October, 5, 2018, 東京--SSDM2018(2018 International Conference on Solid State Devices and Materials:2018年国際固体素子・材料コンファレンス)が9月9日(日)から13日(木)までの5日間、東京大学の本郷キャンパスにおいて開催された(主催:応用物理学会、Organizing Committee Chair:東大・鳥海明氏、Vice-chair:名古屋大・天野浩氏)。
SSDMは、固体エレクトロニクスの進化・発展によって、人類の生活の質的向上に資することを目的に開催される、日本における伝統ある国際会議の一つ。今年で50周年を迎えた。
前身である固体素子コンファレンスは、国内会議として1969 年に発足した。以後毎年開催されていたが、初めて国際コンファレンスとして開催されたのは1976 年、その後1982 年までは3年に1回、1984年から1990年までは隔年、そして1990 年以降は毎年、国際コンファレンスとして開催されるようになった。1983 年にはそのカテゴリーに材料分野を取り込んで、現在の固体素子・材料コンファレンス(SSDM)に名称を変更した。
同コンファレンスは、固体素子とその材料に関わる研究者に最新の成果を公表する機会を提供するとともに、その問題点や解決法を議論することで進むべき方向を提示することを目的としており、新素子のための新しい物理現象の発見・解明、さらに素子として実現するためのデバイス・プロセス技術、材料物性の評価技術の提案などが毎年発表されている。
今回のコンファレンスは、テクニカルセッション、プレナリーセッション、ショートコース、スペシャルショートコース、インダストリアルセッション、スペシャルシンポジウム、ランプセッション、ポスターセッションなどで構成されており、今年も注目の発表や講演が行われた。
特に10日(月)には、安田講堂で50周年を記念したイベント「スペシャルシンポジウム」が開催された。このシンポジウムでは、インテル設立者の一人で「ムーアの法則」を提唱したGordon E. Moore氏とDRAMを発明してスケール則を提唱したことで知られるRobert H. Dennard氏の両巨頭がインタビュー形式のビデオ講演を行った。若者に向け、Moore氏は「どんなテーマを選ぶのかなど心配しなくて良い。自分が興味を持つものを選び、そこに知的能力を投下して欲しい」と述べ、一方のDennard氏は「自分を突き動かしてきたのはチャレンジだ。ベストな方法はないか、心の持ちようで探せる」と述べた。
この他、トランジスタと半導体レーザで大きな潮流を創出した我が国の2人の先達も講演を行い、さらには新型太陽電池や量子デバイス、光量子コンピュータなど、最先端の分野で業績を築きつつある研究者による講演も行われた。その内容を以下に記す。
◆The Birth and Growth of SSDM and Exploratory Field in Electron Devices Research on the Past and the Present:菅野卓雄氏(東大名誉教授)
◆Progress of Photonic Devices as seen in SSDM Awards:末松安晴氏(東工大名誉教授)
◆Video messages from Semiconductor Device Giants
・Predicted “Moore’s Law”, and cofounded Intel:Gordon E. Moore氏(インテル名誉会長)
・Invented DRAM, and formulated “Dennard Scaling”:Robert H. Dennard氏(IBMフェロー)
◆Perovskite solar cell, its challenges and progresses:宮坂力氏(桐蔭横浜大教授)
◆Quantum Devices 3.0 for the Electronics of the Future:Jochen Mannhart氏(マックスプランク固体物理学研究所ディレクタ)
◆A time-domain multiplexed measurement-based large-scale optical quantum computer:古澤明氏(東大教授)
この中から光エレクトロニクス分野の講演をピックアップすると、東工大の末松氏はSSDM アワードを受賞した研究・開発を中心にフォトニック・デバイスの進展について、紫外・青色発光素子(LED)や固体撮像素子(CCD/CMOSイメージセンサ)/ディスプレイ(LCD/OLED)、光ファイバ通信用半導体レーザや幅広い分野で応用されているVCSELなど、社会の発展に大きく貢献した研究開発事例を紹介するとともに、注目すべき最近の研究として量子ニューラルネットワークコンピュータを取り上げた。
一方、桐蔭横浜大の宮坂氏は、光電変換効率の進展が著しいペロブスカイト太陽電池の歴史的バックグラウンドや最新の研究開発事例を紹介。東大の古澤氏は、注目を集める光量子コンピュータにおいて、世界をリードする自身の研究開発の最新状況を紹介、「フォトンで自由度は高くなる。フォトンはベストな量子ビットだ」と述べた。
今回のコンファレンスでは、次に紹介する二つのセッションも大変興味深かったが、筆者は出席できなかったので、主催者の開催案内ホームページより抜粋させていただく。9日(日)の弥生講堂・一条ホールにおける50周年記念イベント「インダストリアルセッション」は、80年代から90年代にかけて、大学、研究機関、企業、メディアという立場から日本の半導体産業を先導してきた先達たちの貴重な経験をもとに、半導体産業の過去、現在、未来を考察するというもの。メンバーは、元日立の浅井彰二郎氏、元一橋大の中馬宏之氏、元産総研の林豊氏、元東芝の香山晋氏、元日経エレクトロニクスの西村吉雄氏といった方々だ。
11日(火)の安田講堂における「プレナリーセッション」の講演者と講演タイトルは、東北大の小谷元子氏による「A mathematical challenge to a new phase of materials science」、IntelのIan Young氏による「Exploration of Materials and Devices for Beyond CMOS Technology for Computing」、スタンフォード大のZhenan Bao氏による「Skin-Inspired Electronics」だ。
「スペシャルシンポジウム」講演の中で、半導体レーザを開発した末松氏、ペロブスカイト太陽電池を開発した宮坂氏、そして光量子コンピュータ開発に取り組んでいる古澤氏の三氏が選出されたことはすでに述べた。ここから、固体素子分野における日本の光エレクトロニクスのプレゼンスの大きさを感じ取ったのは、私だけではないだろう。
(川尻 多加志)