レーザ
小型集積レーザは、レーザ加工、エンジン点火、自由電子レーザや放射光源、粒子加速器の小型化など、多方面での応用が期待されている。そんな中、昨年12月17日(木)には、愛知県岡崎市の分子研で第11回レーザー学会・ユビキタスパワーレーザー専門委員会が「小型集積レーザーがもたらすレーザー駆動粒子加速の可能性」を開催した(Web会議同時開催)。
同委員会(主査:平等氏)では、いつでも、どこでも使えるパワーレーザを目指し、マイクロ固体フォトニクスの議論を深化させるとともに、ジャイアントマイクロフォトニクスを進化させたユビキタス・パワーレーザの可能性や期待される応用展開を図るための活動を続けている。
会議は川合眞紀氏(分子研・所長)による挨拶でスタート、石川哲也氏(理研・放射光科学研究センター長)が「放射光科学の未来とレーザー駆動電子加速」を概説、座長の平等氏は小型集積レーザとその応用について俯瞰的に解説した。
続く講演では、細貝知直氏(阪大/理研)が「レーザー駆動粒子加速がもたらす次世代加速器の可能性」、加藤政博氏(広島大/分子研)が「小型高性能放射光源の応用の展望とその実現へ向けてのレーザー加速への期待」、Franz Kärtner氏(Center for Free-Electron Laser Science at Deutsches Elektronen-Synchrotron
注目を集める小型集積レーザの研究開発は、理研のレーザー駆動電子加速技術開発グループで進められている他、分子研の社会連携研究部門でも実施されている。さらに、同レーザの社会実装を目指す「TILAコンソーシアム」も分子研内に設立された。
コンソーシアムの会員になると社会連携研究部門との共同研究や分子研が所有する知的財産実施に係わる優遇措置に加え、同部門が収集したデータの提供や技術相談も受けることができるという。ご興味ある方は、下記ULRを参照されたい。
https://tila.ims.ac.jp
(川尻 多加志)