November, 6, 2015--芝浦工業大学工学部の下条雅幸教授と東京工業大学大学院総合理工学研究科の梶川浩太郎教授、同大学修士課程2年海老原佑亮さんは共同で、ハス(蓮)の葉のナノ構造を鋳型に使い、高効率で大面積の「超薄膜光吸収メタマテリアル」の作製に成功した。
研究グループは高分解能走査型電子顕微観察により、ハスの葉の表面に直径100nm程度の多数のマカロニ状のナノ構造があることを見いだし、その上に膜厚10〜30nmの金を被覆するだけで、照射された光をトラップして外に逃がさない光メタマテリアル構造を作製した。このメタマテリアルはすべての可視光領域で反射率が1%以下という良好な光吸収構造となっている。
この成果は、生体が持つナノ構造を鋳型とすれば、様々な機能を持つ大面積のメタマテリアル(バイオ・メタマテリアル)を低コストに作製することにつながると期待される。研究成果は、英科学誌Scientific Reportsに11月4日掲載された。
芝浦工大の下条教授、東工大の梶川教授らの共同研究グループは、ハスの葉を金の薄膜で被覆するだけで、表面に照射した光を吸収する大面積光メタマテリアル構造を作製した。写真で見ると、その中心部分は光を吸収するため黒く、固定のためのテープの表面は金色。いずれも金が被覆されているが、その違いは明らか。金を被覆しても黒くなる性質は、ハスの葉が持つ多数のマカロニ状のナノ構造が光をトラップするためと考えられる。
比較のため、同じように金で被覆してもドクダミの葉はに金色。ヨモギやサンショウ(山椒)の葉を被覆しても同様に金色である。ドクダミはナノ構造を持たないことから、ハスの葉のナノ構造が光のトラップに重要な役割を果たしていることがわかる。
この構造は10〜30nmという極めて薄い金属膜で光吸収構造が構築できるため、太陽電池の効率向上や高効率の光熱変換材料として期待できる。また、自然界のナノ構造を使った様々な大面積光メタマテリアル実現の可能性を示唆している。
光メタマテリアルは人工的なナノ構造を使った特異な光学的性質を示す物質。負の屈折や物質の不可視化(クローキング)、高効率光吸収構造などに利用できる可能性があるため、多くの研究者の注目を集めている。光メタマテリアルの多くは、これまで微細加工技術を使って作製されてきた。そのため、低コストで大面積の光メタマテリアルを作製することは困難だった。
研究グループは自然界のナノ構造を利用して、特異な光学的性質を持つ人工材料の作製に成功した。自然界のナノ構造を利用すれば低コストで大面積のメタマテリアルが作製できる可能性があるため、基礎的な興味だけでなく応用上も意義がある。今回は高効率な光を吸収する構造を研究した。
(詳細は、www.shibaura-it.ac.jp)