March, 15, 2018--2月7日(水)、東京・新宿区のリーガロイヤルホテル東京において平成29年度の光産業技術シンポジウムが開催された。主催は一般財団法人光産業技術振興協会(光協会)と技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)。37回目を迎えた今回のシンポジウムテーマは、注目を集める「AI・IoT時代を支えるフォトニクス技術」だ。
AIやIoT、ビッグデータなどが急速に進展する中、光技術の発展はそれらを支える基盤技術として、さらには我が国の産業や社会を牽引する重要なイノベーションを生み出す技術として各方面より注目を集めている。
このような状況の中で開催された今回のシンポジウム、AIを指向したスーパーコンピュータや機械学習プラットフォーム、トリリオンIoT、AI・IoT時代の光技術戦略およびAI・IoTに活用できる超小型シリコンフォトニクストランシーバ等について、各分野のエキスパート達が最新の研究動向を紹介、我が国の光産業・技術が進むべき方向についても言及された。まずは、当日のプログラムを以下に紹介する。
◆開会挨拶:一般財団法人光産業技術振興協会 副理事長兼専務理事 小谷泰久氏
◆来賓挨拶:経済産業省商務情報政策局 情報産業課課長 成田達治氏
◆基調講演:「AIを指向したスーパーコンピュータTSUBAME3およびABCIと光技術への期待」東京工業大学学術国際情報センター教授 松岡聡氏
◆招待講演:「Googleがめざす、誰もが使える機械学習」Google Inc. Staff Development Advocate,Cloud Platform 佐藤一憲氏
◆招待講演:「トリリオンIoT、エッジコンピュータ、標準化先端動向」新世代IoT/M2Mコンソーシアム 理事 木下泰三氏
◆招待講演:「AI・IoT時代の基盤としての光技術戦略」東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 准教授 竹中充氏
◆招待講演:「超小型シリフォト・トランシーバ“光I/Oコア”が切拓く光新市場」アイオーコア(株)代表取締役社長 藤田友之氏
◆講演:「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発 ~CPU間光インターコネクトに向けた小型・大容量光伝送」技術研究組合光電子融合基盤技術研究所 テーマリーダー 関口茂昭氏
本リポートでは、各講演の概要とともに、今年で33回目を迎えた平成29年度の櫻井健二郎氏記念賞の受賞者についても紹介する。
光協会の小谷氏は冒頭挨拶において、前回のシンポジウム「未来の自動車・ロボット・産業機器を支えるフォトニクス」から生まれた成果として、昨年光協会内に自動運転や移動体に関連するセンサ、カメラ、車載ネットワーク、測距技術、情報処理技術を議論するための「自動車・モビリティフォトニクス研究会」が設立されたことを報告した。
今回のシンポジウムでは、政府が掲げる第4次産業革命やコネクテッドインダストリーズにおける主要技術であるAI、IoT、ビッグデータに光技術が役立つのではないかという観点から「光関係のユーザーであるスパコンや機械学習、トリリオンIoT分野の方々から、光に何を望むのかをテーマに取り上げた」と述べた。
来賓挨拶で登壇した経産省の成田氏は、政府はAI、IoT技術を用いて社会課題を解決するため、コネクテッドインダストリーズのコンセプトのもと、さまざまな政策を糾合して、人手不足や高齢化、エネルギー・環境問題といった我が国が抱える問題を解決するとしたうえで、その実現のために政策資源を投入すると述べた。
さらに日本の強みであるリアルデータを持つ大企業や中堅企業と、新しいAIテクノロジーを持つベンチャー企業のコラボレーションをサポートする施策も予算案に盛り込んでいきたいと表明。成田氏は、社会実装に関しても自動車やプラント、家庭といった分野を特定しながら実証事業を進めていくとともに、IT投資減税等の支援策も進めていきたいとして、政府としても光技術の重要性は認識しており「エッジやクラウド、データ伝送分野において光技術の活用をどのように戦略的に進めていくのか。特にクラウド側の次世代コンピューティングにおける光スイッチの実現が重要」との認識を示した。
「AIを指向したスーパーコンピュータTSUBAME3およびABCIと光技術への期待」を講演した東工大の松岡氏は、スパコンやAI、ビッグデータにおいてデータを如何に高速に動かすかという課題に対する光技術への期待を述べた。
松岡氏は1,000万CPUが求められる中、ネットワークの高速化は重要であり、並列学習においてはCPUの演算速度を上げるよりネットワークの広帯域化の方が効果は高く、ディープラーニングにおいては光スイッチが有効であるとの見解を示した。
さらに、2025年から2030年にかけてのポストムーア時代においては、トランジスタの数より帯域やメモリ量の方が高速化に寄与すると予測。そうなれば「コンピューティングの世界で、広帯域でデバイス間をつなぐ光技術が一気にメインストリームになる。われわれと光デバイス技術者の協業は進化していく」と述べた。
「Googleがめざす、誰もが使える機械学習」を講演したGoogleの佐藤氏は、同社が開発したオープンソース機械学習ライブラリーTensor Flowを紹介するとともに、クラウドサービスCloud Machine Leaning Engineとの組み合わせでディープラーニングを低コスト、かつ手軽に活用できる環境を提供できるようになったと述べ、きゅうりの仕分け機を15万円で自作した農家や漁業における乱獲防止、食品工場における不良品検出など、ビジネス領域での導入事例を紹介した。このほか、第2世代デバイスを用いた次世代クラウドサービスなど、「The datacenter as a computer」をコンセプトとした同社のクラウドビジネスも紹介していた。
「トリリオンIoT、エッジコンピュータ、標準化先端動向」を講演した新世代IoT/M2Mコンソーシアムの木下氏は、1兆個(トリリオン)のデバイスを売らなければ儲からないと言われている状況の中、IoT分野で注目されるセンサは小型・低価格、低消費電力・長距離ワイヤレス、エナジーハーベストであることが重要と述べた。
そのうえでMEMS型・印刷型デバイス、低電力で少量のデータを低頻度で伝送する広域無線ネットワーク(Low Power Wide Area:LPWA)、高効率振動発電などの技術が有望だと指摘、社会インフラ事例にみるIoTユースケースや多様化するIoTシステムの技術標準化動向も紹介した。
「AI・IoT時代の基盤としての光技術戦略」を講演した東大の竹中氏は、光協会の光技術策定委員会議長を務める。同委員会は、2030年代に向けて光産業の発展を見定め、光技術の将来ビジョンを広く示すことによって今後の光技術の研究開発の方向付けを行なうことを目的に設立されたもの。これまでに幾つものロードマップを策定してきたが、平成29年度はあえてロードマップを策定せず「AI・IoT時代の基盤としての光技術」に関する技術戦略を策定した。
講演では自動車等の「エッジにおける光技術」、AI学習を実行する「クラウドにおける光技術」、エッジとクラウド間の「伝送技術」の3領域について求められる将来の光技術像が語られた。
竹中氏は、将来発生する年間情報量は自動運転分野で100EB、医療診断分野で10EB、防災・セキュリティ分野で100EB、スマート工場分野で30EBに達すると指摘する。この状況で如何なる光技術が求められるのか、竹中氏は多重化技術・デジタル技術による光伝送帯域の拡大は必須であるとしたうえで、ハードウェア・ソフトウェアによる5G連携と融合化、人間の五感を超越したセンシング機能をもつ高精細マルチセンサーカメラと人工知能推論の組み合わせ、AI学習に必要なネットワーク機能を実現するための高速・多ポート・省電力光スイッチ技術、AI学習・推論に必要な情報処理機能を実現するためのLSIへの高速・大容量・省電力光インターフェースの付与、さまざまな光機能を統合するシリコンフォトニクス等の光電子集積回路技術、光電子集積回路の設計環境・試作環境・教育環境の一環した整備等が重要だと、講演を締めくくった。
「超小型シリフォト・トランシーバ“光I/Oコア”が切拓く光新市場」を講演したアイオーコアの藤田氏は、昨年4月に設立した同社の主要製品「光I/Oコア」の技術を概説、光市場に参入していくための技術面での課題や展望についても述べた。
「光I/Oコア」は、経産省/NEDOプロジェクト「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」の技術成果をPETRAから継承して製品化したもので、量子ドットレーザや光ピン搭載をはじめ、ユニークな特徴を有しており、AOC(アクティブ光ケーブル)以外の領域にも適用できるとのことだ。
「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発~CPU間光インターコネクトに向けた小型・大容量光伝送」を講演したPETRAの関口氏は、CPU間光インターコネクト実現に向け「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」プロジェクトで開発を行なってきたシリコンフォトニクスによるLSIパッケージ上の小型・高密度光トランシーバでの伝送技術とその狙いについて説明。小型・高密度光トランシーバ実装技術の特長、および試作開発品の評価結果などを紹介するとともに今後の取り組みについても述べた。
講演終了後、同会場では恒例の櫻井健二郎氏記念賞授賞式が催された。平成29年度・第33回櫻井健二郎氏記念賞の受賞者は以下の2グループ、計7名だ。
1つ目のグループは「半導体リソグラフィ用高出力ArFエキシマレーザの研究開発とその実用化」を達成したギガフォトン(株)代表取締役副社長CTOの溝口計氏と同・執行役員研究部副部長の藤本准一氏、研究部担当部長の柿﨑弘司氏および東京理科大学研究推進機構総合研究院教授の渡部俊太郎氏の4名。
受賞者等は、半導体リソグラフィ用光源の研究開発とその実用化に長年わたり取り組み、深紫外リソグラフィ用光源で世界初のインジェクションロック技術を実現、さらに世界最高レベルの効率と大出力特性、出力自動可変性、ビーム高安定性を達成することで半導体リソグラフィ用高出力ArFエキシマレーザの開発に成功した。この技術開発は、半導体リソグラフィ用エキシマレーザの世界市場で半分以上のシェア獲得をもたらすなど成功を収め、世界の半導体製造業および我が国の光産業の発展に大きく貢献したことが評価された。
もう1つのグループは「高温度特性半導体量子ドットレーザの開発および実用化」を達成した(株)QDレーザ代表取締役社長の菅原充氏と同・執行役員レーザデバイス事業部事業部長の武政敬三氏、レーザデバイス事業部担当部長の西研一氏の3名。
受賞者等は、10ナノメートルサイズの自己形成半導体量子ドットを高密度・多層・高均一に形成する結晶成長技術を開発して、低しきい値電流特性、高温動作特性、高い戻り光耐性など、量子ドット半導体レーザにそれまで期待されていた特性を実現。さらに、量子ドットレーザの実用化・量産化技術開発を推進して1.3μm帯光通信用をはじめ、光インターコネクト用光源や高温環境下でのセンシング用光源など、多彩な応用分野に展開した。この量子ドット半導体レーザの開発・実用化・量産化は、あらゆるものがネットワークにつながるIoT社会の発展に光産業の側から大きく貢献したことが評価された。
授賞式終了後に同ホテルのロイヤルホールで開かれた懇談会では、関係者をはじめ聴講者、講演者、受賞者等も出席、AI・IoTと今後の光技術の関わりについて活発な議論が交わされていた。(川尻多加志)