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日本光学会、2019年第44回「光学シンポジウムチュートリアル」を開催
テーマは「実用的な最先端の光学設計/光計測/光学素子/光学システム」

July, 10, 2019, 東京--6月26日(水)から28日(金)の3日間、「実用的な最先端の光学設計/光計測/光学素子/光学システム」をテーマに、2019年第44回「光学シンポジウム」が、東大・生産技術研究所(東京都目黒区駒場)において開催された(主催:日本光学会〈会長:コニカミノルタ 山口進氏〉、共催:応用物理学会フォトニクス分科会〈幹事長:物質・材料研究機構 栗村直氏〉)。
 日本光学会(OSJ)は、1952年に応用物理学会内に設立された光学懇話会を前身とし、応用物理学会分科会日本光学会時代を経て2014年9月に一般社団法人として新たに発足、今年で67年を迎える。機関誌である「光学」および英文論文誌Optical Review(電子版)の刊行、年次学術講演OPJ(Optics & Photonics Japan)や光学シンポジウム、冬期講習会などを開催するとともに、応物分科会時代の海外学術交流協定の継承に加え、Thailand Optics and Photonics Society(TOPS)と協定を締結する他、国内ではレーザー学会(LSJ)との連携強化にも取り組んでいる。中でもOPJでは海外学術団体とのジョイントシンポジウムを積極的に企画運営、OSJ-OSA(The Optical Society:米国光学会)ジョイントシンポジウムは、2018年に韓国光学会を加え、Annual Joint Symposia on Opticsへと進化している。
 一方、共催者の応用物理学会フォトニクス分科会も応物の光学懇話会が前身で、2015年組織改編で名称を変更、現在に至っている。量子フォトニクスや非線形フォトニクス、ナノフォトニクス、バイオフォトニクス、光エレクトロニクス、デジタルイメージングといった最先端フォトニクスに関する研究の推進および技術向上を図るため、シンポジウムの開催や若手育成のためのフォトニクス研究会の企画・開催、国際会議の共催、他学会とのジョイントセッション(OSA、OPJ、LSJなど)、応物分科会内講演会やスクール企画、若手研究者の表彰(フォトニクス奨励賞等)、フォトニクスニュースの編集・発行など、積極的に活動している。
 今回の3日間のシンポジウムのうち、初日の26日には2本のチュートリアルが行われ、27日と28日の両日は、招待講演8本と一般講演23本の発表が行われた。以下に、招待講演のタイトルと講演者(27日には、マスコミでも良く取り上げられる落合陽一氏が登壇して注目を集めた)、さらにチュートリアルのタイトルと講演者および講演概要を紹介しよう。チュートリアルは、ともに講演時間が3時間とたっぷり取られていたので、基礎的な知識から最新の応用事例まで、一般の講演ではなかなか体験できない、全体を俯瞰できかつ深い知識を習得できるものであった。

◆招待講演
6月27日(木)
「網膜投影型レーザアイウェア技術:医療福祉応用からスマートグラスまで」菅原充氏(QDレーザ)
「光音響イメージングの現状と医学生物応用の展望」石原美弥氏(防衛医科大・医用工学講座)
「日本から世界へ!誰もが分かり易い“ダイナミックサイン”を目指して~時間的・空間的に変化するサインのデザイン~」坂田礼子氏(三菱電機・デザイン研究所)
「AI・画像処理技術による外観・目視検査の自動化への取り組み」青木公也氏(中京大・工学部機械システム工学科)
6月28日(金)
「フェムト秒レーザ誘起高速現象を活用したガラスの超高速微細精密加工」伊藤佑介氏(東大・大学院工学系研究科機械工学専攻)
「光コムを用いた分光エリプソメトリー」南川丈夫氏(徳島大・大学院社会産業理工学研究部)
「計算機による多様性を実現する社会に向けた超AI基盤に基づく空間視聴触覚技術」落合陽一氏(ピクシーダストテクノロジーズ/筑波大)
「光圧が拓く次世代のナノ光工学」石原一氏(阪大・大学院基礎工学研究科/大阪府大・大学院工学研究科)

◆チュートリアル「超スマート社会・超スマート光学」
6月26日(水)
「光の自在操作技術『光コム』の基礎と応用展開」美濃島薫氏 (電通大・基盤理工学専攻〈写真〉)
 美濃島氏は、自身が研究統括を務めるJST-ERATO美濃島知的光シンセサイザプロジェクトにおける最新の研究成果を紹介。光コム(光周波数コム)は、2005年のノーベル物理学賞受賞に代表されるように精密な光周波数測定手段として知られてきた。一方、光コムの圧倒的に精密な制御性を用いれば、光のあらゆる性質の自在な操作が可能となり、光科学・技術の基盤をなすツールとして、近年その応用分野は飛躍的に拡大している。
 講演では、光コムの発生・制御技術とその特性を活かした応用に関する基礎と、美濃島氏の研究グループが最近実施している最新の応用研究が紹介された。美濃島氏は、光コムは「単なる“ものさし”ではなく、光を自由自在に操作するツール」だと強調、そして「光を真にインテリジェントなメインプレーヤーに」するとともに、「超スマート社会の基盤技術であり、先端科学技術とイノベーションを拓く、あらゆる科学技術の画期的発展」に資するものだと指摘した。

「動的光散乱法によるソフトマターの構造・ダイナミクス計測技術」柴山充弘氏(東大・物性研究所附属中性子科学研究施設)
 ソフトマターとは、高分子やコロイド、液晶といった柔らかい物質群のこと。柴山氏は、光散乱法(静的光散乱法)が高分子やコロイドといったソフトマター研究に応用され始めたのは、1940年代のPeter Debye氏の研究がきっかけであったと解説。その後、静的光散乱法は瞬く間にソフトマターの基礎物性の主力研究手段となり、1960年代になると動的光散乱法、1970年代には電気泳動光散乱法が相次いで開発された。これら光散乱の3手法は現在、コロイド科学、高分子科学といったソフトマター科学だけではなく、薬学や医学、化粧品学、食品科学、環境科学などの分野にも広く使用されており、製品検査の現場においても広く活用されている。
 講演では光散乱法、特に動的光散乱法の原理から測定法の概要に加え、二様分布系の解析や非エルゴード系高分子ゲル、顕微動的光散乱といった発展形について解説され、さらにゲル化解析やプローブ拡散法、ミクロゲルのジャミング転移などの最新の応用事例も紹介された。柴山氏は、「動的光散乱は高分子溶液、ゲル、分散系などの溶質のサイズや形状、ダイナミクスを調べる強力な手段である」と講演を締め括った。

(川尻 多加志)