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単一光子源方式で世界最長となる120km量子暗号鍵伝送に成功

September, 29, 2015, 東京--東京大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構(東大)の荒川泰彦教授らと富士通研究所(富士通研)、日本電気(NEC)は、共同で単一光子源を組み込んだシステムで世界最長となる120 kmの量子暗号鍵伝送に成功した。
 この成果は、伝送距離を制限する主要因の一つである複数光子の同時発生率を100万分の1にまで抑えた高純度の1.5µm帯量子ドット単一光子源と、極めて低ノイズの超伝導単一光子検出器を用い単一光子源に最適化した光ファイバ量子暗号鍵伝送システムを新たに3者で開発することにより実現した。運用・管理が簡便な単一光子源方式による今回の120kmの伝送距離は東京-宇都宮間などに相当するため、主要都市圏をカバーする盗聴不可能な高セキュア通信の実現に大きく弾みがつくものと期待される。
 東大-富士通研-NECの3者が連携することで、伝送距離を制限する主要因の一つである複数光子の発生率を100万分の1にまで抑えた高純度の1.5µm量子ドット単一光子源と、極めて低ノイズの超伝導単一光子検出器を用い単一光子源に最適化した光ファイバ量子暗号鍵伝送システムを新たに開発し、単一光子源を組み込んだシステムで世界最長(従来比2倍)となる120 kmの安全鍵伝送を実証。この成功は、主として下記の2つの技術開発に基づいている。

1.高純度1.5μm帯単一光子源の開発
1.5µm帯単一光子は、光学的ホーン構造と呼ばれる微細構造の中に配置された量子ドットに対し、特定のエネルギー準位に適合した波長の励起光パルスを照射することで生成される。励起光パルスの照射時間が長いと1回の照射で2個以上の光子が放出されやすくなるが、パルス幅の広がりを抑える分散補償の技術により照射する光パルスの時間幅を圧縮して短パルス化することで、複数光子の同時発生率が1パルス当たり100万分の1にまで抑制された、世界最高水準の性能を有する高純度単一光子源の実現に成功した。

2.超伝導単一光子検出器を用い単一光子源に最適化した量子暗号システムの開発
東京量子暗号ネットワークで稼働中のシステムで使用実績のある、平面光回路をプラットホームとした通信波長帯単一光子源に最適化した低損失な干渉系を用い、現実の光ファイバ網に存在する温度変動や張力変動などに左右されない実用レベルの単一光子量子暗号鍵伝送システムを構築した。これに加え、今回新たに極めて低ノイズの超伝導単一光子検出器を用いることにより、長距離量子暗号鍵伝送システムを実現した。

 3研究機関は、今回の成果をもとに、今後は単一光子源を含めたシステムの小型化および高速化を進め、2020年以降に主要都市圏をカバーする盗聴不可能な高セキュア通信の実現を目指している。