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東京工業大学と東北大学、光で電気の流れを止める

October, 28, 2015, 東京--東京工業大学と東北大学の研究グループは、銅酸化物超伝導体中の電気の流れをレーザー光でオフ・オンする方法を発見した。
 研究グループは、東京工業大学大学院理工学研究科の深谷亮産学官連携研究員(現高エネルギー加速器研究機構特任助教)、沖本洋一准教授、腰原伸也教授、同応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、東北大学大学院理学研究科の石原純夫教授らで構成されている。
 光を使って金属的物質(導体)を絶縁体にする(電気の流れを止める)ことは困難とされていたが、梯子構造を有する材料の特異なホールペアの動きを利用して、光励起による電気の流れのオフ・オンを初めて実現した(「隠れた絶縁体状態」と呼ばれる)。
 さらに光パルス列を対象試料に照射することで、室温を含む広い温度域で1ピコ秒(1ps)以内に絶縁体⇄金属の変化を双方向で切り替えることにも成功した。これにより、室温かつ10兆分の1秒以下で超高速動作する次世代光スイッチングデバイス開発へ道を拓くことが期待される。
 東工大の深谷研究員(現高エネ機構)らの研究グループは、笹川准教授らが合成した金属状態の梯子型銅酸化物結晶(Sr4Ca10Cu24O41=ストロンチウム・カルシウム・銅酸化物)の電気伝導性を0.1psの時間幅を持つパルスレーザ光照射で瞬時に抑制することに成功した。これまで光照射では実現困難とされてきた、金属から絶縁体へ変化する(通常の光伝導ではなく、光抵抗とも呼べる)新奇な現象を発見した。
 対象の物質は高温超伝導の舞台である銅と酸素で構成されたCuO2ユニットが梯子状に連なった構造を有しており、低次元銅酸化物で唯一超伝導を示すことが知られている。この物質の金属状態は、電気伝導を担うホール(正孔)がペアを組み、結晶中をペアを組んだ状態でお互いに位相(間隔)をそろえて動いていると推測され、この波としての周期的性質が高温超伝導発現の鍵を握っていると考えられている。したがって、ホールの数とホールペアの動きをコントロールすることにより、電気伝導性を制御することが可能となる。
 この物質では、ホールペアの波としての周期的性質が強い金属状態とその性質が弱い絶縁体状態への変化が、赤外線領域の大きな反射率の増大によって特徴づけられる。そこで同研究グループは、0.1psの光パルスを使ったポンプ―プローブ分光と呼ばれる測定手法を用いて、金属状態の試料における光照射後の反射率スペクトルの変化を測定した。
 同研究グループが先行して行った絶縁体の試料を使った実験(掲載論文: Journal of Physical Society of Japan, 82, 083707 (2013))では、光キャリアドーピングにより物質中のホール数の増加を反映して、光照射直後に反射率の増大(絶縁体から金属への変化)が観測される。しかし、金属状態で観測された反射率スペクトルの変化はそれとは全く逆の、反射率が減少する応答(金属から絶縁体への変化)を示した。
 この特異なスペクトル変化を理解するため、石原教授らの協力のもと新しい理論モデルを構築。このモデル計算で得られた光照射後の反射率スペクトルにおいても、実験結果と同様に赤外線域の反射率が減少した。
 この現象は、ホールペアの周期性が光キャリアドーピングで生成されたホールの影響で壊され、伝導性が抑制されることを意味しており、この状態は、温度や化学的な元素置換では実現し得ない「隠れた絶縁体状態」であることが明らかとなった。
 同研究グループによる先行研究及び今回観測された光による絶縁体―金属間の変化を利用して、光パルス列を用いた単一試料による絶縁体⇄金属の双方向光スイッチングを試みた。
 両者とも非常に類似した変化を示すことから、光で生成した金属状態に光を照射してもそのホールペアの伝導性が抑制されることが明らかとなり、光パルス列を用いて、0.1psでの単一方向スイッチングに加えて、1ps以内で絶縁体⇄金属の双方向光スイッチングにも成功した。またこの双方向光スイッチング現象は低温から室温にわたる広い温度領域で実現可能であることを示した。
 ホールペアの動きを光制御することにより実現する「隠れた絶縁体状態」を利用した絶縁体⇄金属双方向光スイッチングは、これまでの概念を覆す新しい光制御機構である。このような原理を確立することにより、新規な光制御技術・光機能性物質の開発に明確な指針を与えるだけでなく、室温を含む広範囲の温度域で高速に動作する次世代光スイッチングデバイスへの応用展開に向けて大きく前進すると期待される。
(詳細は、掲載誌: Nature Communications、論文:Ultrafast electronic state conversion at room temperature utilizing hidden state in cuprate ladder system)