May, 31, 2019, 東京--光産業技術振興協会光ネットワーク産業・技術研究会(代表幹事:津田裕之氏(慶應大理工学部・教授):写真)の2019年度第1回公開討論会「次世代光伝送・ネットワーク技術の最新動向」が5月24日(金)、東京都江東区の産総研臨海副都心センター別館にて開催された。
同研究会は、光ネットワークにおける光ノード、光スイッチ、光伝送装置、次世代光ファイバ、光アクセス系、光インタコネクション等に関連する産業動向、技術動向、将来展望等をテーマに、年5回の討論会を開催しており、光ネットワーク分野の産業育成と振興、産学官の会員相互の情報・意見交換、交流の場の提供など、これまで積極的な活動を続けてきた。
◆プログラム
今回テーマに取り上げられたのは「次世代光伝送・ネットワーク技術の最新動向」。光ネットワークの今後の進展の中核になると注目される技術の最新動向が紹介された。当日のプログラムは以下の通りだ。
1 挨拶:代表幹事・津田裕之氏(慶應大・教授)
2 High-Capacity Transmission over Multi-Core Fiber:Ben Puttnam氏(NICTフォトニックネットワークシステム研究室・シニア研究員)
3 超高速シンボルレート光信号の発生・伝送・受信技術:中村政則氏(NTT未来ねっと研フォトニックトランスポートネットワーク研究部・研究員)
4 シャノン限界に迫る最新の光変調技術:吉田剛氏(三菱電機情報技術総合研究所・主席研究員)
5 光レイヤーにおけるディスアグリゲーションとサイバーフォトニックプラットフォーム:石井紀代氏(産総研光ネットワーク技術グループ・主任研究員)
◆光伝送・ネットワークにおける最新のトピックス
千歳科技大・教授の山林由明氏から、この4月に代表幹事を引き継いだ慶應大の津田裕之氏は、その「挨拶」の中で「年に5回開催する討論会は、11月のワークショップを除くと、インフォーマルな形でより深い議論ができ、かつ長い時間をかけて様々な内容を詳しく議論ができる」と討論会の特長を紹介、今回の討論会においても活発に議論を深めて頂きたいと述べた。
講演のトップバッター、NICTのBen Puttnam氏は「High-Capacity Transmission over Multi-Core Fiber」の講演の中で、SDM(Space Division Multiplexing)/MCF(Multi Core Fiber)伝送の特徴や様々な広帯域伝送実験(光コムをベースとした伝送テストベッド、22コアファイバを用いた2.15Pb/s伝送、フューモードファイバを用いた280Tb/s伝送、3モード・4コアファイバを用いた1.2Pb/s伝送、19コア一括光増幅器(EDFA)を用いた0.715Pb/s・2009km伝送、フューモードファイバを用いた159Tb/s・1045km伝送等)を紹介、さらに各種マルチコアファイバシステム(MCF伝送におけるMIMO(Multi-Input Multi-Output)、多チャンネル一括デジタル信号処理、SDMネットワーキング、光コム用基準光分配等)について最新の研究開発状況を紹介した。
次に登壇したのは、NTT の中村政則氏。「超高速シンボルレート光信号の発生・伝送・受信技術」の講演の中で、光伝送における伝送容量拡大とチャネル速度の高速化状況を紹介した。さらに、超高速信号生成技術とその最新動向や高速ボーレート光信号生成・受信技術(アナログ・デジタル融合によるDAC(Digital to Analog Converter)の帯域拡張、複素8×2 MIMOによる送受信機不完全性補償、集積化送信機モジュール等)を解説するとともに、アナログデバイスとデジタル信号処理の融合により、1波長当たり1Tb/s超の高速光信号送受信技術を用いてCバンドにおける125GHz間隔35波長のWDM信号を生成、35Tb/sで800kmのWDM伝送に成功したことを紹介、加えて帯域拡張回路とドライバおよび半導体変調器が集積された広帯域送信モジュールを用いた最大192Gbaudという高速ボーレート光信号送受信の実験についても紹介した。
通信効率の限界であるシャノン限界の達成に注目が集まっているが、変調記号の確率分布を整形するProbabilistic Shaping(PS)は、2015年に提案された逆連接との組み合わせによって、その実現性が格段に高まったと言われており、世界中で検討が行われている。三菱電機の吉田剛氏は「シャノン限界に迫る最新の光変調技術」の講演の中で、予備知識として確立やエントロピー、相互情報量について説明、さらに通信路符号化を構成する変調と誤り訂正、PSとDistribution Matcher(DM)を解説するとともに、特に階層化DMを用いた同社のシェイピング符号化と、情報源‐通信路結合符号化によってPSと同時に疑似的な情報圧縮を実現する手法を紹介した。
討論会の最後は、産総研の石井紀代氏による「光レイヤーにおけるディスアグリゲーションとサイバーフォトニックプラットフォーム」。光ネットワークシステムにおけるディスアグリゲーションの潮流を解説した。光ネットワークシステムにおけるディスアグリゲーションとは、光伝送装置をトランスポンダやROADMなどの機能ごとに分割して、任意の組み合わせ・任意の単位で適材適所に導入することを可能にする新たなシステム構成のこと。導入コストやアップグレードコストの最適化、新技術・新製品導入の迅速化を実現すると期待を集めている。講演では、ディスアグリゲーション論議を汎用化した新たな光レイヤのプラットフォームであるサイバーフォトニックプラットフォーム(CPP)も紹介。これは、産総研コンソーシアムの一つであるCCPコンソーシアムで議論が進められているもので、石井氏は要素技術である光デバイスの切替機能の数式モデルと、これを用いたトポロジ記述手法に関する研究開発を紹介した。
◆次回のテーマは光デバイス
デジタルコヒーレント光伝送においてデジタル信号処理技術の果たす役割は大きい。その一方で、光デバイスの研究開発は何処へ向かおうとしているのか、気になるところだ。次回の討論会は7月30日(火)、「光デバイスの最新の技術動向(仮)」をテーマに、東京都港区赤坂の住友電工において開催する予定だ。最新の情報は、同研究会のホームページ(下記URL)で参照して頂きたい。
http://www.oitda.or.jp/main/study/pnstudy/pnstudy.html
(川尻 多加志)