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光学薄膜のネクストステージへ!
光学薄膜研究会、2019年度第3回(第34回)研究会を開催

November, 7, 2019, 東京--光学薄膜は、光学部品や光学製品における光学特性の向上には無くてはならないもの。最近では可視光領域のみならず、紫外線や赤外線における需要も高まっている。特に自動運転関連の各種光センサに用いられる光学薄膜には、高機能性や耐久性、信頼性が求められており、ここからも明らかなように、我が国の光学薄膜産業の進むべき方向の一つは、高い技術と高付加価値分野だと指摘されている。
 10月15日(火)、光学薄膜研究会(代表:東海大学教授・室谷裕志氏〈写真〉)主催による2019年度第3回(第34回)光学薄膜研究会と光学薄膜特別セミナーが、東京都港区の機械振興会館で開催された。
 世界トップレベルにあると言われる日本の光産業。光学薄膜についても、その製造装置や成膜材料から最終製品までの分野において世界を牽引している。しかしながら、グローバル化によって多様化する現代社会で時代の潮流を読み取り、光学産業分野が成長していくには、常に新しい情報収集と勉強が不可欠だ。同研究会は、そのための情報交換・勉強の場として2011年3月に発足、法人会員数(2019年5月)は現在145に及んでいる。
 同研究会では、その設立目的を「日本の光学分野の活性化を図る」、「光学関係の規格の標準化を進め、日本の国益を守る」、「これらの目的に賛同し、光学薄膜およびその応用技術に興味を持つ研究者や技術者が、光学薄膜に係わる基礎的な事項について深く議論を尽くし、最新の技術議論について情報交換を行う場を提供すること」としている。
 具体的な活動としては、① 定例研究会の開催(各テーマを設定し年3~4回の定例会を開催、光学薄膜に係わる基礎的な事項から最新の技術議論について情報交換を行う)、② JISおよびISO規格の作成支援(光学薄膜の各種環境試験ISO 9211シリーズ等〉の定期的見直し、JIS規格の作成、さらに日本から新たにISOへ提案するなど、標準化作業を進める)、③ 学術講演会への発表支援(応用物理学会等々)、④ 国際会議の開催および開催支援(同研究会が主催または協賛する国際会議・技術研究会などの各種行事を会員向けにいち早く紹介)、⑤ その他(光学薄膜関連問題に関わるホットな話題や産業問題を各企業幹部の方に説明してもらい、これをベースに懇談・勉強を行う)などを展開している。
 同研究会では、2027年度までのロードマップ(長期計画)も作成して、ホームページで公開している。法人会員と個人会員を対象とした、学生から45歳までの「若手の会」も設けられた。

プログラム
 研究会に先駆け、当日午前中には「若手の会」主催による基礎講座が別室で行われた。対象は45 歳以下の研究会会員で、題目は「光学薄膜形成用蒸着装置の安定稼働のために」。基礎講座はこれまで神戸芸術工科大・名誉教授の小倉繁太郎氏が担当してきたが、今回は都合により昭和真空・営業部の瀧本昌行氏が講師を務めた。
 研究会は午後からスタート。冒頭の「代表挨拶」で、東海大学の室谷氏は台風19号で被害に遭った方々へのお見舞いの言葉を述べるとともに、今回の研究会で発表される9件の講演概要を紹介した。この内6件は、後述するOIC 2019(米国開催)で発表されたもので、講演の後にはビューラーとシンクロンの会社紹介も行われた。本稿ではOIC 2019報告を少し多めに、各講演の概要をレポートする。

「ISO 19962 光散乱の詳細説明&ISO 9211-8光学部品のレーザー耐性に関して」
(1)光学部品による散乱光の分光測定方法の規格について~JIS B 7081とISO 19962~:日立ハイテクサイエンス アプリケーション開発センタ・栗田浩二氏
 2017年9月、光学部品による散乱光の分光測定方法規格JIS B 7081が制定され、その2年後の2019年5月、JIS B 7081を元にISO 19962が制定された。JIS B 7081は、平面光学材料の光散乱測定に対する規格で、低散乱から高散乱性まで、すべての散乱性サンプルに対応するもの。汎用的な分光光度計を用いて、分光スペクトルとして直接的に、かつ各波長の特性を評価することができる。栗田氏は、JIS B 7081の概要とISO 19962との相違点(記号の違い:ISOの測定開始波長と終了波長の波長域の明記や積分球の取込角度明記など)について解説した。
(2)ISO 9211-8光学部品のレーザー耐性に関して:ニコン 生産本部加工技術開発部第三開発課・逢坂昌宏氏
 レーザ光学に使用される光学コーティングにおける光学機能の最低限の要求事項を規定するISO 9211-8が2018年12月に制定された。規格では、150~200nm、200~400nm、400~1600nm、1.6~3μm、3~16μmの各波長域において、レーザ出力で区別した密着性、清浄度、化学的耐久性、環境試験、欠陥、レーザ誘起損傷閾値、吸収率、全散乱などの各種パラメータの最低要件を規定している。規格成立については、日本は(装置がないために)記載されている評価ができないとの理由で棄権投票をしたものの成立してしまったという経緯があったという。逢坂氏は今後の課題として、国内における試験機関の確保が必要だと述べるとともに、機関や再測定での測定値のばらつきを減らすため、規格改定も必要ではないかと指摘、今回は規定されていない低出力レーザ耐性における評価の確立も重要だと述べた。

「OIC 2019参加報告」:ニコン 生産本部加工技術開発部第三開発課・真垣葉子氏
 6月3日~7日の5日間にわたり、米国・ニューメキシコ州においてOIC(Optical Interference Coating)2019が開催された。OICは3 年に1 度、北米で開催される光学干渉薄膜の学会。今年で14回目を迎える。真垣氏は、今回の学会概要、基調講演、注目講演、日本からの発表、OIC恒例のコンテストなどについて報告を行った。
 参加人数は347名と増加したが、発表件数は148件に下がった。トランプ政権下で、中国などのビザ取得が難しくなったことが要因のようだ。一方で参加者数が増えたのは、何か新しいものがないかと注目されている証左ではないかという。発表は22か国からあり、発表件数は米国がトップ、続いてドイツ、中国、フランスが続く。日本は7位だ。
 基調講演を行ったのは、ドイツのフラウンホーファー応用光学精密工学研究所・光学薄膜部長のノーベルト・カイザー氏。加速するパラダイムシフトの状況下、カメラやLiDARシステムなどの光学システムや投影光学系は、現実世界とデジタル空間を繋ぐ最も重要な要素とした上で、光学システムは21世紀の経済に不可欠で、付加価値を生むのは光学部品とシステムの表面だとして、成膜には高度な技術が利用可能であるが、技能、経験および基本的な理解は依然として必要条件だと指摘したという。
 真垣氏は「まとめ」として、これまでの完璧な2次元膜(均一で欠陥がない膜)を追い求めるスタンスから、メタマテリアルやナノストラクチャーなど、3次元構造にシフトしつつあると指摘した。

「複合成膜手法による低屈折率光学薄膜の光学的特性」東海大学・速水舞氏
 光学機器の小型化には焦点距離の短縮化が必須だが、逆に入射角が拡大してしまうため入射角依存性を改善する低屈折率の光学薄膜が求められている。同大学では、電子ビーム蒸着とスパッタリングを併用したプロセスを開発、速水氏はこのプロセスで成膜した低屈折率光学薄膜の光学的特性を中心に報告した。実用上十分な機械的特性を持つSiO2、MgF2、Al2O3低屈折率光学薄膜の作成に成功するとともに、結晶性を持つ材料は低屈折率化し難く、スパッタリング領域からの漏洩ガスが膜構造に影響を与えるとも指摘した。

「低屈折率SiO2光学薄膜の機械的特性」東海大学・室谷裕志氏
 室谷氏は、同上プロセスにより成膜した低屈折率(n=1.28~1.38)のSiO2光学薄膜の機械的特性を中心に報告。応力が従来の1/10以下という高い機械的特性を有するとともに、超音波洗浄にも耐えることができる実用的な強度と密着性を持つSiO2光学薄膜の作成に成功した。

「“ステップNDフィルター”の作製結果」朝日分光 部品事業部成膜部基礎研究グループ・佐藤一輝氏
 同社では、自社開発スパッタ装置の性能評価のために、マグネトロンスパッタリング法でステップ状の分光透過率を有する光学フィルタを作製、設計値に近似した実測値を得ることに成功した。佐藤氏は、高度な分光特性をもつ光学フィルタを歩留まり良く作製でき、様々な分野での応用が期待されると述べた。

「SiO層によるGe/Na3AlF6から成る遠赤外線フィルターの剥離防止」朝日分光 部品事業部成膜部基礎研究G・室幸市氏
 同社は、遠赤外線フィルタ(Ge/Na3AlF6)を構成するNa3AlF6超厚膜に対してのSiO層による剥離抑制効果を見出し、このフィルタを用いてサーマルカメラによる代替フロンガス(HFC-134a)のイメージングに成功した。

「膜応力による基板の反りの定量的計算について」東海光学 開発部・杉浦宗男氏
 成膜によって基板が反ることは良く知られているが、予め成膜後の反りを計算するには基板と膜の機械的、熱的物性など、多くのパラメータが必要。これらを精度良く求めるのは容易ではない。杉浦氏は、拡張したStoneyモデル(1909年、G.Gerald Stoney氏によって提案)にフィッテングパラメータを導入し、多層成膜後の反りを予測する簡易的な計算の枠組みを提案した。

「揺動自転運動による膜厚均一性および成膜粒子入射角均一性の向上」トプコン 製品開発本部設計支援部化学・薄膜技術課・秋葉正博氏
 秋葉氏は、スパッタリング成膜において、自転回転に対し揺動運動を加えることで膜厚均一性および成膜粒子の入射角均一性を向上させる技術について報告。±28mmや±56mmの揺動運動を加えることで、均一化が確認できたという。

「ビューラー(株):会社紹介」ビューラー ライボルトオプティクス事業部・今駒安孝氏
 同社は、食品加工機械や先端材料を扱うスイス企業。2015年、ライボルトオプティクスを事業部として傘下に収めた。光学薄膜用スパッタ装置やイオンビームスパッタ装置、イオンビーム描画装置などが紹介された。

「(株)シンクロン:会社紹介」シンクロン 営業部営業1部2グループ 船谷拓也氏
 同社は1951年に設立され(当時の社名は真空器械研究所、91年に現在の社名に変更)、今では台湾、中国、マレーシア、タイ、アメリカに拠点を持つ。真空薄膜形成装置や真空蒸着装置、スパッタリング装置などが紹介された。

民間企業で活動を展開
 法人会員数145の内、民間企業が144を占める同研究会(残り一つは東海大学)。会員数の多さからも想像に難くないが、研究会には毎回多数の人が参加しており、今回も160名を超える参加申し込みがあったという(台風の影響で当日参加できなかった人もいたもよう)。
 講演終了後、別会場で行われた懇親会も、講演に引き続き参加した人が多く、会場が狭く感じられるほどの熱気あふれるものであった。この辺りは民間企業中心の研究会、情報交換の重要性を認識しているといった感がある。年齢層についても30代、40代のビジネスの第一線で活躍している人が多かったように感じられた。
 産業界の人が多い研究会は、そう多くはない。大学や研究機関の参加者が増え、そこから連携が活発に行われれば、日本の産業競争力の向上にさらに寄与できるのではと感じさせるものがあった。
 次回研究会は、2020年1月24日(金)と25日(土)の両日、一泊二日で愛知県豊橋市のロワージホテル豊橋において開催される。二日目の研究会終了後には、神戸芸術工科大の小倉名誉教授による特別セミナーも開催される予定だ(追加参加料が必要)。詳しい情報は、下記URLホームページにアクセスして、チェックしていただきたい。
http://www.otfse.org/
(川尻 多加志)